ペアワイズ法とは?その概要や手順、注意点を徹底解説!

テスト工数の削減と品質確保の両立は、ソフトウェア開発における永遠の課題です。
特に、複数の条件が絡み合う複雑なシステムのテストでは、すべての組み合わせをテストする「全件テスト」が現実的ではなく、効率的なテスト設計手法が求められます。
そこで注目されているのが、ペアワイズ法(オールペア法)です。
今回はテストケースを大幅に削減しながらも、高い網羅性を保つことができるこの手法について、その概要から具体的な手順、メリット、そして注意点まで、詳しく解説します。

ペアワイズ法とは?
ペアワイズ法とは、複数の条件が絡み合う複雑なシステムにおいて、効率的にテストケースを作成するためのテスト設計技法の一つです。
別名「オールペア法」とも呼ばれています。
この手法の核心にあるのは、「ソフトウェアの不具合の多くは、単一の因子ではなく、二つの因子の特定の組み合わせによって引き起こされる」という経験則です。
この経験則に基づき、すべての因子のすべての組み合わせをテストするのではなく、任意の二つの因子の組み合わせをすべて網羅するようにテストケースを絞り込みます。
この手法の最大の目的は、テストの網羅性を保ちつつ、テストケースの数を大幅に削減することにあります。
例えば、因子が4つあり、それぞれが3つの値を取る場合、すべての組み合わせを網羅すると3の4乗で81個のテストケースが必要になります。
しかし、ペアワイズ法を使えば、これを10個前後のテストケースに減らすことができ、テストの工数を大きく削減できます。
これにより、限られたリソースの中で、より質の高いテストを短期間で実施できるようになります。
ソフトウェアテストや品質保証での位置づけ
ペアワイズ法は、主に組み合わせテストの一環として位置づけられます。
全組み合わせを網羅する全件テストが工数の観点から現実的ではない場合に、効果的な代替手段として活用されます。
特に、OS、ブラウザ、バージョンなど、複数の要素が複雑に絡み合う環境でのテストや、入力フォームの項目が多数ある場合のテストで非常に有効です。
この手法を用いることで、テストケースの数を減らしつつ、高い確率でバグを発見できるため、品質保証の効率を大きく向上させることができます。
しかし、すべてのバグが2つの因子の組み合わせで発生するわけではないという点には注意が必要です。
3つ以上の因子の組み合わせでのみ発生するバグは、ペアワイズ法では見つけられない可能性があります。
そのためペアワイズ法を適用する際には、テスト対象の仕様を十分に理解し、どの因子が特に重要か、どの組み合わせにリスクがあるかを考慮することが重要です。
この手法は、テスト工数とバグ発見率のバランスを取るための強力なツールとして、テスト設計者の間で広く活用されています。
「因子」と「水準」の意味と例
ペアワイズ法を理解する上で不可欠なのが、「因子」と「水準」という二つの言葉です。
・因子(Factor):テストの対象となる条件やパラメータのことです。システムの動作に影響を与えると考えられる要素がこれにあたります。例えば、Webアプリケーションのテストであれば、「OS」「ブラウザ」「ユーザー権限」などが因子になります。 ・水準(Level):因子が取りうる値や状態のことです。例えば、「OS」という因子には「Windows」「macOS」「Linux」などの水準があります。「ブラウザ」という因子には「Chrome」「Firefox」「Edge」といった水準が考えられます。 |
実際のテストケースを作成する際には、まずテスト対象の仕様を分析し、どの要素を「因子」として洗い出すか、そしてそれぞれの因子がどのような値をとりうるか(「水準」)を定義することから始めます。
例えば、オンラインストアの決済機能テストを考えた場合、「支払い方法」を因子とし、「クレジットカード」「銀行振込」「コンビニ決済」を水準とする、といった具合です。
この因子と水準の組み合わせが多岐にわたるほど、ペアワイズ法によるテストケース削減の効果は大きくなります。
ただし因子や水準は無数に存在するため、テストのスコープや仕様を理解した上で、テスト目的に応じて重要な要素に絞り込むことが、より効果的なペアワイズ法の活用には不可欠です。
ペアワイズ法のメリット
テストケース数の削減と効率化
ペアワイズ法は、テストケースを効率的に削減できる点が最大のメリットです。
従来の網羅的な組み合わせテストでは、因子(条件)と水準(値)が増えるたびにテストケース数が指数関数的に増加し、現実的な工数でテストを完了することが困難になる場合がありました。
例えば4つの因子がそれぞれ3つの水準を持つ場合、全組み合わせは81通りになりますが、ペアワイズ法を利用することで、テストケース数を10個前後にまで減らすことができます。
この削減効果は、因子の数が増えるほど顕著になります。
テストケースの数が少なくなれば、テスト設計にかかる時間だけでなく、テストの実行時間も大幅に短縮できます。
これにより、限られた時間や人員といったリソースを有効活用できるようになります。
またテストケースの数が減ることで、管理も容易になり、テスト計画の立案や進捗管理もスムーズになります。
迅速なフィードバックが可能になり、開発サイクル全体のスピードアップにも繋がります。
網羅性とコストバランスの最適化
ペアワイズ法は、テストの網羅性を保ちながら、テストコストを最適化する優れた手法です。
この手法は、「不具合のほとんどは、二つの因子の特定の組み合わせによって引き起こされる」という経験則に基づいており、すべての二つの因子の組み合わせを網羅するようにテストケースを設計します。
これにより、全件テストのような膨大なテストケースを作成することなく、高い確率でバグを発見できる網羅性を確保できます。
すべての組み合わせをテストする「全件テスト」は理想的ですが、工数がかかりすぎるため非現実的です。
一方で、ランダムなテストでは、特定の組み合わせがテストされずにバグが見過ごされるリスクがあります。
ペアワイズ法は、この二つの手法の間に位置し、テストの網羅性と工数のバランスを最適化します。
特に、複数の条件が絡み合う複雑なシステムでは、このバランスが重要となります。
適切なテストケース数で効率よくバグを見つけ出すことが、品質保証と開発コストの両立に繋がります。
バグ検出率向上の理由
ペアワイズ法は、テストケース数を削減しつつも、バグ検出率を向上させることが期待できます。
この理由として、システムの不具合の多くが二つの因子間の相互作用によって発生するという経験則が挙げられます。
独立した因子が原因で発生する不具合は比較的発見しやすいですが、複数の因子が特定の組み合わせで作用することによって発生する不具合は、テストケースを網羅的に作成しないと見逃されがちです。
ペアワイズ法では、すべての二つの因子の組み合わせを網羅するため、この種の不具合を発見する確率が非常に高まります。
例えば、ある特定のブラウザ(因子1)と、特定のOS(因子2)の組み合わせでのみ発生する表示崩れのような不具合も、ペアワイズ法で設計されたテストケースであれば、高い確率で検出可能です。
この手法は、過去の多くの研究や実証でその有効性が確認されており、実際に導入した多くのプロジェクトで、少ないテストケースで効果的にバグを発見できたという報告がされています。
ただし、前述の通り、3つ以上の因子が原因で発生するバグには対応できない可能性もあるため、テストのスコープやリスクを考慮しながら活用することが大切です。
ペアワイズ法の適用シーンと限界
適用が効果的なケース
ペアワイズ法は、複数の要因が複雑に絡み合うシステムや機能のテストにおいて、特に効果を発揮します。
最も典型的な適用シーンは、Webアプリケーションのブラウザ・OS・バージョンなどの環境設定の組み合わせテストです。
例えば、ブラウザにChrome、Firefox、Safari、OSにWindows、macOS、Linux、バージョンに最新版と旧版がある場合、すべての組み合わせをテストするのは現実的ではありません。
このような場合にペアワイズ法を用いることで、テストケース数を大幅に削減しつつ、主要な組み合わせの不具合を効率的に発見できます。
他にも、入力フォームの項目が多数ある場合や、機能の設定項目が複数存在し、それぞれの設定値がシステムの振る舞いに影響を与える場合にも有効です。
例えばECサイトの検索機能において、「カテゴリ」「価格帯」「在庫状況」「ブランド」などの複数の検索条件を組み合わせるテストケースを作成する際に活用できます。
これにより、限られた工数で網羅性の高いテストを実施し、不具合のリスクを低減することが可能です。
向かないケースや注意すべき条件
ペアワイズ法は万能ではなく、適用が向かないケースや注意すべき条件も存在します。
まず、因子の数が少ない場合や水準が少ない場合は、ペアワイズ法のテストケース削減効果が薄れるため、全件テストを実施した方が網羅性が高くなる場合があります。
例えば、因子が2つでそれぞれが3つの水準を持つ場合、全件テストでも9通りのテストケースしか必要ありません。
また、3つ以上の因子の特定の組み合わせによってのみ発生する不具合(トリプルワイズ、フォースワイズなど)を検出することは困難です。
ペアワイズ法はあくまで二つの因子の組み合わせを網羅することに特化しているため、より複雑な因果関係によって引き起こされるバグは見逃される可能性があります。
このようなリスクを考慮し、特に重要度の高い機能や、過去に3つ以上の組み合わせで不具合が発生した実績がある箇所では、ペアワイズ法以外のテスト手法を併用するか、テスト計画をより慎重に検討する必要があります。
ペアワイズ法を適用する際には、どの因子と水準が重要かを事前に十分に分析することも大切です。
テストの目的に合わせて、重要な組み合わせを優先的にテストに含めるなど、ペアワイズ法をそのまま適用するのではなく、柔軟に調整する姿勢が求められます。
ペアワイズ法によるテストケース作成手順
テスト対象の因子と水準の洗い出し
ペアワイズ法を用いてテストケースを作成する最初のステップは、テスト対象となるシステムの因子と水準を正確に洗い出すことです。
因子とは、システムの動作に影響を与える条件やパラメータのことを指し、水準とはその因子が取りうる値や状態のことです。
例えば、ユーザー登録機能のテストであれば、「ブラウザ」「OS」「ユーザー種別」などが因子となり、それぞれの水準は「Chrome, Firefox, Edge」、「Windows, macOS」、「一般ユーザー, 管理者」などになります。
この作業では、テスト対象の仕様書や要件定義書を丁寧に読み込み、どのような組み合わせが考えられるかを整理します。
洗い出した因子と水準が多いほど、ペアワイズ法によるテストケース削減の効果は大きくなりますが、すべての組み合わせを考慮する必要はありません。
テストのスコープやリスクを考慮し、重要度の高い因子と水準に絞り込むことが、効率的なテスト設計に繋がります。
このステップを丁寧に行うことが、その後のテストケースの質を左右します。
組み合わせ表の作成(ツール利用例を含む)
因子と水準の洗い出しが完了したら、次に組み合わせ表を作成します。
ペアワイズ法では、すべての二つの因子の組み合わせが少なくとも一回はテストされるように、最適な組み合わせを導き出す必要があります。
手作業でこの組み合わせを考えるのは非常に複雑で、非効率的です。
そのため、ペアワイズ法専用のツールを活用することが一般的です。
世の中には多くのペアワイズ法ツールが存在し、無料で利用できるものも多数あります。
これらのツールは、洗い出した因子と水準を入力するだけで、自動的に最適な組み合わせを生成してくれます。
例えば、MicrosoftのPICT(Pairwise Independent Combinatorial Testing)や、Web上で利用できるオンラインツールなどがあります。
ツールを使えば、手作業で漏れなく組み合わせを網羅する難しさから解放され、より正確かつ短時間でテストケースを作成できます。
ツールが生成した組み合わせ表をもとに、具体的なテスト手順を記述し、テストケースとして完成させます。
テストケースの優先順位付け
ペアワイズ法でテストケースが生成された後、すべてのテストケースを同じ優先度で実行するのではなく、リスクや重要性に応じて優先順位を付けることが重要です。
ペアワイズ法で生成されたテストケースは、数学的に最適化されていますが、ビジネス上の重要度や過去の不具合発生傾向は考慮されていません。
そのため、テスト設計者は、テスト対象の特性を理解した上で、優先度を決定する必要があります。
例えば新しい機能やユーザー利用頻度の高い機能、過去に不具合が多く発生した箇所に関連するテストケースは、優先度を高く設定し、開発初期段階で実行することが推奨されます。
また、特定のブラウザやOSの組み合わせが、顧客層の中で特に利用者が多い場合も、その組み合わせを含むテストケースの優先度を上げるべきです。
このように優先順位を付けることで、限られたテスト期間内で、より重要な不具合を早期に発見できる可能性が高まります。
このプロセスは、テストの効率をさらに高め、リソースを最も効果的な部分に集中させるために不可欠です。
ペアワイズ法を使う際の注意点
網羅しきれない組み合わせの存在
ペアワイズ法はテストケースを大幅に削減できる強力な手法ですが、すべての組み合わせを網羅しているわけではないことに注意が必要です。
この手法は、不具合の多くが二つの因子の組み合わせによって発生するという経験則に基づいています。
そのため、三つ以上の因子の特定の組み合わせでしか発生しない不具合、いわゆる「3-wayバグ」や「4-wayバグ」は、ペアワイズ法では見逃される可能性があります。
例えば、「OS」「ブラウザ」「ログイン状態」という三つの因子が特定の組み合わせになった場合にのみ発生する不具合があったとします。
ペアワイズ法では、これらの因子の二つずつの組み合わせ(OSとブラウザ、OSとログイン状態、ブラウザとログイン状態)は網羅されますが、特定の三つの組み合わせがテストされない場合があるため、バグを見つけられない可能性があります。
重要な機能やリスクの高い領域では、ペアワイズ法だけでなく、他のテスト技法を組み合わせるか、より高い水準の組み合わせ(トリプルワイズ法など)を検討することも重要です。
因子間の依存関係への対応
ペアワイズ法は、基本的に因子が互いに独立していることを前提としています。
しかし実際のシステムでは、ある因子の水準が、別の因子の水準によって利用可能かどうかが決まるなど、因子間に依存関係があることが少なくありません。
例えば、「支払い方法」として「クレジットカード」を選択した場合にのみ、「カード会社」という因子が有効になるといったケースが該当します。
このような依存関係を考慮せずにペアワイズ法を適用すると、現実にはあり得ない組み合わせのテストケースが生成されてしまいます。
これにより、テスト実行が無駄になったり、テスト結果の信頼性が損なわれたりする可能性があります。
多くのペアワイズ法ツールには、このような依存関係を定義する機能が備わっています。
ツールを使用する際には、事前に依存関係を丁寧に洗い出し、設定に反映させることで、より実用的なテストケースを作成できます。
実務での検証と調整の重要性
ペアワイズ法はあくまでテストケース設計の一つのアプローチであり、生成されたテストケースをそのまま実行すれば良いというわけではありません。
実務においては、生成されたテストケースが本当にテストの目的に沿っているか、そしてその網羅性が十分かを検証し、必要に応じて調整を加えることが重要です。
例えば、生成されたテストケースの中に、ビジネス的に優先度が低い組み合わせや、リスクが低い組み合わせが含まれている場合があります。
このようなケースは、テストの優先順位を低く設定したり、場合によってはテストから除外したりすることで、限られたリソースをより重要な部分に集中させることができます。
また過去の不具合傾向や、特に注意すべき機能領域については、手動でテストケースを追加することも有効です。
ペアワイズ法を導入する際は、ツールが生成した結果を盲信せず、テスト設計者の知識や経験に基づいて、常に最適なテスト計画となるよう調整する柔軟な姿勢が求められます。
まとめ
今回はペアワイズ法の概要から具体的なテストケース作成手順、そして実務で活用する際のメリットや注意点について解説しました。
ペアワイズ法は、「不具合の多くは2つの因子の組み合わせによって発生する」という経験則に基づき、テストケースを大幅に削減しつつ、高い網羅性を確保できる非常に有効なテスト設計技法です。
しかし3つ以上の因子の組み合わせによる不具合や、因子間の依存関係には注意が必要であり、生成されたテストケースをそのまま実行するのではなく、テストの目的に合わせて調整する柔軟な姿勢が求められます。
ぜひ今回の知識を日々の業務に活かし、テスト工数の削減と品質向上を同時に実現してください!
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ