アクセシビリティテストとは?概要や具体的な手順などを徹底解説!
ウェブサービスのリニューアルにおいて、クライアントから「アクセシビリティへの配慮」を求められ、戸惑っているフロントエンドエンジニアは多いのではないでしょうか。
アクセシビリティは、単なるWebサイトの「使いやすさ」を超え、「誰もが情報にアクセスし、利用できる」という、現代社会の要請に応えるための重要な品質基準です。
特に2024年4月からの障害者差別解消法の改正により、民間企業にも合理的配慮の提供が義務化されたことで、その対応は待ったなしの状況です。
しかし社内に専門家がいない場合、どこから手を付けていいか分からず、納期に間に合うか不安を感じるかもしれません。
そこで今回は「アクセシビリティテストとは何か」という基礎知識から、国際基準であるWCAGや日本のJIS X 8341-3の概要、そして実務にすぐに役立つ具体的なテスト手順とツールまでを、Webエンジニアの視点から体系的に解説します。
手軽に始められるブラウザ機能から、スクリーンリーダーNVDAを使った専門的な検証までを網羅し、クライアントの期待を超える「誰でも使いやすいサイト」を実現するための道筋を示します。

アクセシビリティテストとは?
アクセシビリティテストとは、ウェブサイトやサービスが、障害の有無や年齢、利用環境にかかわらず、「誰もが同じように情報にアクセスし、利用できるか」を検証するプロセスです。
単に「使いやすさ」をチェックするユーザビリティテストの一部と見られがちですが、その目的はより広範で、社会的な要請にも応えるための重要な品質保証の活動といえます。
特にキーボード操作のみで利用できるか、スクリーンリーダーなどの支援技術に対応しているかなど、多様なユーザーが直面する具体的な利用の障壁を取り除くための検査が中心となります。
ウェブサービスのリニューアルを担当するエンジニアにとってこのテストは、クライアントの要求に応えるだけでなく、サービスの利用者層を拡大し、将来的な法的・社会的なリスクを回避するための不可欠なステップとなります。
そもそもアクセシビリティとは?
「アクセシビリティ(Accessibility)」は、「近づくことができる能力」を意味し、ウェブの世界では、情報やサービスへの到達のしやすさ、利用しやすさを指します。
ウェブアクセシビリティが確保されることで恩恵を受けるのは視覚・聴覚・身体などの障害を持つ方々だけでなく、一時的に手が使えない状況にある人(骨折など)や通信速度が遅い環境にいる人、さらにはスマートフォンの小さな画面で操作する人など、多様な状況にある全ての人々です。
例えば画像に適切な代替テキスト(alt属性)を設定することは、視覚障害者だけでなく、画像が読み込めなかったユーザーにも情報を提供することにつながります。
単なる「使いやすさ」を超え、「情報への公平なアクセス」を保証することが、現代のウェブサービスに求められているのです。
WCAGやJIS規格などの基準
ウェブアクセシビリティを体系的に担保するために、開発者が準拠すべき国際的なガイドラインと日本の国家規格があります。
最低限知っておくべきは、WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)と、日本の国家規格であるJIS X 8341-3の2つです。
WCAGとは?
WCAGは、ウェブ技術の国際標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)が策定した、ウェブコンテンツのアクセシビリティに関する国際的なガイドラインです。
このガイドラインは、「知覚可能」「操作可能」「理解可能」「堅牢」という4つの基本原則に基づいて構成されており、それぞれに具体的な達成基準が設けられています。
JIS X 8341-3とは?
一方、JIS X 8341-3は、このWCAGをベースにして日本の実情に合わせて制定された規格です。
国内で活動する企業や公的機関はこのJIS規格への準拠を目指すことが多く、行政機関においては、障害者差別解消法などに基づき、この規格の要求事項を満たすことが求められています。
それぞれの違い
WCAGとJIS X 8341-3は、基本的に同じ達成基準を採用していますが、JIS規格には日本語特有の要件(ふりがなの提供方法など)が一部含まれている点に特徴があります。
どちらの基準も達成度合いによってA、AA、AAAの3段階の適合レベルが定められており、実務的にはAAレベルの達成を目指すケースが一般的です。
プロジェクトのアクセシビリティ対応を進める上ではこれらの基準を理解し、どのレベルを目標とするかを明確にすることが重要となります。
アクセシビリティを無視したときに起こる問題
ウェブアクセシビリティの対応を怠ることは、単なる品質の低下にとどまらず、事業継続に関わる重大なリスクを引き起こします。
主な問題として、「利用者離脱」「信頼低下」「法規制リスク」の3つが挙げられます。
利用者離脱
まずアクセシビリティが低いサイトは、支援技術を利用するユーザーや高齢者、特定の環境でアクセスするユーザーにとって、情報にたどり着けない、操作できないといった深刻な利用の障壁となります。
その結果、サービスから利用者が離脱し、潜在的な顧客層を失うことになります。
特に、障害者手帳の所持者が増加傾向にある現代において、無視できない規模の市場機会を逃すことになります。
信頼低下
次に、アクセシビリティの軽視は、企業やサービスの信頼を大きく低下させます。
「誰もが使える」という社会的責任を果たしていないと見なされ、ブランドイメージの毀損につながります。インターネット上での評判が広がりやすい現代において、これは致命的です。
法規制リスク
そして最も避けたいのが法規制リスクです。
日本では、障害者差別解消法(2024年4月から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化)など、アクセシビリティに関する法規制が整備されており、これに準拠しない場合、法的責任を問われる可能性が生じます。
特にクライアントからアクセシビリティ配慮の依頼があったプロジェクトでは、このリスクは無視できません。
プロジェクトに携わるエンジニアとして、納品物の品質を担保し、将来的な法規制やクライアントからの要求に備えるためにも、アクセシビリティテストは、プロジェクトにおけるリスクマネジメントの一環として捉える必要があります。
アクセシビリティテストの進め方
アクセシビリティテストは単にツールを動かすだけでなく、「計画 → 実施 → 改善」という一連の流れで取り組むことが、リニューアルプロジェクトの成功に不可欠です。
限られた納期で成果を出すためには、まず手軽なチェックで基本的な問題点を洗い出し、次に専門的な流れで基準への適合性を検証し、実務で使えるツールを組み込むのが最も効率的です。
特に、フロントエンドエンジニアとして、コーディングの品質とユーザー体験の両面からテストを主導していく必要があります。
アクセシビリティテストを実践することで、クライアントの要求に応える「誰でも使いやすいサイト」の実現に大きく近づくでしょう。
手軽に始められるチェック方法
アクセシビリティテストをプロジェクトに導入する際、最初から大規模な体制を組む必要はありません。
まずは普段の業務で使っているブラウザの機能や、無料で手に入るツールを使って、基本的な問題を迅速にチェックすることから始めましょう。
1. ブラウザ標準の機能活用
最も手軽なのは、Google Chromeなどのブラウザに標準搭載されている開発者ツールの活用です。
Lighthouse(ライトハウス)
ChromeのDevToolsに組み込まれた監査ツールで、パフォーマンスやSEOと並んでアクセシビリティのスコアを算出できます。
機械的にチェックできる項目について、どの基準を満たしていないかを明確に示してくれるため、まず全体像を把握するのに最適です。
キーボード操作のみで確認
マウスを使わず、キーボードのTabキー、Enterキー、スペースキーだけでウェブサイト全体を操作できるかを確認します。
これにより、視覚障害者や上肢に障害がある方が直面する操作の困難さを確認できます。
Tabキーの移動順序が論理的か、フォーカスインジケータ(今どこにカーソルがあるかを示す枠)が目立つかなどをチェックしましょう。
2. 無料の自動チェックツール
Lighthouse以外にも、無料で高機能なチェックツールが多く提供されています。
miChecker(エムアイチェッカー)
総務省が提供するJIS X 8341-3準拠の検証ツールで、日本語のウェブコンテンツに特化したチェックが可能です。(ただしWindowsでの利用となります)
axe DevTools
Chrome拡張機能として提供されており、開発中のローカル環境でも利用できます。
問題箇所を特定し、WCAGに基づいた具体的な修正方法を提示してくれるため、実装と検証を並行して進める際に非常に役立ちます。
これらのツールは、機械的に判断可能な項目(例:代替テキストの有無、コントラスト比など)を効率的に洗い出すのに優れていますが、ウェブアクセシビリティの診断には人の判断により検証すべき事項が多数あるという点に注意が必要です。
例えば、代替テキストの内容が適切か、フォームの使い勝手が本当に理解しやすいかなどは、機械だけでは判断できません。
自動チェックはあくまで基本的な問題点の発見に使い、次のステップで人間の手による専門的な検証を組み合わせることが不可欠です。
専門的に取り組むときの流れ
クライアントからの要望や、JIS規格への適合レベルAAといった明確な目標がある場合、体系的なプロセスでアクセシビリティテストを進める必要があります。
専門的なテストは、一般的なテストプロセスと同様に、「計画」「実施」「改善」の3ステップで進めます。
1. 計画フェーズ:目標と範囲の明確化
適合レベルの決定
クライアントやプロジェクトの要件に基づき、WCAGまたはJIS規格のA、AA、AAAのどのレベルを達成目標とするかを定めます。
多くの場合はAAレベルが実務的な目標となります。
対象範囲の選定
サイト全体を対象とするのが理想ですが、納期や予算の制約がある場合は、全ページではなく「主要なページ(トップページ、お問い合わせ、購入フローなど)」「新規リニューアル箇所」といった代表的なページセットを対象とします。
テスト環境の準備
想定されるOS、ブラウザ、支援技術(スクリーンリーダーなど)の組み合わせを選定します。
例えば、「Windows + Chrome + NVDA」といった具体的な組み合わせを定義します。
2. 実施フェーズ:評価と記録
自動ツールによる検証
前述のLighthouseやmiCheckerなどの自動ツールで、機械的にチェック可能な項目を広範囲にわたって検証し、問題点をリストアップします。
手動による検証
ツールでは判断できない項目(例:代替テキストの意味、操作手順の理解しやすさ、動画の字幕内容の適切さなど)について、人間の目で一つ一つ確認します。
特にキーボード操作検証やスクリーンリーダー検証は、この手動検証の核となります。
結果の記録
検出されたすべての問題点について、「達成基準(WCAG 2.1 AAなど)」「問題の詳細」「発生箇所(URL、要素)」「対応優先度」を明確に記録します。
3. 改善フェーズ:修正と再検証
問題の修正
記録された問題点リストに基づき、開発チームで優先度の高いものから順に修正を進めます。
再検証(リグレッションテスト)
修正が完了した後、その修正が別の箇所に新たな問題を引き起こしていないか、そして修正された問題が本当に解決されているかを再検証します。
この専門的な流れに沿うことで、単なる問題点の修正に留まらず、基準への適合性を確実に担保し、クライアントやユーザーへの信頼性の高い成果物を提供できます。
実務ですぐ使える便利なツール紹介
専門的なアクセシビリティテストを実務に取り入れる上で、開発者自身が実際にユーザー体験を確認するためのツールは欠かせません。
自動チェックツールでは見つけられない問題を発見するために、以下のツールを活用しましょう。
1. スクリーンリーダー
スクリーンリーダーは、画面上の情報を音声で読み上げる支援技術で、主に視覚障害のあるユーザーがウェブサイトを利用する際に使用されます。
エンジニアが実際にこれを使うことで、マークアップの構造が論理的か、代替テキストが適切か、キーボード操作で必要な情報にアクセスできるかを体感的に理解できます。
NVDA(NonVisual Desktop Access)
Windows向けに提供されている無料のスクリーンリーダーで、日本語にも対応しており、動作も軽快です。
VoiceOver
macOSやiOSに標準搭載されているスクリーンリーダーです。
Macユーザーは追加インストールなしに利用できます。
これらのツールでウェブサイトを閲覧する際は、マウスを一切使わず、キーボード操作のみでページを移動し、フォーム入力やリンクの操作を試すのが検証の基本です。
2. カラーコントラストチェッカー
色覚特性のあるユーザーや高齢者がウェブコンテンツを利用する際、テキストと背景の色の組み合わせが不適切だと、文字が読みにくくなることがあります。
これを防ぐため、WCAGでは明確なコントラスト比の基準が定められています。
Colour Contrast Analyser (CCA)
ダウンロードして利用するツールで、画面上の任意の2点の色をスポイトで抽出し、そのコントラスト比がWCAGの基準(AAまたはAAA)を満たしているかを瞬時に判定できます。
デザインの段階で色の組み合わせを決める際にも重宝します。
WebAIM’s Contrast Checker
ウェブ上でカラーコードを入力してコントラスト比を確認できる無料ツールです。
これらのツールは、単にエラーを指摘するだけでなく、ユーザーの視点に立ってコンテンツの品質を検証する「体験」を提供してくれます。
これらを活用することで、技術的な知識だけでなく、倫理的・社会的な配慮に基づいた質の高いウェブサービス開発が可能になります。
まとめ
今回は「アクセシビリティテストとは何か」という定義から、その重要性、そして具体的なテストの進め方について解説しました。
アクセシビリティテストは、障害のある方々だけでなく、高齢者、一時的な不便を抱える人、低速な通信環境の人など、多様なユーザーの利用を可能にするための品質保証活動です。
単にユーザビリティを向上させるだけでなく、「利用者離脱の防止」や「ブランドイメージの維持」、そして最も重要な「法規制リスクの回避」という、事業継続に関わる重要な役割を担っています。
実務においては、まずChromeのLighthouseやaxe DevToolsといった手軽な自動チェックツールで基本的な問題点を洗い出し、「計画・実施・改善」のプロセスで体系的に対応を進めることが重要です。
特に、NVDAなどのスクリーンリーダーを使い、キーボード操作のみでサイトを検証する手動チェックは、ツールでは発見できない決定的な障壁を見つけるための核となります。
ウェブエンジニアとして、WCAGやJIS規格への準拠を目指し、これらのテスト手法とツールを習得することは、今後のプロジェクトにおいて不可欠なスキルとなるでしょう。
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ