システムテストのコスト削減方法
システムテストのコスト高騰に頭を悩ませているIT企業の品質保証マネージャーやQAリーダーは少なくありません。
テストコストの大部分を占めるのは人件費、つまりテストに関わるメンバーの工数です。
この工数が予定より膨らむとき、その背後には必ず明確な「ムダ」が存在します。
コスト削減への第一歩は、この「なぜコストが高騰するのか」という原因を正しく理解し、認識をチームや上層部と共有することです。
そこで今回はシステムテストのコストを効率化によって削減する方法について徹底解説します!

システムテストのコストが膨らむ4つの原因
① テストケースの重複と属人化
テストケースの管理が個々人の裁量に委ねられ体系化されていない状況は、コスト高騰の大きな要因となります。
多くの現場では、担当者が各自のやりやすい方法でExcelなどで管理しがちです。
その結果、過去のプロジェクトで作成された有益なテスト資産が再利用されず、似たようなテストケースがプロジェクトごとにゼロから作り直されるという「ムダ」が発生します。
特に改修案件やバージョンアップのたびに、本来流用できるはずのテストケースが活用されないことは、設計工数と実行工数の両方を無駄にしています。
さらにテスト項目の粒度やフォーマットがメンバー間で統一されていないと、新しい担当者の学習コストが増大したり、レビューアが意図を理解するのに時間がかかったりするため、レビュー時間が増大します。
属人化が進むと、誰でも同じレベルでテストを設計・実行できる「標準化」が欠如し、組織としての生産性が低下し、結果的に工数増加というコスト増につながります。
② 不具合管理・進捗報告の非効率
不具合(バグ)の発見から修正、再テストに至るプロセスにおける非効率は、テスト工数を大幅に増加させます。
不具合の報告や管理に統一されたツールがなく、Excelやメール、チャットなど複数の手段が混在している現場では、情報共有の遅れや情報の散逸が頻繁に起こります。
最新情報が関係者間でリアルタイムに共有されないと、確認のためのコミュニケーションコストが膨らみます。
また不具合管理と進捗管理のツールが異なると、データの整合性確認に時間を浪費します。
進捗報告に関しても手作業によるデータ集計が必要な場合、正確な状況把握が遅れ、リーダーやマネージャーの意思決定が遅延します。
重要なデータがリアルタイムに見えないことは、非効率な再テストの実行や、問題の長期化を招き、人件費という形でコストに跳ね返ってくるのです。
③ 環境構築やデータ準備の手戻り
システムテストにおいて、テスト対象となる環境(OS、ミドルウェア、ネットワーク設定など)やテストに用いるデータ(マスターデータ、トランザクションデータなど)の準備が不完全であることは、手戻りの大きな原因となります。
環境構築のプロセスが標準化されておらず担当者によって手順が異なる場合、環境が統一されず「環境依存」の問題が生じ、その切り分けと修正に不要な工数を割くことになります。
さらにテスト環境が不安定だったり、利用可能なリソースが限られていると、テスト実行中に予期せぬエラーで中断され、同じテストが何度も繰り返されることになり、実行工数が無駄に膨らみます。
テストデータについても、準備に手間がかかる、あるいは流用時のセキュリティリスクといった課題があります。
必要なデータがすぐに用意できないと、テストケースの設計は完了していても実行に移せないという待ち時間が発生します。
これらの「準備段階」の不安定さが、テスト工程全体のボトルネックとなり、想定外の工数増加、つまりコスト増を引き起こします。
④ “見えないムダ”が経営判断を鈍らせる
テストコストを削減する上で最も厄介なのは、具体的な改善施策を打つための根拠となるデータがないという状態です。
テスト工程で発生している人件費の内訳や、各工程にどの程度の工数がかかっているのかが「見えないムダ」となっていると、リーダーやマネージャーの改善判断が経験や勘に頼らざるを得なくなります。
上層部からの「テストコストを下げろ」という指示に対し、「手動テストが多すぎる」「テストデータ準備に時間がかかりすぎている」といった具体的な内訳が示せなければ、単に「テストを減らす」という品質を危険にさらす短絡的な結論に陥りがちです。
この状態では、最も費用対効果の高い改善点(例:自動化を優先すべきテストケース)を特定できません。
結果として効果の薄い改善施策に時間と予算を使い、根本的なコスト削減に至らず、経営判断を鈍らせることになります。
テストにかかる工数をデータとして「見える化」し、どこにどれだけのコストがかかっているかを把握することが、効率的な改善活動の出発点となります。
「人を減らす」ではなく「ムダを減らす」が本質
システムテストのコスト削減を求められた際、「テスト担当者の人数を減らす」という発想に至りがちですが、これは短期的には数字が出ても品質の低下や残されたメンバーへの過度な負荷を招き、結果的に全体のコストを押し上げるという悪循環を生みます。
これはあくまで一時的な削減にしかなりません。
真のコスト削減とは、「見えないムダ=非効率な工程」を特定し、組織的な仕組みとしてそれらを徹底的になくすことです。
現場でテスト工数を増やしている要因は、「重複した作業」「待機時間」「手戻り」といった非効率なプロセスにあります。
この「ムダ」を排除するための鍵となるのが、可視化・仕組み化・再利用の三原則です。
まず工数の内訳を「可視化」することで、どこに真のムダがあるのかを明確にします。
次に属人化を排除し、誰でも高い品質で作業できる「仕組み化」を進めます。
そして過去のテスト資産や環境を「再利用」できる状態にすることで、新規作成の工数を削減します。
特に重要なのは現状のテストプロセスがどこで立ち止まっているのか、どの作業にどれだけの工数がかかっているのかを定量的に把握する可視化です。
このデータこそが、上司や経営層を説得できる根拠となり、続く改善策、特に「テスト管理」の強化へと論理的に接続する起点となります。
3か月以内に効果的な改善案を導入し、半年以内に定量的成果を示すためにも、まずは現状把握と「ムダ」の定義から始めることが成功へのロードマップです。
コスト削減の起点は“テストプロセスの可視化”にある
真のコスト削減を実現するためには漠然とした「テスト工数がかかりすぎている」という認識から脱却し、どの工程のどの作業にどれだけの時間と人件費が費やされているのかを定量的に把握する必要があります。
この現状分析こそがコスト削減の取り組みにおける最初の、そして最も重要な起点となります。
テストプロセスの「可視化」によって、これまで見過ごされてきたムダや非効率を特定し、品質を落とさずに工数を最適化するためのデータドリブンな判断が可能になります。
現状のテストプロセスが3か月以内に現場で改善をスタートできる状態になるよう、まずは可視化による分析に注力すべきです。
属人的な管理では「どこがムダか」が見えない
多くの現場でテストコストが膨らむ原因は、テストケースや進捗が属人的な管理に依存していることにあります。
例えば個々人がローカルのExcelファイルでテストケースをバラバラに進行させたり、不具合の報告をチャットや口頭に頼っていたりする状況です。
この状態ではテスト工程全体の進捗状況や、各メンバーの具体的な作業負荷、そしてテストケースの網羅性がブラックボックス化します。
その結果チーム全体として全体最適ができないため、過去の資産の再利用がなされずに二重テストが発生したり、担当者が不在の際に業務が完全に停止したりといった問題が生じます。
また担当者の個人的なスキルや経験にテストの品質が左右され、品質が不安定になるリスクも高まります。
こうした属人性の高いプロセスでは、具体的な工数データが得られず、遅延や非効率の原因が特定できません。
ムダなコストを排除するための改善施策も、勘や経験に頼ったものになり、再現性のある成功事例を作ることは困難になります。
可視化によって“改善すべき箇所”が明確になる
テストプロセスを標準化されたツールや手法で可視化すると、これまで見えていなかった「ムダ」が定量的なデータとして浮き彫りになります。
重要なのはテスト設計、実行、報告のどこで時間を浪費しているかを把握することです。
例えばテスト管理ツールを導入し、テストケースごとに実行時間や不具合の発生傾向を記録・分析することで、「特定の機能に対するテスト設計に想定外の時間を要している」「特定のテスト環境の準備に繰り返し工数がかかっている」「回帰テストの実行時間が非常に長く、自動化の費用対効果が高い」といった具体的な改善ポイントが明確になります。
このようにデータに基づいてテストプロセスを分析することで、主観ではなく客観的な根拠を持ったコスト削減のためのデータドリブンな判断が可能になります。
「テスト工数のうち、手動実行に費やされている割合は〇%」「不具合修正後の回帰テストにかかる工数が全体の〇%を占めている」といった具体的な数値を上層部や経営層に示すことができれば、削減目標や必要な投資に対する説得力が増し、半年以内に定量的成果を出すための確かなロードマップを描けます。
テスト管理ツール導入による3つのコスト削減効果
「テストプロセスの可視化」によって現場のムダが明らかになったら、次に必要なのはそのムダを恒久的に排除するための「仕組み」の導入です。
その最も効果的な手段が、テスト管理ツールの導入です。
現場でボトルネックとなっている手動テストや属人的なExcel管理から脱却し、3か月以内に現場で試せる具体的な改善を始めるための現実的な一歩となります。
ツールを導入することで、プロセス全体が標準化され、結果として具体的なコスト削減へとつながります。
特に上司や経営層に対しては、導入後の効果を具体的な数字で示し、投資対効果を明確にすることが重要です。
① 重複テストの削減
テスト管理ツールを導入する最大の効果の一つは、テストケースの一元管理を実現することです。
属人的な管理では過去の資産がどこにあるか見えず、新しいプロジェクトや改修のたびに、類似のテストケースを再作成したり、不必要に重複テストを実施したりするムダが生じていました。
ツール上ですべてのテストケースをデータベースとして管理することで、過去プロジェクトで作成されたテスト資産の再利用が促進されます。
これによりテスト設計フェーズでの工数が大幅に削減され、実行フェーズにおいても、不必要なテストの実行を避けることができます。
導入事例の中には、この重複テストの削減や資産再利用によって、テストケースの設計・実行にかかるコストを14.5%削減できたというデータもあります。
これはテスト品質を落とすことなく、無駄な作業を排除した結果であり、コスト削減の強力な根拠となります。
② 進捗・不具合管理の効率化
非効率な不具合管理と進捗報告は、開発とQAチーム間のコミュニケーションロスを生み、結果的に手戻りと工数増加を招きます。
テスト管理ツールは、テストの実行状況と不具合の発生状況を一箇所で管理し、一目でステータスを把握できるようにします。
テスターが不具合を発見した際、ツール上で直接詳細を登録すれば、開発者にリアルタイムで通知され、QA・開発間の情報共有の遅れを低減できます。
またテスト実行状況のダッシュボード機能を使えば、リーダーやマネージャーは、わざわざメンバーに個別に進捗状況を聞いたり、Excelを集計したりすることなく、ボトルネックとなっている箇所や遅延リスクを把握できます。
これにより状況報告のためのミーティング回数を削減でき、メンバーは報告資料作成ではなく、テストの改善や実行といった本質的な作業に集中できるようになります。
コミュニケーションの効率化は、チームメンバーの心理的な負荷軽減とモチベーションの向上にもつながるでしょう。
③ レポート作成の自動化
テスト管理ツールは、最も非生産的な「ムダ」の一つである、手作業による進捗レポート作成を劇的に効率化します。
Excel管理の場合、テストの実施結果や不具合の件数などのデータを手動で集計し、報告資料を作成する必要があり、この作業に多くの時間を費やしています。
ツールではテストの実行結果や不具合のステータスがリアルタイムで登録されるため、これらのデータを自動的に集計し、テスト結果を自動集計・可視化されたダッシュボードやレポートとして出力できます。
これにより報告資料を作成する時間を大幅に短縮でき、特にリリース直前の切羽詰まった状況下でのマネージャーの負担を軽減します。
自動生成されたレポートは、最新かつ客観的なデータに基づいているため、上層部への報告資料としての信頼性も高まります。
削減できた工数を、自動化スクリプトの作成や、より高度な探索的テストといった付加価値の高い業務に振り分けることが可能になります。
導入で失敗しないための3つのステップ
システムテストの効率化とコスト削減に不可欠なツール導入は、単に高機能な製品を選ぶだけでは成功しません。
現場の抵抗や、期待した効果が得られない「ツール導入貧乏」に陥るリスクを避けるためには、論理的かつ慎重なアプローチが必要です。
特に3か月以内に現場で試せる改善案を導入し、半年以内に定量的成果を示したいQAリーダーにとって、導入プロセスを誤ると、上層部への説得力を失いかねません。
ここでは品質を犠牲にせず、確実にコスト削減という結果を出すための、実践的な3つのステップを解説します。
現行プロセスの棚卸し
新しいツールや仕組みを導入する前に、まず行うべきは現行プロセスの棚卸しです。
現状の「ムダ」を可視化し、何がムダか、そしてどの作業が重いかを明確にすることが、効果的なツール選定と導入戦略の出発点になります。
この棚卸しでは、テストケースの作成、テスト環境の準備、テスト実行、不具合報告、進捗レポート作成といった全ての工程に対し、実際にどの程度の工数がかかっているのか、どのような手戻りが発生しているのかを定量的に記録します。
特にメンバー間のコミュニケーションや情報連携にかかる「間接的なムダ」も見落とさないように注意が必要です。
この棚卸しによって、「コストを削減したい」という要求に対する具体的な根拠と、「どのムダをツールで解決すべきか」という導入目的が明確になり、この後のPoCや全社展開の計画に不可欠な「ベースライン(比較対象となる現状の数値)」を設定できます。
小規模PoC(概念実証)で試す
棚卸しで特定された課題に対し効果が見込めそうなツールを選定したら、すぐに全社導入するのではなく、小規模なPoC(概念実証)を実施します。
PoCの目的は選定したツールが自社のテストプロセスと文化に本当に適合するか、技術的な実現可能性と費用対効果があるかを検証することです。
いきなり大規模に導入すると、失敗したときのコストや影響が大きくなってしまうため、小さく始める(スモールスタート)ことが成功の鍵となります。
検証の対象は最も工数削減効果が見込める特定のプロジェクトや、課題が明確な一部のチームに限定します。
このとき、現場メンバーの反応・実効性を確認することが非常に重要です。
いくら機能が優れていても、現場のメンバーが使いこなせなければ、結果的に属人化を招き、定着せずに終わってしまいます。
ツールの使いやすさ、既存システムとの連携のスムーズさ、「テストケースの再利用」や「進捗の可視化」といった具体的な改善項目が本当に実現できるかを検証し、現場からのフィードバックを基に次のアクションを決定します。
全社展開とKPI設定
PoCで費用対効果と現場の適合性が確認できたら、いよいよ全社展開のフェーズに移ります。
この段階で、導入したツールが恒久的なコスト削減の仕組みとして機能しているかを測定するためのKPI(重要業績評価指標)を具体的に設定し、上層部を納得させるためのROI(投資対効果)を測定する準備を行います。
コスト削減に直結するKPIの例としては、手作業による報告作業時間の短縮率、過去のテスト資産のテスト再利用率、不具合対応の効率を示す障害報告から修正完了までの平均リードタイムなどが挙げられます。
これらの指標は棚卸しで取得したベースラインと比較することで、ツールの導入効果を具体的な数値(例:年間〇〇人月分の工数削減)として示せます。
ROIを測定しその結果をチーム全体や経営層に共有することで、成功事例として定着させることができ、次の改善活動やより進んだ自動化ツールへの投資へ繋げる論理的な根拠となります。
継続的な測定と改善活動こそが、効率化によるコスト削減を組織文化として根付かせるための鍵です。
まとめ
システムテストのコスト削減は、単に目の前の工数を減らす作業ではありません。
むしろ、これまでの属人的な管理が生み出してきた「見えないムダ」を排除し、品質を組織の「資産」として長期的に活用するための戦略的な投資であると捉え直すことが、上司や経営層を説得するための強力な論拠となります。
ツール導入を「コストをかける施策」と見るか、「ムダなコストを抑え、品質を資産化する投資」と見るかで、意思決定の方向性は大きく変わってきます。
テスト管理ツールなどの導入は、目先の予算を確保するだけでなく、長期的な利益創出に直結します。
手動で対応していた膨大な回帰テストの実行工数が削減されれば、浮いたリソースを新たな技術学習や、より高度な探索的テストに振り分けられます。
これにより、リリース後の不具合発生率が下がり、顧客クレームや緊急改修にかかる年間コストを大幅に削減できます。
これは、単なるコストダウンではなく、開発への信頼が高まり、ビジネスの成長を支える「利益創出」につながる行為です。
属人化によって特定の担当者に依存していたテストノウハウを、ツールという「仕組み」の中に組み込み、「仕組みで品質をつくる」方向へ転換することが、企業の競争力を高めます。
導入効果を測定する際は、単なる「人月削減」だけでなく、「テスト再利用率の向上」や「障害報告件数の低減」といったKPIを設定し、それらがもたらす長期的なメリットを数字とストーリーで伝えることが、持続的な改善と自身の評価・キャリアアップにつながる成功事例を確実につくるための道筋となります。
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ