ISO25010に基づいたテストとは?ソフトウェア品質評価モデルをテスト戦略に落とし込む方法

急成長する開発現場において、チームごとにテスト方針や品質基準が異なり、思わぬ障害や手戻りに頭を抱えるケースは少なくありません。
個別最適の積み重ねだけでは組織全体の品質を担保するのに限界が見え始めている場合、必要となるのは論理的かつ客観的な品質の物差しです。
国際標準規格であるISO25010は、単なる用語の定義集ではなく、プロダクトの価値を最大化し、組織横断で品質を議論するための強力なフレームワークとなります。
そこで今回はこの品質モデルをどのように実務のテスト設計やCI/CDパイプラインへ組み込み、事業成長に直結する全体最適な品質保証を実現するかを詳しく紐解いていきます。

ISO25010に基づいたテストとは?
ISO25010とは何か?ソフトウェア品質モデルの基本
ISO25010は、国際標準化機構によって策定されたシステムおよびソフトウェア製品の品質を評価するための国際規格です。
この規格の最大の特徴は、ソフトウェアの品質を機能適合性、性能効率性、互換性、使用性、信頼性、セキュリティ、保守性、移植性という8つの主要な特性に分類している点にあります。
それぞれの特性はさらに複数の副特性へと細分化されており、品質という抽象的な概念を客観的かつ具体的に定義するための共通辞書のような役割を果たします。
プロダクト開発において品質はしばしば主観や経験則に左右されがちですが、このモデルを採用することで、組織全体で統一された品質の物差しを持つことが可能になります。
特に複数のプロダクトを横断して管理する立場では、チームごとにばらつきがちな評価基準を標準化し、全体最適の視点でプロダクトの状態を把握するための強力な論理的基盤となります。
ISO25010とSQuaRE(ISO/IEC 25000)シリーズの関係
ISO25010は、SQuaRE(System and software Quality Requirements and Evaluation)シリーズとして知られるISO/IEC 25000ファミリーの中核をなす規格です。
このシリーズは、従来のISO 9126やISO 14598を統合・整理したもので、品質モデルの定義だけでなく、品質要求の定義や評価のプロセスまでを一貫してカバーしています。
具体的には、要件定義から測定、評価に至るまでのライフサイクル全体を支える構造になっており、単なるテスト段階の指標ではなく、設計や運用のフェーズでも参照されるべき体系です。
この背景を理解しておくことは、テスト項目の根拠を開発者や経営層に説明する際に専門性を担保する大きな武器となります。
国際規格に準拠した一貫性のある枠組みを導入することは、属人的な判断や場当たり的な改善を排除し、組織として持続可能で再現性の高い品質保証体制を構築するための必須条件といえます。
ISO25010はなぜテストで重要なのか
テストの現場においてISO25010が重要視される理由は、網羅性の確保と共通言語の確立にあります。
スピードが重視されるメガベンチャーの開発環境では、テストの関心が機能の正しさに偏りがちですが、信頼性や保守性といった非機能側面が疎かになると、リリース後の深刻な障害や運用コストの増大を招くリスクが高まります。
ISO25010をテスト戦略に組み込むことで、見落とされがちなセキュリティや移植性といった観点を漏れなく抽出でき、リスクに基づいた優先順位付けを論理的に行えるようになります。
また品質特性という定義済みの言葉を使うことで、プロダクトマネージャーや経営層といった異なる立場の利害関係者とも建設的な議論が可能になります。
品質を単なるバグの少なさではなく、多角的な価値として捉え直すことは、QAチームが工程のボトルネックではなく、事業成長を支える戦略的なパートナーとして認知されるための鍵となります。
要件定義・非機能要件とISO25010の関係
ISO25010は、上流工程における要件定義、特に曖昧になりやすい非機能要件の明確化において極めて重要な役割を果たします。
システムへの要求事項が不透明なままテスト工程に入ると、期待値との乖離が生じやすく、修正コストも膨れ上がります。
ISO25010の特性を要件定義のチェックリストとして活用すれば、性能効率性における具体的な応答時間や、信頼性における目標稼働率など、抽象的なニーズをテスト可能な具体的な要件へと翻訳できます。
これにより開発・プロダクトマネージャー・QAの間で初期段階から合意形成ができ、手戻りの少ない効率的な開発サイクルが実現します。
非機能要件を共通のフレームワークに基づいて整理することは、技術的な負債の蓄積を防ぎ、マイクロサービスのように複雑化したシステムにおいても全体的な品質レベルを維持するために不可欠です。
要件定義とテスト戦略をこのモデルで結びつけることで、プロダクトの価値を確実に出口まで届けるための道筋が明確になります。
ISO25010の品質モデル全体像(利用時品質と製品品質)
ISO25010の2つの品質モデルとは
ISO25010におけるソフトウェア品質の定義は、大きく分けて製品品質モデルと利用時品質モデルという2つの視点で構成されています。
これらは独立したものではなく、相互に深く関連し合う一連の評価体系です。製品品質モデルは、ソフトウェアが持つ静的な性質や動的な動作そのものを8つの特性で分類したものであり、主に開発側が作り込むべき品質の指標となります。
一方で利用時品質モデルは、特定のユーザーが特定の利用状況下でその製品を使用した際に得られる結果を5つの特性で評価するものです。
メガベンチャーのような大規模で複雑なシステムにおいては、単にシステムが仕様通りに動くかどうかという製品品質の視点だけでは不十分です。
最終的にユーザーが価値を享受できているかという利用時品質の視点を併せ持つことで、QA活動が単なるバグ探しに留まらず、プロダクトの成功に寄与する全体最適の設計が可能になります。
この2つのモデルを使い分けることが、開発現場と経営層、あるいはユーザーとの認識の乖離を埋めるための第一歩となります。
利用時品質モデルとは?ユーザー視点の品質評価
利用時品質モデルは製品が実際のコンテキストで使用された際に、どれだけユーザーの目的を達成し、満足感を提供できるかに焦点を当てた評価軸です。
このモデルには有効性、効率性、満足性、リスク回避性、利用状況網羅性の5つの特性が含まれます。
例えば、機能が完璧に実装されていても、操作が煩雑で時間がかかるのであれば効率性が低いと判断され、結果としてユーザーの満足性は低下します。
プロダクトマネージャーや事業責任者と品質について議論する際、この利用時品質のフレームワークは非常に有効です。
システム内部の細かな挙動ではなく、その製品が市場やユーザーに対してどのような価値を提供できているかというビジネス直結の言葉で会話ができるためです。
QAマネージャーとしては、製品品質を高めることが、いかにしてこの利用時品質、すなわち事業成長やユーザー体験の向上につながるのかを論理的に説明する根拠として活用できます。
現場の改善活動を経営層への評価へと繋げるための、重要なブリッジとなる指標と言えるでしょう。
製品品質モデルとは?システム内部品質の評価軸
製品品質モデルは、テスト実務において最も頻繁に参照される評価軸であり、ソフトウェアが備えるべき特性を網羅的に整理したものです。
機能適合性、性能効率性、互換性、使用性、信頼性、セキュリティ、保守性、移植性の8特性で構成されています。
これらはさらに細かい副特性に分かれており、テストエンジニアがテスト観点を抽出したり、テストケースの網羅性を担保したりする際の強力なガイドラインとなります。
特にマイクロサービス化が進むメガベンチャーの環境では、個別のプロダクトが他とどう連携するかという互換性や、変更のしやすさを示す保守性といった観点が、システム全体の安定稼働に直結します。
製品品質モデルを共通の物差しとして導入することで、チームごとにバラバラだったテスト方針に統一感を持たせることが可能になります。
各チームが同じ定義に基づいて品質を測定・報告できるようになれば、組織全体を俯瞰した品質状況の可視化が容易になり、属人化を防ぎながら持続可能な品質保証体制を構築する基盤が整います。
テストで重視すべき品質モデルの考え方
テスト戦略を立てる際、製品品質と利用時品質のどちらを重視すべきかという問いに対しては、両者を手段と目的の関係として捉えるのが最適です。
製品品質を高めることはあくまで手段であり、その目的は利用時品質を最大化することにあります。
テスト活動の初期段階やCI/CDなどの自動化プロセスにおいては、測定が容易な製品品質モデルをベースに効率的な検知を行い、システムとしての堅牢性を確保します。
一方で、最終的なリリース判断や大規模なリニューアルの評価においては、利用時品質の観点から総合的な判断を下す必要があります。
QAマネージャーが全体最適を実現するためには、リソースの配分を決定する際に、どの製品品質特性を強化すれば最も効率的に利用時品質(ユーザー価値)が向上するかを見極めるバランス感覚が求められます。
この2つのモデルをバランスよく戦略に組み込むことで、現場のテスト実行と経営層の求める事業価値が合致し、QAチームがプロダクト開発の中核として信頼される状態を築くことができます。
製品品質モデル8特性とテスト観点への落とし込み
機能適合性(Functional Suitability)のテスト観点
機能適合性は、ソフトウェアが明示された要件やユーザーの目的をどの程度満たしているかを評価する、テストの最も基本的な柱です。
ここでのテスト観点は、機能の完全性、正確性、そして適切性の3つに集約されます。
機能要件テストにおいては、仕様書に記載された通りの動作をするかだけでなく、不足している機能がないか、あるいは特定のタスクを達成するためにその機能が妥当であるかを検証します。
メガベンチャーのような多機能なプロダクトでは、個別の機能が正しく動くことはもちろん、一連の業務フローにおいて機能が欠落なく連携していることが重要です。
仕様適合性を確認する際は、境界値分析や同値分割といった技法を用いて、実装されたロジックが期待される結果を正確に導き出せるかを徹底的に確認します。
この特性を堅牢にすることで、手戻りの少ない開発サイクルを維持し、現場と経営層の双方が納得できる品質の最低ラインを確保できるようになります。
性能効率性(Performance Efficiency)のテスト観点
性能効率性は、システムがリソースをいかに効率的に使用し、要求されるパフォーマンスを出せているかを測る指標です。
主なテスト観点は、時間効率性、資源利用性、および容量です。メガベンチャーで扱うような高トラフィックなサービスでは、レスポンスタイムの遅延がそのまま離脱率や収益悪化に直結するため、負荷テストは極めて重要です。
具体的には、同時接続数が増加した際の応答時間やスループットの推移、CPUやメモリの消費率を計測します。
またスパイクアクセスに対する耐性や、長時間稼働によるメモリリークの有無を確認するエージングテストも含まれます。
これらのテスト結果をもとに、ボトルネックとなるコンポーネントを特定し、インフラ構成の最適化やコードの改善に繋げます。
定量的なデータをもって性能の限界値を把握しておくことは、将来的な事業拡大に伴うシステム拡張の計画を立てる際、PdMやインフラエンジニアと同じ目線で議論するための強力な判断材料となります。
互換性(Compatibility)のテスト観点
互換性は他の製品やシステム、あるいは同一環境内の構成要素と情報を共有し、本来の機能を実行できる能力を指します。
マイクロサービスアーキテクチャを採用している場合、API連携の整合性や、共有リソース下での共存性が主要なテスト観点となります。
具体的には外部サービスや自社内の他プロダクトとのデータ授受がプロトコル通りに行われるか、共通のデータベースを利用する際に競合が発生しないかを確認します。
またクライアントサイドにおいては、OSのバージョン差分やブラウザの種類、デバイスの解像度によってレイアウトや機能が損なわれないかを検証する環境差分のテストも欠かせません。
既存の機能に影響を与えず新しいモジュールを追加できるかという共存性の視点は、頻繁にアップデートが行われるプロダクトにおいて、システム全体の安定性を左右する重要な要素です。
この特性を網羅的に検証することで、プロダクト間の境界で発生しがちな障害を未然に防ぎ、全体最適の品質担保を実現できます。
使用性(Usability)のテスト観点
使用性は、特定のユーザーが特定の利用状況において、効果的かつ効率的に満足して製品を利用できる度合いを評価します。
テスト観点には、習得性、運用性、ユーザーエラー防御性、UIのデザイン性、アクセシビリティが含まれます。
単に機能が使えるだけでなく、初めて操作するユーザーが迷わずにゴールに到達できるか、あるいは誤操作を防ぐためのフィードバックが適切に設計されているかをUI/UXテストを通じて検証します。
メガベンチャーでは複数のプロダクトを横断して利用するユーザーも多いため、各サービス間での操作感の統一も重要な評価軸となります。
ユーザビリティ評価においては、ヒューリスティック評価やユーザーテストの結果をフィードバックし、プロダクトの使い心地を客観的に改善していきます。
この観点をテスト戦略に組み込むことで、QAは技術的な不具合の検出だけでなく、ユーザー満足度の向上というビジネス価値に直結する貢献が可能になり、組織内でのQAの存在価値を高めることに繋がります。
信頼性(Reliability)のテスト観点
信頼性は、特定の期間において、特定の条件下でシステムが正常に動作し続ける能力を評価する特性です。
主なテスト観点は、成熟度、可用性、耐障害性、および回復性です。
サービスが24時間365日止まることが許されないビジネス環境では、システムの一部に障害が発生してもサービス全体を停止させない冗長構成の検証や、障害発生時にどれだけ速やかに復旧できるかというMTTR(平均復旧時間)の計測が不可欠です。
耐障害性テストでは、意図的にサーバーをダウンさせたり、ネットワーク遅延を発生させたりするカオスエンジニアリングの手法を用いて、フェイルオーバーが期待通りに機能するかを確認します。
また、バックアップデータから正しくリストアできるかという回復性の検証も、データ整合性を守る上で非常に重要です。
信頼性の高いシステムを構築・証明することは、ユーザーからの信頼を勝ち取るだけでなく、深夜の緊急対応による現場の疲弊を軽減し、QAマネージャーとして持続可能なチーム運営を実現するための土台となります。
セキュリティ(Security)のテスト観点
セキュリティは、情報やデータが保護され、権限を持つ人やシステムだけがアクセスできる状態を維持する能力を指します。
テスト観点は、機密性、完全性、否認防止、責任追跡性、真正性の5つに分類されます。
脆弱性テストにおいては、クロスサイトスクリプティングやSQLインジェクションといった代表的な攻撃に対する防御策が有効かを確認します。
さらに、メガベンチャー規模の組織では、認証・認可の設計が特に重要です。ユーザーの役割に応じた適切なアクセス権限が設定されているか、意図しない権限昇格が可能になっていないかを厳密に検証します。
また、操作ログが改ざん不可能な形で記録され、後から追跡可能であるかという責任追跡性の視点も、内部統制や法令遵守の観点から欠かせません。
セキュリティテストを標準的なプロセスに組み込むことで、大規模な情報漏洩リスクを最小化し、経営層に対して品質の安全性を論理的に説明できるようになります。
これは、QAが守りの要として事業の継続性を担保するために不可欠な活動です。
保守性(Maintainability)のテスト観点
保守性は、ソフトウェアの修正や改良、環境変化への適応がいかに容易に行えるかという特性です。
テスト実務者にとっては、テスト容易性、解析性、修正性、モジュール性が主要なテスト観点となります。
コードの品質が低いと、バグの原因特定に時間がかかり、修正の影響範囲が予測できなくなるため、テストコードの書きやすさや実行のしやすさを評価します。
具体的には、CI/CDパイプラインにおける自動テストの成功率や実行時間、コードカバレッジ、依存関係の複雑さを計測します。
解析性の観点では、エラー発生時のログが適切に出力され、迅速に原因箇所を特定できるかを確認します。
保守性の高いプロダクトは、開発速度を落とさずに品質を維持できるため、リリース速度と品質の両立というメガベンチャー共通の課題に対する直接的な解となります。
QAマネージャーが開発チームに対してテスト容易性の向上を働きかけることは、属人化したテストからの脱却と、長期的なコスト削減を実現するための戦略的な一手となります。
移植性(Portability)のテスト観点
移植性は、ある環境から別の環境へソフトウェアをいかにスムーズに移行できるかを評価する特性です。
適応性、設置性、置換性が具体的なテスト観点となります。
クラウドネイティブな開発が進む中で、オンプレミスからクラウドへの移行や、異なるパブリッククラウド間での差異を吸収できるかが重要です。
また、コンテナ技術を利用している場合は、異なるOSや実行環境下でも一貫した動作を保証できるかを検証します。
設置性テストでは、インストールの手順が自動化されており、再現性を持って短時間で環境構築ができるかを確認します。
置換性の観点では、既存のソフトウェアコンポーネントを同等の機能を持つ別のものに置き換えた際に、システム全体に悪影響が出ないかを検証します。
環境移行に伴う不具合は、リリース直後の大規模な障害に繋がりやすいため、この特性を事前にテスト戦略に盛り込んでおくことで、インフラ刷新や海外展開といった事業の大きな転換期においても品質面での確信を持ってプロジェクトを推進できるようになります。
ISO25010に基づいたテスト設計・評価の実践方法
ISO25010を使ったテスト設計の基本ステップ
ISO25010を実務に導入する最初のステップは、プロダクトのビジネス目標とリスクを紐解き、どの品質特性に重点を置くかを決定する品質要求分析です。
メガベンチャーのようなスピード感のある環境では、全特性を一律に検証するリソースの確保は難しいため、事業フェーズやユーザー基盤の特性に合わせて重み付けを行う必要があります。
優先順位が確定したら、選択した品質特性を具体的な副特性レベルまで分解し、それぞれの特性を検証するために必要なテスト条件を定義します。
このプロセスにおいて、抽象的な品質という概念が、誰の目にも明らかな検証可能な目的へと具体化されます。
次に、これらの条件を満たすためのテストデータや環境、実行手順を策定し、最終的なテストケースへと落とし込みます。
このように、上位の品質モデルから段階的に詳細化を進めることで、テスト範囲の過不足や論理的な飛躍を防ぎ、根拠のあるテスト設計が可能になります。
品質特性からテスト観点を導く方法
抽象的な品質特性を現場で実行可能なテスト観点へと変換するには、各特性の定義をプロダクトのコンテキストに合わせて解釈し直す作業が重要です。
例えば信頼性という特性を扱う場合、単にシステムが稼働し続けることだけでなく、ネットワーク瞬断時の挙動や、異常なペイロードが送られた際のリカバリ手順といった具体的なシナリオへと翻訳します。
この変換作業を丁寧に行うことで、開発者やプロダクトマネージャーにとっても納得感のあるテスト項目が形成されます。
特にマイクロサービス間での連携が複雑なシステムにおいては、機能的な正しさだけでなく、サービス間の依存関係における保守性や互換性の観点を抽出することが、全体最適を実現する鍵となります。
リスクベースの視点を取り入れ、どの特性の欠如が事業に最大のダメージを与えるかを基準に観点を整理することで、限られた時間の中で最大の品質保証効果を得るための戦略的なテスト構成が整います。
品質特性×副特性×評価指標の整理方法
品質を客観的に評価し、改善のサイクルを回すためには、特性と副特性に対応する具体的な評価指標(メトリクス)を設計することが欠かせません。
メトリクスの選定にあたっては、ISO/IEC 25023などの測定規格を参考にしながら、収集の容易さとビジネスへのインパクトを考慮して定義します。
例えば性能効率性であれば、特定条件下でのレスポンスタイムのパーセンタイル値、保守性であればコードの複雑度や循環的複雑度、テストカバレッジといった定量的な指標を割り当てます。
これらの指標をスプレッドシートやダッシュボードで一覧化し、プロダクト間で共通のテンプレートとして運用することで、組織横断的な品質の比較や、特定チームに閉ざされていた品質課題の可視化が容易になります。
数値に基づいたレポートは、経営層やステークホルダーに対して現在の品質状況を論理的に説明し、次なる投資や改善活動への合意を得るための強力なコミュニケーションツールとして機能します。
テスト計画・テストタイプへの落とし込み例
整理された品質観点は、最終的に具体的なテスト計画書や各テストタイプへとマッピングされます。
機能適合性は主に単体テストからシステムテストの全域で検証されますが、性能効率性、セキュリティ、信頼性といった非機能的な側面は、専用のテストフェーズを設けるか、あるいは各工程に分散して組み込む必要があります。
具体的には、可用性を検証するためのカオスエンジニアリングをステージング環境で定期実行したり、ポータビリティを担保するためのコンテナイメージの動作検証をビルドプロセスに含めたりする構成が考えられます。
このように、特性ごとに最適なテストレベルや手法を割り当てることで、後工程での大規模な手戻りを防ぐシフトレフトの思想を具現化できます。
テスト計画の段階で、どのテストタイプがどの品質特性を担っているかを明示しておくことは、属人化を排除し、組織拡大後も破綻しない一貫性のあるテスト体制を築くための重要な基盤となります。
自動テスト・CI/CDでのISO25010活用
モダンな開発体制を支えるCI/CDパイプラインにおいて、ISO25010の観点を自動テストのゲートとして組み込むことは、リリース速度と品質を両立させるための最良の手段です。
保守性の観点では、静的解析ツールをパイプラインに統合してコードの品質低下を即座に検知し、信頼性や機能適合性の面では、自動化された回帰テストスイートによって変更による副作用を最小限に抑えます。
さらに、性能効率性については、デプロイごとにパフォーマンステストを自動実行し、基準値を超えた場合にパイプラインを停止させる仕組みを構築することが有効です。
品質モデルという論理的枠組みを自動化のコードやワークフローに落とし込むことで、現場の負担を増やすことなく、高い品質基準を常時維持できるようになります。
これにより、QAマネージャーは日々の細かい不具合確認から解放され、より高次元な品質戦略の立案や、組織全体の品質文化の醸成といった価値創出の中核業務に注力することが可能になります。
ISO25010ベースでテストを行うメリットと今後の展望
ISO25010に基づくテストのメリット
ISO25010をテスト戦略に導入する最大の利点は、品質という抽象的な概念を客観的な指標へ変換し、ステークホルダーとの間で強力な合意形成を実現できる点にあります。
開発現場と経営層の間では品質に対する期待値が異なることが珍しくありませんが、国際規格に基づいた共通言語を用いることで、議論の透明性が飛躍的に向上します。
また、機能適合性から移植性に至る8つの特性を網羅的に確認することで、経験則に頼ったテスト設計で発生しがちな非機能要件の見落としを構造的に防ぐことが可能です。
特にプロダクトが多角化し、システムが複雑化するメガベンチャーにおいては、この網羅性が大規模障害を未然に防ぐ重要な防波堤となります。
品質の定義が属人化せず組織の共有知となることで、QAマネージャーは現場と上層部の板挟みにあうことなく、論理的根拠に基づいた冷静な意思決定を行えるようになります。
結果として、社内におけるQA活動の信頼性を高め、チームの価値を確固たるものにできます。
ISO9126との違いとISO25010の進化
ISO25010の前身であるISO9126からの大きな進化は、現代の複雑なソフトウェア環境に即した特性の再定義と拡充にあります。
旧規格では6つの特性で構成されていましたが、ISO25010ではセキュリティと互換性が独立した主要特性として格上げされました。
これは、インターネット接続が前提となり、多くの外部システムと連携する現在のプロダクト開発において、安全性の確保とシステム間の円滑な連携が極めて重要視されている背景を反映したものです。
また、利用時品質モデルが統合されたことにより、システム単体の動作だけでなく、実際の利用シーンにおいてユーザーがどれだけ価値を享受できているかという体験的な側面までをカバーする広範な評価体系へと進化を遂げました。
この変遷を理解することは、古い慣習に基づいたテスト設計を脱却し、最新のグローバルスタンダードに準拠した合理的な品質保証体制を再構築するための重要な知見となります。
規格の進化に合わせてテスト観点をアップデートし続けることは、組織としての技術的な専門性と妥当性を社内外に証明する上でも不可欠な要素です。
DevOps・アジャイル開発でのISO25010
スピードが最優先されるDevOpsやアジャイル開発の現場において、ISO25010は重厚長大なドキュメント作成のための道具ではなく、チーム間の認識のズレを即座に解消するためのフレームワークとして機能します。
スプリントごとの短いサイクルの中でも、どの品質特性を重点的に検証すべきかを迅速に判断し、共通言語として共有することで、エンジニアとQA、プロダクトマネージャーの連携が円滑になります。
具体的には、シフトレフトの思想に基づき、要件定義や設計の初期段階から品質モデルを参照することで、後工程での致命的な手戻りを最小限に抑えることが可能です。
またCI/CDパイプラインにおける自動テストの項目を品質特性に基づいて分類し、定量的なメトリクスとして監視し続けることで、リリースの高速化と品質の安定を高い次元で両立させることができます。
動的な開発環境にこそ、このような静的な品質指標を柔軟に取り入れるアプローチが求められており、それが持続可能な開発サイクルを実現し、組織全体の競争力を長期的に高める鍵となります。
AI時代における品質モデルとテストの役割
生成AIや機械学習がプロダクトの中核に組み込まれるAI時代においても、ISO25010が提供する品質モデルの枠組みは、信頼性の高いシステムを構築するための基本的な羅針盤であり続けます。
ただし、AI特有の不確実性やブラックボックス問題に対応するため、既存の特性に加えて安全性や公平性、説明責任といった新たな観点をどう評価体系に組み込むかが今後の重要な課題となります。
QAの役割は、単にバグを見つけることから、AIが生成するアウトプットの妥当性や倫理的なリスクを管理する品質アシスタンスの領域へと拡大していくことが予想されます。
複雑化するAIシステムの品質を担保するためには、従来の検証手法に加えて、品質モデルを基盤とした継続的なモニタリングとリスクベースの評価がより一層重要になります。
技術革新が進む中でも、変わらない評価の軸を持ちながら時代に合わせて観点を拡張していく姿勢が、これからのQAエンジニアやマネージャーにとっての新たな市場価値を形成し、プロダクトの長期的な成功を支えることになります。
まとめ
ISO25010を基軸とした品質保証は、単なる不具合の検出を超え、プロダクトが本来提供すべき価値を確実に出口まで届けるための地図となります。
製品品質と利用時品質の二つの側面をバランスよくテスト戦略に落とし込むことで、現場のテスト実行が事業価値の向上に直結する仕組みが整います。
属人的な判断や場当たり的な改善から脱却し、持続可能な品質体制を築くことは、組織内でのQAチームの存在意義を確固たるものにするはずです。
まずは現在のプロダクトにおいて優先すべき品質特性を再定義し、開発や経営層との共通言語として浸透させることから、全体最適への一歩が始まります。
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ(マーケター、合同会社ぎあはーと代表)

