サニティテストとは?その特徴やスモークテストとの違い、メリットなどを徹底解説!

開発の現場では、教科書通りの定義だけでなく、プロジェクトやチーム独自のテスト手法が用いられることも少なくありません。
そんな中で、特に混同しやすいのが「サニティテスト」と「スモークテスト」です。
そこで今回は開発プロセスにおけるサニティテストの役割や、スモークテストとの違い、そのメリット・デメリットについて網羅的に解説します。
この記事を読めば、サニティテストの正しい知識が身につき、自信を持ってテスト作業を進められるようになるでしょう!

サニティテストとは
サニティテストは、プログラムの変更やバグ修正が行われた後、その修正が期待通りに機能するか、そして他の部分に予期せぬ影響を与えていないかを迅速に確認するためのテストです。
日本語では「健全性テスト」とも訳され、文字通り「ソフトウェアが正気を保っているか」「まともに動いているか」をチェックするという考え方から名付けられています。
このテストの最大の特徴は、テストの範囲が狭く、その代わりに対象とする部分を深く掘り下げて検証する点です。
具体的には、修正した箇所やその周辺の機能に焦点を当て、関連する機能が適切に動作するかを確認します。
たとえば、ある機能の不具合を修正した際、その機能が正しく動くようになったかはもちろんのこと、修正が原因で他の機能が動かなくなっていないかを局所的にチェックします。
サニティテストは、テストスクリプト(テスト手順書)を事前に用意せず、テスターの知識や経験に基づいてその場で検証を進めることが多いです。
そのため、迅速に実施できるというメリットがあります。
これにより、より広範囲で詳細なテスト(例えば回帰テスト)に移る前に、最低限の動作保証を素早く確認できます。
スモークテストとの違い
ISTQB(International Software Testing Qualifications Board)は、ソフトウェアテストの国際的な資格認定組織であり、テストに関する用語を体系的に定義しています。
ISTQB用語集では、サニティテストという言葉は「スモークテスト」の同義語として扱われることがあります。
しかし、現場で使われる際には、スモークテストとは異なるニュアンスで区別されることが多いです。
一般的に、スモークテストはシステム全体を浅く広くチェックし、最低限の機能が動くことを確認する「受け入れテストのサブセット」と見なされます。
一方、サニティテストは特定の機能の修正後、その影響範囲を狭く深く確認する「回帰テストのサブセット」として捉えられます。
この違いを理解することは非常に重要です。
システム全体が「まともに動くか」をざっくり確認するのがスモークテスト、特定の変更によって「修正箇所が期待通りに動き、他の機能が壊れていないか」を局所的に確認するのがサニティテスト、と覚えておくと良いでしょう。
どのような場合に実施されるのか
サニティテストは、主に以下の2つの状況で実施されます。
1つ目は、新しいビルド(修正されたソフトウェアのバージョン)がリリースされた直後です。
この段階で、修正が適用された機能が期待通りに動作するかを迅速に確認します。
もしこのテストで重要な不具合が見つかれば、すぐに開発チームにフィードバックし、問題を修正して新しいビルドを再作成してもらいます。
これにより、その後の本格的なテスト工程が無駄になるのを防ぐことができます。
2つ目は、より大規模な回帰テスト(リグレッションテスト)の前に実施される場合です。
回帰テストは、プログラムの変更が既存の機能に悪影響を与えていないかを確認するために、非常に多くのテストケースを実行する網羅的なテストです。
しかし、このテストは多くの時間と労力を要します。
そこで、回帰テストに移行する前にサニティテストを実施することで、最低限の品質を確保し、回帰テストの効率を上げることが可能になります。
このように、サニティテストは開発の初期段階で迅速に実施され、その後のテスト工程がスムーズに進むための「第一歩」となる重要な役割を担っています。
サニティテストの特徴
シンプルに実施できる
サニティテストは、プログラムの修正や変更が行われた際に、その部分が正しく機能するかどうかを素早く確認するために行われます。
このテストの大きな特徴は、その実施が非常にシンプルである点です。
詳細なテストケースや複雑な手順を必要とせず、ごく基本的な操作で修正内容が意図通りに動いているかを検証します。
たとえば、あるボタンの不具合を修正した場合、サニティテストではそのボタンをクリックして期待される画面に遷移するか、あるいはエラーが発生しないかを確認するだけで十分です。
このようなシンプルな検証は、開発サイクルを遅らせることなく、すぐに次の段階に進むための判断材料となります。
台本・文書化を必ずしも必要としない
サニティテストは、厳密な台本や詳細なテスト仕様書を事前に作成しなくても実施できることが一般的です。
これは特定の機能修正に特化しているため、テストの範囲が明確で、担当者の経験と知識に基づいて迅速に実行できるからです。
たとえば決済機能の不具合を修正した場合、テスターは過去の経験から「この修正が他の箇所に影響を与えていないか」を直感的に判断し、関連する主要な操作(例:商品選択、カートへの追加、支払い処理)を手動で確認します。
もちろん、プロジェクトの要件によっては、簡単なチェックリストを作成することもありますが、多くの場合は形式的な文書化は省略されます。
これにより、テスト工程のボトルネックを防ぎ、開発のスピードを維持することが可能になります。
狭い範囲を深く確認する
サニティテストはテストの範囲をあえて狭く限定し、その狭い範囲を深く掘り下げて確認する点に特徴があります。
このテストの目的は、変更が原因で発生した問題を局所的に見つけ出すことにあります。
たとえば、ある機能の入力フォームのバリデーションを修正したとします。
サニティテストでは、その入力フォームに不正な値や正しい値を入力し、期待通りのエラーメッセージや処理が行われるかを徹底的に検証します。
同時に、その修正がフォーム以外の関連機能(例:データベースへの保存処理、他のページへの遷移)に悪影響を与えていないか、その影響範囲に限定して確認します。
このように範囲を絞ることで、問題の早期発見につながり、開発の効率化に貢献します。
テスターが主導して行う
サニティテストは特定の修正やバグ修正が適切に反映されたことを検証するため、専門のテスターが主導して行うことが一般的です。
もちろん開発者自身が行うこともありますが、第三者であるテスターが客観的な視点から、修正内容とその影響範囲を迅速にチェックすることが重要視されます。
テスターは事前に共有された修正内容を基にどのようなテストが必要かを判断し、効率的にテストを進めます。
このテストは、その後の本格的なテスト(例:回帰テスト)を実施するための「門番」としての役割も果たします。
リグレッションテストのサブセットとして機能する
サニティテストは、リグレッションテスト(回帰テスト)のサブセット(部分集合)として機能します。
リグレッションテストは、ソフトウェアの変更が既存の機能に悪影響を与えていないかを網羅的に確認するためのテストです。
しかし、このテストは多くの時間とリソースを必要とします。
そこで、サニティテストが導入されます。
サニティテストは、リグレッションテストに先立って、変更が影響する可能性のある狭い範囲に限定して行い、主要な機能が正常に動作するかを迅速に確認します。
この段階で重要な問題が見つかった場合、本格的なリグレッションテストを実施する前に修正に戻ることでテスト全体の手戻りを防ぎ、効率的に開発を進めることができます。
サニティテストのメリット
サニティテストは、ソフトウェア開発の効率と品質を向上させるための多くの利点があります。
迅速なテストで手戻りを防ぐ
サニティテストの最大のメリットの一つは、その迅速性です。
機能の修正やバグ修正が行われた直後に、その変更が正しく機能するかを素早く確認できます。
ここでもし問題があれば早期に発見し、その場で修正に戻ることができます。
これにより、後工程の回帰テスト(リグレッションテスト)で時間や労力を費やした後に、修正が必要な大きな問題が発覚するといった事態を防ぐことができるでしょう。
つまり、問題が小さいうちに早期解決を図り、手戻りによる無駄なコストやスケジュールの遅延を大幅に削減できるのです。
これは、特に短い開発サイクルで頻繁に更新が行われるアジャイル開発において、非常に重要な利点となります。
コストとリソースの効率化
サニティテストは、厳密なテストケースや詳細なテスト仕様書の作成が不要な場合が多く、テスターの経験と知識に基づいて実施されます。
これにより、テスト工程にかかる文書化や準備のコストを削減できます。
またテスト範囲が狭く限定されているため、テストの実行にかかる時間も短く済みます。
限られたリソース(時間や人員)を効率的に活用し、本当に必要な部分に注力できるため、プロジェクト全体のコストパフォーマンスが向上します。
高い品質を維持
サニティテストは、ソフトウェアの変更が既存の機能に悪影響を与えていないかを確認する回帰テストの一環として機能します。
特定の修正がシステム全体に及ぼす影響を局所的にチェックすることで、より広範囲なテストに進む前に、ソフトウェアの健全性(サニティ)を保証します。
このテストに合格したビルドのみが次の段階へ進むことで、テスト全体を通して高い品質を維持することが可能になります。
これにより、最終的にリリースされる製品の信頼性が高まり、ユーザーの満足度向上にも繋がります。
サニティテストのデメリット
サニティテストは、ソフトウェア開発の効率を上げる上で有効な手法ですが、いくつかのデメリットも存在します。
これらの短所を理解しておくことは、テスト計画を立てる上で重要です。
限定的な範囲のテスト
サニティテストの最大のデメリットは、テスト範囲が非常に限定的であることです。
このテストは、修正した機能やその周辺に焦点を絞って行われるため、システム全体を網羅的に検証するものではありません。
そのため修正箇所から遠く離れた場所で発生するかもしれない潜在的なバグや、他の機能との予期せぬ相互作用による不具合を見逃してしまう可能性があります。
例えばユーザー管理モジュールの修正が、意図せずレポート生成機能に影響を及ぼしていた場合、サニティテストだけではその問題を発見することは難しいでしょう。
テスターのスキルに依存
サニティテストは、テストスクリプトや詳細な手順書が用意されないことが多いため、テストの品質がテスターの知識や経験に大きく依存します。
テスターが修正内容やシステムの全体像を十分に理解していない場合、重要な確認項目を見落としてしまうリスクがあります。
特に、システムの内部構造が複雑な場合や、チームに新しく参加したメンバーが担当する場合、このリスクはさらに高まります。
テストの抜け漏れを防ぐためには、担当者が十分な知識を持っているか、あるいは最低限のチェックリストを用意するなどの対策が必要になります。
報告書の不備
サニティテストはその迅速な実施を優先するため、テスト結果の詳細な報告書を作成しないことがあります。
これによりテストの実施履歴や結果が記録に残りにくく、後からどのようなテストが行われたか、どのような結果だったかを確認するのが困難になることがあります。
特に大規模なプロジェクトや長期にわたる開発では、過去のテスト履歴を参照する機会も多いため、この点はデメリットとなりえます。
文書化を怠ると、後のデバッグ作業や回帰テストの際に、同じテストを繰り返してしまうなど、非効率な事態を招く可能性があります。
サニティテストのプロセス
プロセス1:識別
サニティテストの最初のステップは、テスト対象を明確にすることです。
開発者から「今回のビルドでこのバグを修正した」と報告を受けたら、まずはその修正内容と関連する機能を正確に把握します。
例えば、「ログイン機能でパスワードの入力文字数を増やした」という修正があった場合、サニティテストの対象は「パスワード入力フォーム」と「ログイン後の処理」になります。
この段階では、開発者が修正したコードだけでなく、そのコードが影響を与える可能性のある全ての機能を洗い出すことが重要です。
見落としがあると、後で別のバグにつながる可能性があるため、この識別プロセスを丁寧に行うことが、テスト全体の品質を左右します。
プロセス2:評価
次に、識別した修正や機能が、システム全体にどのような影響を及ぼすかを評価します。
これは、コードレベルでの影響範囲だけでなく、ユーザーインターフェースや他の機能との連携部分も考慮に入れます。
たとえばログイン機能のパスワード入力文字数を増やした場合、その変更がデータベースのスキーマや、パスワードの表示、さらにパスワード変更機能にまで影響しないかを検討します。
この評価プロセスでは、過去の類似修正の事例や、開発者からの情報、そして自身の経験を基に、テストすべき範囲を絞り込みます。
無駄なテストを省き、効率的に問題を発見するためには、この影響範囲の正確な把握が不可欠です。
プロセス3:テスト
最後のステップは、実際にテストを実行することです。
プロセス1と2で特定した対象と影響範囲に基づいて、テストを行います。
この段階では、厳密なテストスクリプトは必須ではなく、担当者の判断で柔軟にテストを進めます。
ログイン機能の例であれば、新しいビルドでログインフォームに長いパスワードを入力して、正しくログインできるか、エラーが発生しないかを確認します。
さらにパスワード変更機能や、セッションの有効期限など、関連する機能が正常に動作することも同時にチェックします。
テストの結果、問題がなければ次の段階である回帰テストに進むか、開発者に合格を通知します。
もし問題が見つかった場合は、すぐに開発チームにフィードバックを返し、迅速な修正を促します。
まとめ
今回はサニティテストの定義から、その特徴、メリット・デメリット、そして具体的なプロセスまでを詳しく解説しました。
サニティテストは、プログラムの修正後に、その健全性を迅速に確認するためのテストであり、開発サイクルを円滑に進める上で不可欠な工程です。
スモークテストと混同されがちですが、スモークテストがシステム全体を浅く広くチェックするのに対し、サニティテストは特定の変更箇所とその周辺に焦点を当てて狭く深く検証する点が異なります。
この違いを正しく理解することで、テストの目的や役割をより明確に捉えられるようになります。
サニティテストを適切に導入すれば、手戻りの防止やコスト削減、開発効率の向上といった多くのメリットが期待できます。
今回の内容を参考に、日々の業務にサニティテストを効果的に取り入れ、品質の高いソフトウェア開発を実現する一助としてください。
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ