クラウド負荷テストとは?実践手順と導入メリットを徹底解説!

新しいWebサービスの開発や大規模なシステム改修において、本番リリース前の性能検証は欠かせません。

クラウド環境(AWS, Azure, GCPなど)でシステムを構築する場合、スケーラビリティという大きなメリットを享受できる一方で、「アクセス急増時に本当にシステムが耐えられるのか」「設定したオートスケーリングが適切に機能するのか」といった新たな懸念も生まれます。

従来のオンプレミス環境と異なり、クラウド環境で大規模な負荷をシミュレートし、その性能と信頼性を論理的な根拠をもって評価するのがクラウド負荷テストです。

このテストを通じて、予期せぬトラフィック増加によるシステム障害リスクを最小限に抑え、ブランドとユーザーの信頼を守ることができます。

そこで今回は「クラウド負荷テストとは何か」という基本概念から、テストの手順、導入時のコツまで徹底解説します!

▼テストの種類について詳しい内容はこちら▼

クラウド負荷テストとは?

クラウド負荷テストとは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といったパブリッククラウド環境で稼働するシステムに対し、意図的に大量のアクセスや処理要求を集中させ、その性能や挙動を評価するテストです。

本番環境で予期せぬトラフィック急増やイベントが発生した際に、サービスが継続して安定稼働できるか、システムの応答速度(レスポンスタイム)が許容範囲内であるかなどを、リリース前や機能追加時に論理的な根拠をもって確認するために不可欠なプロセスとなります。

従来のオンプレミス環境での負荷テストと異なり、クラウド環境では負荷をかける側のリソース(負荷発生元)もクラウド上で柔軟に調達・解放できる点が最大の特徴です。

これにより、数万〜数十万といった大規模な仮想ユーザーをシミュレーションすることも比較的容易になり、実運用に近い、より現実的なテストが可能になります。

このテストを通じて、システムのボトルネック特定、適切なインフラ構成の検証、そして将来的なスケーラビリティの計画に役立てられます。

負荷テストの目的・役割

負荷テストの主な目的は、システムが直面する可能性のある負荷条件下で、期待される性能を維持できるか、あるいはどこまで耐えられるかを明確にすることです。

具体的には、以下の4つの重要な性能指標を確認するために実施されます。

スループット(処理能力)の確認

システムが単位時間あたりに処理できるトランザクション数やリクエスト数を測定します。

これは、システムのキャパシティ(容量)を示す最も重要な指標の一つです。

レスポンスタイム(応答時間)の確認

ユーザーがリクエストを送信してから応答が返ってくるまでの時間を測定し、ユーザー体験を損なわない速度が維持されているかを評価します。

システムの性能劣化を早期に検知するために不可欠です。

耐久性(安定稼働時間)の確認

長時間にわたって一定の負荷をかけ続けた際、メモリリークなどによる性能の緩やかな低下や、システムが停止せずに安定して稼働し続けられるかを検証します。

スケーラビリティ(拡張性)の確認:

アクセスが増加した際に、クラウドの自動スケール機能が適切に作動し、性能を維持できるかを検証します。

逆に負荷が減少した際に、リソースが適切に縮小(スケールイン)され、過剰なリソースコストが発生しないかも含めて評価します。

これはクラウド環境特有の重要な評価点です。

これらのテスト結果を裏付けとして、システムの設計やインフラ構成の最適化、リソースの適切なプロビジョニングを行い、本番環境での障害リスクを最小限に抑えることが負荷テストの役割です。

クラウド環境特有の注意点

クラウド環境で負荷テストを実施する際には、従来のオンプレミス環境にはなかったいくつかの注意点と、それに付随するコスト管理の側面を考慮に入れる必要があります。

負荷元リソースの調達と管理

大規模な負荷を発生させるためには、クラウド上に多数の仮想マシン(VM)やコンテナが必要になりますが、これらのリソースをテスト時だけ迅速に立ち上げ、テスト終了後には速やかに解放(シャットダウンまたは削除)しなければ、テスト期間外の課金が発生し続けることになりかねません。

テスト計画には、負荷発生ツールのデプロイと解放の自動化を組み込むことが重要です。

スケール挙動の検証

クラウドサービスが提供するオートスケーリング機能は便利ですが、負荷の急増に対して設定した閾値やクールダウン期間によって、スケールアウトが間に合わない「遅延」が発生するリスクがあります。

また、必要以上にリソースが増加(オーバープロビジョニング)して無駄なコストを生む可能性もあるため、テストを通じて適切なスケーリング設定のパラメータを見極める必要があります。

特に、最小台数を「0」に設定しているサーバーレス環境では、アクセス開始時に発生するコールドスタートの挙動とレスポンスタイムへの影響を把握することが求められます。

コスト管理

負荷テストは大量のリソースを一時的に使用するため、想定外のインフラ利用料が発生する可能性があります。

テスト実行前に予算の上限を設定し、リアルタイムでコストをモニタリングする仕組みを導入することが極めて重要です。

また、クラウドベンダーによっては負荷テスト自体に制限を設けている場合があるため、大規模なテストを実施する際は事前にベンダーへの申請や確認が必要になるケースもあります。

負荷テストの種類

システムがどのような状況下でどのように振る舞うかを確認するため、負荷テストには目的や負荷のかけ方に応じた複数の種類があります。

ロードテスト(Load Testing)

システムが正常に動作することが期待される「想定される通常の最大負荷」をかけ、その際の性能(スループットやレスポンスタイム)を評価します。

システムの許容量(キャパシティ)を確認することが主な目的であり、このテストを通じて通常の運用に耐えうるか、またボトルネックが存在しないかを確認します。

ストレス/スパイクテスト(Stress / Spike Testing)

ストレステストは、通常の最大負荷をはるかに超える、システムが耐えられる限界点を見つけるために実行されます。

システムが許容量を超えた際に、どのコンポーネントが最初にダウンするか、あるいは回復不能な状態になるかを特定し、障害発生時の挙動を検証します。

スパイクテストは、短時間で突発的に発生する極端なアクセス急増(例: テレビCM放映直後やSNSでの話題化)をシミュレーションし、特にクラウドのオートスケーリング機能がこの急激な負荷に追従し、性能を維持できるかを検証します。

耐久(ソーク)テスト(Soak Testing / Endurance Testing)

数時間、場合によっては数日といった長時間にわたって一定の負荷をかけ続けるテストです。

これは、短時間のテストでは見つけられないメモリリークや、データベースの接続プール枯渇といった時間経過とともに顕在化する潜在的な問題(ボトルネック)を洗い出すために行われます。

クラウド負荷テストの手順

新しいWebサービスのリリースを控える中で、クラウド環境での負荷テストの計画と実施は、安定稼働と信頼性確保のための重要なステップです。

クラウド負荷テストは単にツールを実行するだけでなく、要件定義から結果分析、そしてチューニングまでの一連のサイクルとして捉える必要があります。

ここでは、具体的な手順を5つのフェーズに分けて解説します。

要件定義・シナリオ設計

負荷テストを成功させるための最初の、そして最も重要なステップは、「何を、どれくらい、どうなったら成功と見なすか」を明確に定義することです。

まず、テスト対象機能を具体的に特定します。

ユーザー登録、決済処理、検索APIなど、システムにとってクリティカルな機能や、負荷が集中しやすい機能を中心にリストアップします。

次に、ユーザー行動モデルを設計します。

これは、実際のユーザーがどのような操作をどのような頻度で行うかをシミュレートするためのものです。例えば、「ログイン→商品検索(70%)」「ログイン→決済(20%)」「ログアウト(10%)」のように、各アクションの割合(トランザクション比率)を決定します。

また、ピーク条件の想定は極めて重要です。

通常の最大アクセス数だけでなくプロモーションやイベント、または話題化によるアクセス急増(スパイク)時など、想定される最大トラフィックを具体的な同時接続ユーザー数やスループット(TPS: トランザクション/秒)として数値化します。

最後に、目標とする指標を設定します。

単にエラーが発生しないだけでなく、ユーザー体験を保証する具体的な性能要件を定めます。

例えば「全リクエストの95パーセンタイル応答時間が2秒以内であること」「同時接続数が5,000ユーザー時でもエラー率が0.1%未満であること」といった具体的なKPI(重要業績評価指標)を定義し、テストの終了判断基準とします。

これらの定義が曖昧だとテスト結果の評価やボトルネック特定が困難になるため、論理的な裏付けをもって設定することが不可欠です。

環境準備・インフラ設計

クラウド負荷テストでは、本番環境と極めて近い条件でテストを実施することが、結果の信頼性を高める上で非常に重要です。

まずテスト用インスタンス構成は、本番環境と可能な限り同一にする必要があります。

CPU、メモリ、ネットワーク設定、データベースのバージョンや構成などを一致させ、本番環境の規模をシミュレートした環境を準備します。

特にクラウド環境では、スケール構成・オートスケーリング条件の検討が欠かせません。

テスト対象のオートスケーリング設定(最小/最大インスタンス数、CPU使用率の閾値など)を正確に定義し、負荷が加わったときにリソースが設計通りにスケールアウトするかを検証できるようにします。

次に負荷クライアント構成、つまり負荷をかける側のリソース設計を行います。

大規模な負荷を生成するには、数多くの負荷生成用仮想マシンが必要となります。

これらの負荷元インスタンスが、テスト対象システムと同じリージョンやネットワークに配置されているか、また、ネットワーク制約(帯域幅の制限など)がないかを確認します。

この負荷クライアントの性能が不足すると、テスト対象のボトルネックではなく「負荷元がボトルネック」になってしまい、正しい結果が得られなくなる可能性があるため、負荷生成能力にも十分な余裕を持たせるように設計します。

テスト環境のデータに関しても注意が必要です。

本番と同等のデータ量と性質を持つサニタイズされたテストデータを準備し、テストの再現性と現実性を確保します。

ツール選定と設定

負荷テストの成否は、適切なツールの選定と設定に大きく左右されます。

現在、クラウド負荷テストで広く利用されているツールには、オープンソースのものとSaaS型サービスがあります。

代表的なオープンソースツールとして、GUIで操作しやすいJMeter(Javaベース)、Pythonでスクリプトが書け分散実行が容易なLocust、JavaScriptで記述できCI/CD連携に強いk6などが挙げられます。

これらのツールは自由度が高い反面、大規模な負荷をかける際には、クラウド上の多数のインスタンスに分散させて実行する環境(負荷クライアント構成)を自前で構築・管理する必要があります。

クラウド型ツール(SaaS型サービス)や、各クラウドベンダーが提供する負荷テストサービスは、負荷クライアントの管理をサービス側が行ってくれるため、環境構築の手間を減らし、大規模な負荷をかけやすいメリットがあります。

ツールを選定したら、定義したシナリオに基づき、テストスクリプトを設計します。

ユーザーのアクション、トランザクション比率、パラメータ(ユーザーIDや検索キーワードなど)のバリエーション、セッション管理などを正確に再現できるようスクリプトを作成します。

またテスト実行前にツールの設定が正しいか、例えば接続タイムアウト時間や同時実行スレッド数などのパラメータチューニングを行い、意図しないエラーが発生しないことを確認するための小規模な事前検証(スモークテスト)も実施することが推奨されます。

テスト実行・モニタリング

環境とツールの準備が整ったら、いよいよ負荷テストを実行します。

効果的かつ安全にテストを行うために、段階的に負荷を上げる方式(ステップロード)を採用することが一般的です。

最初にシステムの基礎的な性能を確認するため、ごく小さな負荷からスタートし、段階的に同時接続ユーザー数やスループットを増やしていきます。

この方法により負荷の増加に伴ってどの性能指標が、どの時点で、どれくらい悪化するかを明確に把握できます。

テスト実行中、特に重要なのがモニタリングです。

テスト対象のシステムだけでなく、データベース、キャッシュ、ロードバランサなど、関連するすべてのコンポーネントについて、メトリクス取得をリアルタイムで行います。

取得すべき主要なメトリクスには、リソース使用率(CPU・メモリ・ディスクI/O)、レイテンシ(応答時間)、エラーレート、ネットワークトラフィックなどがあります。

クラウドのモニタリングサービス(CloudWatch, Azure Monitor, GCP Cloud Monitoringなど)を活用し、これらのメトリクスを可視化することで、システムの挙動を正確に把握できます。

また前述の通り、負荷クライアント側にも限界があるため、負荷クライアント側のCPUやメモリ使用率も同時にモニタリングし、負荷元がボトルネックになっていないかを常にチェックする必要があります。

テストの開始と終了には、ウォームアップ期間(システムが安定するまでの助走期間)とクールダウン期間(負荷終了後のリソース解放期間)を設け、意図しない測定結果や課金を防ぐよう注意が必要です。

結果分析・チューニング

負荷テストの実行自体は目的ではなく、結果を分析し、システムを改善するチューニングこそが本質です。

テスト結果を収集したメトリクスと目標指標に照らし合わせ、性能の悪化やエラーが発生した場合は、その原因となるボトルネックの切り分けを行います。

例えばCPU使用率が高ければアプリケーション層の処理に問題がある可能性があり、ディスクI/Oやコネクション数が限界であればDB層に問題がある可能性が考えられます。

また、ロードバランサやWAFの手前でリクエストが詰まっていれば、ネットワークやインフラ設定に原因があるかもしれません。

ボトルネックが特定できたら、それに対する改善案の立案・実施を行います。

コードの最適化、DBインデックスの追加、キャッシュ戦略の見直し、またはクラウドインスタンスのスペックアップ(スケールアップ)や分散化(スケールアウト)といったインフラ構成の変更など、具体的な対策を講じます。

チューニングの実施後には、必ず同じシナリオで再テストを行います。

これは改善策が意図した効果を発揮したかを確認するためであり、また、あるボトルネックを解消したことで別の場所に新たなボトルネックが生まれていないか(ボトルネックの移動)をチェックするためでもあります。

この「分析→チューニング→再テスト」のサイクルを繰り返し、最終的に要件定義で設定した終了判断基準(目標指標を満たすかどうか)を達成するまで継続することで、システムの負荷耐性への不安をなくし、自信をもって本番リリースに臨めるようになります。

導入時・運用時のコツと注意点

クラウド環境での負荷テストを成功させ、その効果を持続させるためには、単に一度実行するだけでなくプロジェクト全体を通して一貫したベストプラクティスを取り入れることが重要です。

特にクラウド環境は変化が速いため、柔軟かつ継続的なアプローチが求められます。

繰り返しテストの重要性(リリース後・変更後も定期的に)

負荷テストは、システム開発の最終段階で行う「一度きりの儀式」ではありません。

特にクラウドネイティブなシステムでは、コンポーネントが頻繁に更新され、機能追加やインフラ設定の変更が日常的に行われます。

これらの変更は、意図せずシステム全体の性能特性を悪化させる可能性があります。

そのため負荷テストをCI/CDパイプラインに組み込み、リリース後や重要なコード変更、インフラの構成変更(例:データベースのバージョンアップ、新しいマイクロサービスの追加など)があった際にも定期的に、または自動で実行することがベストプラクティスとされています。

性能劣化の兆候を早期に発見し、本番環境に影響が出る前に修正できる体制を構築できます。

この繰り返しテストは、システムが常に期待されるパフォーマンスレベルを維持していることの論理的な裏付けとなり、運用における不安要素を大幅に軽減します。

テストを繰り返すことで、過去のデータと比較し、性能改善の効果を定量的に評価することも可能になります。

本番環境との差を小さく保つ(模擬データ、同等環境)

負荷テストの結果を信頼性の高いものにするためには、テスト環境を可能な限り本番環境に近づけることが不可欠です。

本番環境とテスト環境でインフラストラクチャのスペックや構成が異なると、テスト結果から得られたボトルネックの分析が誤ったものになるリスクが高まります。

具体的にはインスタンスタイプ、OS、ミドルウェアのバージョン、ネットワークトポロジ、オートスケーリングの設定など、すべての要素を本番環境と同等に設定する必要があります。

また、データについても、本番環境のデータ量や性質を反映した模擬データ(サニタイズされたデータ)を使用することが求められます。

例えばデータベースのレコード数が少なすぎると、インデックスの性能問題が顕在化しなかったり、逆にデータが偏りすぎていると特定のクエリだけが遅くなるなど、現実のボトルネックを見逃す原因になります。

データの機密性に配慮しつつ、本番の複雑性を再現することが重要です。

この「同等環境」と「模擬データ」の準備に手間をかけることが、テスト結果の裏付けと信頼性を高める鍵となります。

コスト管理:不必要なテスト実行の抑制、無駄なリソース使用回避

クラウド負荷テストの大きなメリットである「リソースの柔軟な調達」は、裏を返せば「コストの増大リスク」でもあります。

テストの失敗や不手際によって、想定外の高額な請求が発生する可能性があるため、厳格なコスト管理が必要です。

まず不必要なテスト実行の抑制として、テストの実行時間や回数を明確に計画し、関係者外が無許可で大規模なテストを起動できないようアクセス制御を徹底します。

テストが終了した際には、負荷クライアントとして使用したインスタンスや、テスト対象環境自体(特にオートスケールで増えたインスタンス)を速やかに停止または削除し、無駄なリソース使用を回避する必要があります。

この「後始末」を自動化するスクリプトや仕組みを導入することが推奨されます。

また、クラウドの費用監視機能(例:AWS Cost Explorer、GCP Billing Reports)を活用して、テスト期間中のコストをリアルタイムでモニタリングし、予算超過の兆候を早期に検知するためのアラートを設定することも重要です。

大規模なテストの場合は、事前にクラウドベンダーへ通知や申請を行い、料金の上限について確認を取ることも、コスト超過を防ぐための予防策となります。

ログ・可視化・アラート設計

負荷テストは、テスト実行中のシステムの挙動を客観的なデータとして捉えることが命です。

そのためには、テスト結果とシステムのメトリクスを適切に収集・分析できる環境が不可欠です。

まず、テスト対象システムやインフラのログは、エラー発生時や性能が劣化し始めたタイミングで何が起こっていたかを詳細に分析するための最も重要な手がかりです。

アプリケーションログ、Webサーバーのアクセスログ、データベースのスロークエリログなど、関連するログを一元的に収集・管理する仕組みを整えます。

次に、CPU使用率、メモリ使用率、I/O待機時間、ネットワークトラフィックなどの主要メトリクスをダッシュボードに可視化します。

この可視化はテスト実行中にリアルタイムでシステムの健全性を監視(モニタリング)するため、そしてテスト後に性能の推移を分析するために役立ちます。

さらに設定した目標指標(例:レスポンスタイムが2秒を超えた、エラー率が閾値を超えた)に達した場合、あるいはシステムリソースが危険なレベルに達した場合に、自動的に担当者に通知するアラート設計を行うことで手動での監視負担を減らし、迅速な対応を可能にします。

これらの仕組みは、負荷テスト時だけでなく、本番運用における信頼性(オブザーバビリティ)確保にも直結します。

スケーラビリティの検証(線形拡張できるか)

クラウド負荷テストの最大の利点の一つは、システムのスケーラビリティを現実的に検証できる点にあります。

クラウド環境の核となる自動スケール機能が、設計通りに適切に機能するかをテストすることは極めて重要です。

検証のポイントは「負荷が増加した際に、それに応じてリソース(インスタンス数)を増やしたとき、性能(スループット)がそれに比例して増加する、すなわち線形拡張できるか」どうかです。

例えばインスタンスを2台から4台に増やしたとき、スループットが2倍近くになれば線形拡張が実現できていると言えます。

もしスループットの増加がリソースの増加に見合わない場合、それはスケールアウトを妨げるボトルネックが、インスタンスの数とは無関係な共有リソース(例:単一のデータベースや認証サーバー、あるいはセッション管理の仕組み)にある可能性が高いと判断できます。

この線形性の検証を通じて、将来的にアクセスが想定以上に増加した場合でも、リソースを投入するだけで対応できるという「将来的なスケーラビリティへの備え」が確認でき、設計の妥当性が証明されます。

この検証は、本番環境での急激なトラフィック増加に耐えうる、信頼性の高いシステムを構築するための重要なステップとなります。 

まとめ

今回は「クラウド負荷テストとは何か」という基礎から、具体的な実施手順、そして運用上のベストプラクティスまでを徹底的に解説しました。

クラウド負荷テストは、単にシステムのスピードを測るだけでなく、アクセス急増やイベント時におけるシステムの耐久性・スケーラビリティを論理的に裏付けるための極めて重要な活動です。

要件定義で目標KPIを明確化し、本番環境に極めて近いテスト環境を準備することが、結果の信頼性を高める鍵となります。

また、JMeterやk6などのツール選定後も、段階的な負荷実行とリアルタイムなモニタリングを通じてボトルネックを特定し、改善のサイクル(チューニング)を回すことが不可欠です。

特にクラウド環境特有の注意点として、リソースの無駄な使用を避けるための厳格なコスト管理と、オートスケーリングが線形に拡張するかの検証が重要であることを強調しました。

これらの知見と手順を活かして負荷テストを導入・実践することで、本番環境での障害リスクを大幅に低減でき、新しいWebサービスやAPIがトラフィックの増加に確実に耐えられるという自信と根拠を得られます。

負荷テストの知識と実践経験は、インフラやバックエンド開発者としての自身の技術スタックを強化し、組織内での市場価値を高めることにも直結するでしょう。

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ