電子カルテのソフトウェアテストとは?重要なテスト観点・設計方法・優先順位を徹底解説

Webシステムや業務システムのテスト経験があっても、電子カルテでは「一般的なテストと何が違うのか」「どこまで確認すれば十分なのか」と迷いやすいものです。
電子カルテでは、単に画面や機能が仕様どおり動けばよいわけではありません。
患者情報の取り違え、診療記録の不整合、処方や検査結果の誤表示、外部システムとの連携不良などは、診療業務そのものへ影響する可能性があります。
そのため、不具合が起きた場合に医療現場へどのような影響が生じるかを考えながらテストを設計することが重要です。
また、現在の電子カルテは電子処方箋管理サービスや電子カルテ情報共有サービスなど外部サービスとの接続も広がっており、システム単体だけで品質を考えることが難しくなっています。
そこで今回は、電子カルテのソフトウェアテストで押さえたいテストの種類から特有の観点、テストケースの作り方、優先順位の付け方まで実務の流れに沿ってまとめました!
「何を・なぜ・どこまで確認するのか」を整理し、テスト計画やレビューで根拠を説明できる状態を目指しましょう。

電子カルテのソフトウェアテストは何が違う?まず全体像をつかもう!

電子カルテのソフトウェアテストを考える際は、最初から細かなテスト項目を作成するのではなく、品質を守る対象がどこまで広がっているかを把握することが大切です。
患者情報や診療記録など電子カルテ内部の機能だけでなく、医療機関内の各システムや外部サービスとの接続、利用者が集中した場合の性能、障害発生時の継続利用なども確認対象になります。
実際の標準型電子カルテの開発でも、単体・結合・総合という工程別テストだけでなく、シナリオ、ユーザビリティ、負荷、脆弱性、受入れなど幅広いテストが組み込まれています。
まずは「どの工程で、どの品質リスクを確認するのか」を整理してから、具体的なテストケースへ落とし込むことが重要です。
電子カルテでは「機能が動く」だけでは品質を守れない!
一般的な業務システムでも仕様どおりの動作は重要ですが、電子カルテではさらに誤った情報が診療判断や業務へ影響しないことまで考えて確認する必要があります。
たとえば患者検索が正常に動作していても、同姓同名の患者を見分けにくい表示になっていれば、実際の運用では患者を取り違えるリスクが残ります。
処方登録の処理が成功していても、患者・薬剤・用量・日時などが正しく保持されていなければ、機能として十分とはいえません。
さらに、医師が診療記録を入力し、検査や処方を指示し、その結果を別の職種が確認するといった一連の流れが成立するかも確認します。
「仕様に合っているか」と「医療現場で安全に使えるか」を両方見ることが、電子カルテのテストで欠かせない視点です。
単体・結合・総合・受入テストの役割を整理しよう!
電子カルテでも、開発工程に応じて単体テスト、結合テスト、総合テスト、受入テストを使い分けます。
単体テストでは入力チェックや登録・更新処理など個々の機能を確認し、結合テストでは患者情報、診療記録、オーダー、検査結果などが機能間で正しく受け渡されるかを確認します。
総合テストになると、本番に近い構成で診療シナリオや外部システム連携、性能、障害時の動作など、システム全体の品質を確認する範囲が中心です。
受入テストでは、実際に利用する医療機関側の視点から、想定した業務を問題なく行えるかを確認します。
標準型電子カルテの開発でも、テスト体制、環境、スケジュール、シナリオ、評価方法、合否判定基準を含む全体テスト計画が求められています。
各工程で何を保証するのかを分けることが、重複と抜け漏れを防ぐポイントです。
機能テストだけでは足りない!押さえるべきテスト種類を整理しよう!
電子カルテでは、患者登録や診療記録、処方、検査などが仕様どおり動くかを見る機能テストが基本になります。
一方で、それだけでは実際の利用環境で発生する問題を十分に見つけられません。
受付から診察、検査、処方などの流れを確認するシナリオテスト、他システムとの情報交換を見る連携テスト、大量アクセスやデータ量を想定する性能・負荷テストも必要です。
さらに、認証や権限、脆弱性などを見るセキュリティテスト、障害時のバックアップ・復旧確認、仕様変更後に既存機能が壊れていないかを見る回帰テストも重要になります。
標準型電子カルテの開発では、シナリオテスト、ユーザビリティテスト、アクセシビリティテスト、回帰テスト、負荷テスト、脆弱性診断、受入テストなども実施対象に含まれています。
機能・業務・連携・非機能の4方向からテスト種類を整理すると全体像をつかみやすくなります。

重大な不具合を見逃さない!電子カルテ特有のテスト観点を押さえよう!

電子カルテ特有のテスト観点を洗い出す際は、画面や機能の一覧を順番に確認するだけでは十分ではありません。
重要なのは、どの不具合が患者や診療業務へ大きな影響を与えるかから逆算することです。
患者情報、診療記録、処方、検査結果、利用者権限、外部システム連携などは、特に重点的に確認したい領域になります。
また、平常時だけでなく、通信断やシステム障害、データ量の増加など、実運用で起こり得る条件を加えて考える必要があります。
電子カルテの標準仕様でも、可用性やデータ保管、バックアップ、セキュリティなどが重要な非機能要件として扱われています。
ここからは、テストケースへ具体的に反映したい代表的な観点を整理します。
患者情報の取り違えを防ぐテストを最優先にしよう!
電子カルテで特に慎重に確認したいのが、表示・入力している情報が正しい患者に紐づいているかという点です。
通常の患者検索だけでなく、同姓同名、似た氏名、同一生年月日など、取り違えが起こりやすい条件を用意して確認します。
複数患者のカルテを連続して開くケースでは、前に閲覧していた患者の情報や入力内容が別患者の画面へ残らないことも重要です。
患者基本情報を変更した場合には、診療記録や関連機能、連携先システムとの間で古い情報と新しい情報が混在しないかも確認します。
さらに、患者情報の訂正や統合など日常的な登録処理から外れるケースでは、過去データとの対応関係が崩れないことも確認対象です。
正常な操作だけでなく、途中キャンセル、画面切り替え、複数画面の利用、通信断などを組み合わせると、実運用に近いリスクを拾いやすくなります。
診療記録・処方・検査は「業務の流れ」で確認しよう!
診療記録、処方、検査をテストする場合は、それぞれを独立した機能として見るだけでなく、前後の業務と正しくつながっているかを確認します。
診療記録では、入力、保存、追記、訂正、履歴確認までを通して、情報が矛盾なく保持されているかを見ることが重要です。
処方や各種オーダーでは、患者、薬剤、用量、日時など必要な情報が正しく登録され、変更や中止を行った場合にも最新状態が適切に反映されるか確認します。
検査では、依頼を登録して終わりではなく、検査側で処理され、結果が電子カルテへ戻り、正しい患者の画面へ表示されるまでを一連のシナリオとして捉えます。
また、医師だけでなく、看護師、検査部門、医事担当者など複数の利用者をまたぐ流れも確認します。
一つひとつの機能が正常でも、業務全体では成立しないケースがあるため、職種やシステムをまたいだ確認が欠かせません。
外部システムとの連携は「送れたか」だけで終わらせない!
現在の電子カルテでは、レセプトコンピュータ、検査システム、画像関連システム、電子処方箋管理サービス、電子カルテ情報共有サービスなど、複数のシステム・サービスとの連携が発生します。
そのため連携テストでは、通信が成功したことだけでなく、送信した情報が相手側で正しく解釈され、業務で利用できる状態になっているかまで確認することが重要です。
患者識別情報、コード、日時、単位、ステータスなどが送信元と受信先で一致しているかを確認します。
対象システムによっては、HL7(Health Level Seven)、FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)などの医療情報標準も関係します。
電子カルテ情報共有サービスでもFHIRを用いた情報連携の技術仕様が整備されています。
通信失敗、タイムアウト、再送、重複送信、順序の入れ替わりなども加え、連携異常がデータ欠落や二重登録につながらないかを確認することが大切です。
権限・セキュリティは「見えてはいけない情報」から考えよう!
電子カルテでは多くの診療情報を扱うため、セキュリティテストでは「必要な利用者が使えるか」だけでなく、権限のない利用者から情報を守れているかを見ることが重要です。
医師、看護師、医事担当者、システム管理者など役割ごとに権限を整理し、閲覧・登録・変更・削除できる範囲が想定どおりになっているか確認します。
画面上でメニューを隠しているだけではなく、直接的な画面遷移や不正なリクエストでも権限を超えた操作ができないことまで検証する必要があります。
ログイン、ログアウト、セッション切れ、認証失敗などの異常系も確認対象です。
また、重要な情報へのアクセスや変更を追跡できるよう、必要な操作履歴が正しく記録されることも確認します。
電子カルテの標準仕様では、セキュリティ要件に加えて脆弱性診断やペネトレーションテストも検討対象となっています。
アプリの機能テストと専門的なセキュリティ検証を分けて計画することが重要です。
障害・性能・バックアップは「診療を止めない」視点で確認しよう!
電子カルテは日々の診療業務で継続して利用されるため、正常時の機能確認だけでなく、負荷や障害が発生したときにどの程度業務を維持できるかも重要な品質項目です。
利用者が集中した場合に、患者検索やカルテ表示、オーダー入力など主要操作の応答時間が大きく悪化しないか確認します。
性能テストでは、少量のテストデータだけでなく、本番運用で想定される患者数や診療記録の蓄積量を考慮することも重要です。
サーバー、ネットワーク、外部サービスなどに障害が発生した場合には、利用可能な機能と利用できなくなる機能を確認します。
バックアップについても「取得に成功した」で終わらせず、実際にリストアして必要なデータを復元できるかまで確認します。
標準仕様では可用性、バックアップ、セキュリティなどが非機能要件として扱われ、標準型電子カルテの設計でもシステムバックアップやデータバックアップ、障害時の縮退・継続運転が検討対象になっています。
障害発生後に二重登録や未送信データが残っていないかまで確認することがポイントです。

抜け漏れを減らす!電子カルテのテスト設計を実務に落とし込もう!

テスト観点を理解していても、そのままでは実際のテストケースにはなりません。
電子カルテのテスト設計では、要件・業務・リスクを結び付けて具体的な確認条件へ変換する作業が重要になります。
まず要件定義書や設計書からシステムの機能を把握し、それぞれを利用する職種や業務の流れを整理します。
次に、「この機能で問題が起きた場合に何が困るのか」を考え、リスクの大きい部分から観点を広げていきます。
そのうえで、正常系、異常系、境界値、状態遷移、権限差、連携異常などをテストケースへ具体化します。
テスト工数が限られる場合には、全機能を同じ密度で確認するのではなく、重要度に応じて確認の深さを変えることも必要です。
いきなりテストケースを書かず、要件と業務フローを整理しよう!
テスト設計を始める際、設計書の機能一覧からすぐに操作手順を書き始めると、機能間や職種間のつながりにあるリスクを見落としやすくなります。
まずは「誰が、どのタイミングで、何のために使う機能なのか」を整理します。
たとえば受付、診察、検査、処方、会計という流れを可視化すると、患者情報やオーダー情報がどこで生成され、どのシステムへ渡されるのかが把握しやすくなります。
そのうえで、正常系だけでなく、入力値の境界、処理途中での中断、ステータス変更、利用者権限の違いなどへ観点を広げます。
仕様書を読んでも期待結果が判断できない箇所は、単なるテスト担当者の疑問として処理せず、仕様上の曖昧さとして早い段階で確認することが重要です。
テスト設計を「完成した仕様を確認する工程」ではなく、仕様の抜けや矛盾を見つける品質活動として扱うことで、後工程での手戻りも減らしやすくなります。
「リスク×機能×業務」でテスト観点を洗い出そう!
電子カルテのテスト観点を効率よく洗い出すには、機能一覧だけでなく、起こしてはいけない問題から逆算する方法が有効です。
まず、患者取り違え、処方情報の誤り、検査結果の誤表示、診療業務の停止、情報漏えいなど、影響の大きい事象を整理します。
次に、それぞれの事象につながる可能性がある機能、データ、利用者、外部システムを紐づけます。
同じ発生可能性でも、患者や診療への影響が大きい問題ほど優先順位を高くします。
高リスクの機能では正常系だけでなく、異常系、境界値、権限差、通信障害など複数の条件を組み合わせて確認します。
一方、低リスクの機能まで同じ密度でテストすると、工数が増える一方で重要部分へ十分な時間を割けなくなる可能性があります。
「この不具合が起きたら何が困るか」を説明できる状態にしてからケース数を決めると、テストの優先順位にも根拠を持たせやすくなります。
実際の診療を想定したシナリオへ落とし込もう!
シナリオテストでは、一画面の入力やボタン操作を確認するのではなく、実際の診療業務が最初から最後まで成立するかを確認します。
たとえば、患者受付、診察、オーダー登録、検査実施、結果確認、処方という一連の流れを一つのシナリオとして設計します。
新患と再来、外来と入院など業務条件が異なる場合は、重要なパターンを分けて用意します。
さらに、処方内容を途中で変更する、検査を中止する、患者情報を訂正するなど、現場で起こり得る分岐を追加すると実践的なテストになります。
複数の職種や端末、外部システムをまたぐ場面では、前工程の処理結果が後工程へ正しく伝わっているかも確認します。
標準型電子カルテの開発でもシナリオテストや利用者による受入テストが明確に位置付けられています。
期待結果は「エラーが出ない」とするのではなく、画面表示、登録データ、連携データ、ステータスまで具体化することが大切です。
時間が足りないときこそ、テストの優先順位を明確にしよう!
実務ではテスト期間や要員が限られているため、すべての機能を同じ深さで確認することは現実的ではありません。
そこで、患者への影響、業務への影響、利用頻度、変更量、過去の障害実績などを使って優先順位を決めます。
患者情報、診療記録、処方、検査、重要な外部連携など、問題発生時の影響が大きい領域にはテスト工数を厚く配分します。
仕様変更が入った場合は、変更した機能だけを見るのではなく、同じデータを利用している画面や後続処理、外部連携まで影響範囲を追うことが重要です。
繰り返し確認する回帰テストでは自動化を活用し、人による判断が必要な診療シナリオやユーザビリティ確認へ時間を振り分ける方法もあります。
標準型電子カルテの開発でも、反復して実施するテストは原則として自動化する方針が示されています。
また、不具合件数だけで品質を判断せず、重大な未解決不具合、重要シナリオの結果、残存リスクなどを踏まえてテスト開始前に終了条件と合否基準を決めることが重要です。
テスト結果を次の品質改善につなげよう!
テストで見つかった不具合は、修正して再テストが通れば終わりとするのではなく、なぜ発生し、なぜそれまで見つからなかったのかまで振り返ることで次の品質改善につながります。
原因を要件漏れ、仕様の曖昧さ、設計ミス、実装ミス、テスト観点不足などに分類すると、同じ種類の問題を予防しやすくなります。
一つの画面で見つかった不具合でも、共通部品や同じロジックを利用している別機能へ横展開して確認することが重要です。
また、レビューで繰り返し指摘される観点はチェックリストやテスト設計ガイドへ蓄積すると、担当者による品質のばらつきを抑えやすくなります。
仕様変更やバージョンアップ時には、既存のテストケースも見直し、現在の業務や仕様と合わなくなったケースを更新します。
電子カルテでは医療業務とソフトウェア品質の両方の知識が求められるため、必要に応じて医療機関の実務担当者や品質保証の専門担当者をレビューへ加えることも有効です。
テスト結果を次の設計やテスト計画へ戻す仕組みを作ることが、長期的な品質向上につながります。

まとめ|電子カルテのテストは「医療現場のリスク」から逆算しよう!

電子カルテのソフトウェアテストでは、一般的な機能確認に加えて、患者情報、診療業務、外部システム連携、セキュリティ、性能、障害復旧など幅広い観点が必要です。
重要なのは、テストケースの数を増やすことではありません。
「どの不具合を本番環境へ出してはいけないのか」を明確にし、そのリスクから必要な確認内容を逆算することが重要です。
要件と診療業務の流れを整理し、患者安全や業務への影響と各機能を結び付ければ、電子カルテ案件の経験が浅い場合でもテスト観点を体系的に洗い出しやすくなります。
限られた工数の中では、患者情報、診療記録、処方・検査、重要な外部連携など影響度の高い部分へ重点的にテストを配分することも欠かせません。
また、電子カルテ情報共有サービスなど外部とのデータ連携が広がる中では、電子カルテ単体の正常動作だけでなく、複数システムをまたいだ品質保証の重要性もさらに高まっています。
まずは担当システムについて、「重大な問題につながるリスク」「主要な診療シナリオ」「外部システムとの連携」の3点を整理し、現在のテスト計画に不足がないか確認するところから始めましょう。
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ(マーケター、合同会社ぎあはーと代表)

