状態遷移テストとは?基礎から実践、チームを成功に導く活用術

複雑な画面遷移や非同期処理が絡み合うシステムテストにおいて、その振る舞いを網羅的に捉え、品質を向上させるための強力な武器となるのが「状態遷移テスト」です。

そこで今回は状態遷移テストの基本的な概念から、具体的な実施ステップ、そしてチームで活用するためのノウハウまでを、品質保証エンジニアの皆様に向けて分かりやすく解説します。

状態遷移テストを深く理解し、日々のテスト業務に活かすことで、より高品質なシステム開発に貢献しましょう!

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状態遷移テストとは?

状態遷移テストは、ソフトウェアやシステムが取りうる様々な「状態」と、それらの状態間をどのように「遷移」するか(状態がどのように変化するか)に着目したテスト技法です。

システムへの入力やイベント発生に応じて状態が変化するようなシステム、例えば、Webアプリケーションの画面遷移、家電製品のモード切り替え、自動販売機の動作フローなどをテストするのに非常に有効です。

このテスト手法を用いることで、システムが予期せぬ状態に陥ったり、不正な遷移を起こしたりしないかを確認し、品質の高いシステム開発に貢献します。

システムの「状態」とは?

ここでいう「状態」とは、システムがある時点においてどのような状況にあるかを示すものです。

身近な例で考えると、エアコンの状態は「電源オフ」「運転中(冷房)」「運転中(暖房)」「タイマー設定中」など、複数の状態を取り得ます。

Webサイトのログイン機能であれば、「ログイン前」「ログイン後」「ログアウト済み」などが状態として考えられます。

このように、システムは様々な状況に応じて異なる振る舞いをしますが、状態遷移テストではこれらの個々の状態を明確に捉え、テストの対象とします。

状態を具体的に理解することで、システム全体の振る舞いを把握するための第一歩となります。

「遷移」の意味合い

「遷移」とは、ある状態から別の状態へとシステムが移行することを指します。

前のエアコンの例で言えば、「電源オフ」の状態から「電源オン」の操作(イベント)によって「運転中(冷房)」という別の状態に遷移します。

Webサイトのログイン機能であれば、「ログイン前」の状態から正しいIDとパスワードを入力して「ログイン」ボタンを押す(イベント)ことで、「ログイン後」の状態に遷移します。

状態遷移テストでは、これらの状態の変化を引き起こす「イベント」と、その結果としてシステムがどのように状態を変化させるのかを明確に捉え、テストケースとして設計していきます。

なぜ状態遷移テストが役に立つのか?

状態遷移テストが有効なのは、従来の機能テストや同値分割・境界値分析といったテスト手法では捉えきれない、システムの複雑な振る舞いを網羅的にテストできる点にあります。

特に、多くの状態と遷移を持つシステムでは、特定の手順を踏むことで初めて顕在化する不具合が存在します。

状態遷移テストでは、状態遷移図や状態遷移表といったモデルを用いて、システムの全ての状態と可能な遷移を可視化し、それに基づいてテストケースを作成するため、このような隠れた不具合を見つけ出すことができます。

また、設計段階で状態遷移モデルを作成することで、開発者とテスター間での認識のずれを防ぎ、仕様の抜け漏れを防ぐ効果も期待できます。

従来のテスト手法が個々の機能や入力値に着目するのに対し、状態遷移テストはシステム全体の振る舞いを時間軸に沿って捉えるという点で、より高度な品質保証に貢献します。

状態遷移テスト実施のステップ

ステップ1:状態遷移図を描く

状態遷移テストの最初のステップは、テスト対象となるシステムの振る舞いを明確にするために、状態遷移図を作成することです。

状態遷移図は、システムが取りうる様々な「状態」と、それらの状態間を移行する「遷移」、そして遷移を引き起こす「イベント」を視覚的に表現したものです。

状態は通常、丸や四角で表され、状態間の遷移は矢印で示されます。

矢印には、その遷移を引き起こすイベント名や条件を記述します。

複雑なシステムでは、状態がさらに細分化されたり、階層化されたりすることもありますが、基本的な記号とルールに従って図を作成することで、システムの全体像と各状態間の関係性を整理することができます。

状態遷移図を描く際には、システムの仕様書や設計書を参考に、関係者間で認識を共有しながら進めることが重要です。

ステップ2:テストケースを設計する

状態遷移図が完成したら、次にその図に基づいてテストケースを設計します。

効果的なテストケースを設計するためには、状態と遷移を漏れなくカバーすることが重要です。

そのための基本的な考え方として、「状態網羅」と「遷移網羅」があります。

状態網羅は、定義された全ての状態を少なくとも一度はテストする考え方であり、遷移網羅は、定義された全ての状態遷移を少なくとも一度はテストする考え方です。

より複雑なシステムでは、「Nスイッチカバレッジ」といった、特定の数の状態を経由する遷移を網羅する考え方も用いられます。

テストケースを設計する際には、正常な遷移だけでなく、予期しないイベントが発生した場合や、無効な遷移が起こらないかといった異常系のテストも考慮に入れることが重要です。

状態遷移図とテストケースを対応付けることで、テストの網羅性を高め、効率的なテスト実行に繋げることができます。

ステップ3:テストを実行する

設計されたテストケースに基づいて、実際にシステムを操作し、テストを実行します。

テスト実行時には、テストケースに記述された手順に従い、システムに適切な入力(イベント)を与え、システムの反応(状態の変化)が期待される結果と一致するかどうかを確認します。

状態遷移テストでは、単に最終的な結果が正しいかだけでなく、状態が意図した順序で遷移しているかどうかも確認することが重要です。

テストの実行結果は、合否だけでなく、実際の状態遷移の履歴や発生した問題点なども詳細に記録します。

自動テストツールを活用することで、多数のテストケースを効率的に実行し、結果を記録・管理することも可能です。

ステップ4:結果を分析し改善につなげる

テスト実行後には、その結果を分析し、システムの品質改善に繋げます。

期待される結果と異なる動作(バグ)が発見された場合は、その原因を特定し、開発チームに報告して修正を依頼します。

バグの修正状況を追跡し、修正された箇所に対して再テストを実施することも重要なプロセスです。

また、テスト結果の分析を通じて、テストケースの網羅性や効率性に課題が見つかった場合は、テストケースの見直しや追加を行うなどの改善策を検討します。

状態遷移テストの結果を分析し、PDCAサイクルを回すことで、テストプロセス全体の品質向上を図ることが、より高品質なソフトウェア開発に繋がります。

状態遷移テストの注意点

導入時のよくある落とし穴と対策

まず、状態遷移図の作成に手間と専門知識が必要となる点が挙げられます。

状態の定義が曖昧だったり、遷移の洗い出しが不十分だったりすると、期待するテスト効果が得られない可能性があります。

対策としては、事前に十分な時間を確保し、関連する設計書や仕様書を徹底的に分析すること、そしてチーム内で状態遷移テストの知識を持つメンバーを中心に図を作成し、レビューを行うことが重要です。

また、複雑すぎる状態遷移図はかえって理解を妨げる可能性があるため、適切な粒度で分割することも検討すべきです。

さらに、状態遷移テストはあくまでシステムの振る舞いに着目したテストであり、機能の網羅性や性能、セキュリティといった他の品質特性を保証するものではないため、他のテスト手法と適切に組み合わせる必要があります。

導入初期には、小規模なシステムや機能から試験的に導入し、効果を検証しながら徐々に適用範囲を拡大していくアプローチも有効です。

チームへの展開:知識共有と教育のポイント

状態遷移テストをチーム全体で効果的に活用するためには、適切な知識共有と教育が不可欠です。

まずは、状態遷移テストの基本的な概念、状態遷移図の作成ルール、テストケース設計の手法などをチームメンバーに理解してもらうための研修や勉強会を実施することが重要です。

座学だけでなく、実際に簡単なシステムの状態遷移図を作成したり、それに基づいてテストケースを設計したりするハンズオン形式の研修を取り入れることで、より実践的なスキル習得を促すことができます。

また、チーム内で状態遷移テストの成功事例や失敗事例を共有し、ノウハウを蓄積していくことも重要です。

作成した状態遷移図やテストケースはチーム内でレビューを行い、改善点を見つけ出すことで、全体のスキルアップに繋がります。

さらに、状態遷移テストの効率化に役立つツールの使い方を習得することも、チームの生産性向上に貢献します。

チーム全体で状態遷移テストの重要性を共有し、積極的に活用する文化を醸成することが、プロジェクトの品質向上に不可欠と言えるでしょう。

さらに理解を深めるために

関連するテスト技法

状態遷移テストをより効果的に活用するためには、他のテスト技法との組み合わせを検討することが有益です。

例えば、システムの入力値の組み合わせを効率的にテストするペアワイズ法や、入力条件と期待される出力を表形式で整理するデシジョンテーブルテストは、状態遷移テストで特定された各状態における振る舞いをより詳細に検証するのに役立ちます。

また、同値分割法や境界値分析は、各状態への遷移を引き起こすイベントの入力値を効果的に選択するために活用できます。

これらのテスト技法を組み合わせることで、状態遷移テストの網羅性を高め、より多角的な視点からシステムの品質を保証することが可能になります。

役立つツール紹介

状態遷移テストの実施を効率化するためには、専用のツールの活用が推奨されます。

状態遷移図の作成を支援するツールとしては、GitMindやLucidchartなどがあり、直感的な操作で状態と遷移を視覚的に表現することができます。

これらのツールは、チーム内での共有や編集も容易であり、テスト設計のコミュニケーションを円滑にします。

さらに、状態遷移図からテストケースを自動生成する機能を備えたツールも存在します。

例えば、GIHOZは、作成した状態遷移図に基づいて、様々なカバレッジ基準(0スイッチ、1スイッチなど)に沿ったテストケースを自動生成することが可能です。

これらのツールを適切に活用することで、テスト設計にかかる時間と労力を削減し、より効率的で網羅的な状態遷移テストの実施が期待できます。

まとめ

今回は複雑なシステムの品質保証に不可欠なテスト技法である状態遷移テストの基礎から実践、そしてチームでの活用について解説しました。

状態遷移テストは、システムが取りうる「状態」と、それらの間の「遷移」に着目することで、従来のテスト手法では捉えきれないシステムの振る舞いを網羅的に検証することを可能にします。

状態遷移テストをチームの武器とし、より高品質なシステム開発の実現を目指しましょう!

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ