「リスクベースドテストとは?」基本、実践ステップ、成功のコツを徹底解説!

ソフトウェア開発の現場では、「限られた時間とリソースの中で、いかにして高品質な製品をリリースするか」という課題に日々直面しています。

特にテスト工程においては、「どこまでテストを実施すれば十分なのか」「重要な不具合を見逃してしまわないか」といった不安や疑問が尽きないのではないでしょうか。

すべての機能を網羅的にテストするには膨大なコストと時間が必要となり、現実的ではありません。

このような状況において、より賢く、より効率的にテストを進め、かつ本質的な品質向上を目指すためのアプローチとして注目されているのが「リスクベースドテスト」です。

このテスト手法は、プロジェクトに潜む「リスク」に着目し、その重要度に応じてテストの優先順位や範囲を決定することで、限られたリソースを最も効果的な箇所に集中させることを可能にします。

そこで今回は、このリスクベースドテストについて、基本的な概念やメリットから、具体的な導入ステップ、そしてプロジェクトで確実に成果を出すための成功のポイントまで、段階を追って分かりやすく解説します!

この記事を読み進めることで、以下の項目を網羅的に理解することができるでしょう。

・リスクベースドテストがなぜ必要なのか、その核心となる考え方

・どのような目的で導入し、どんな効果が期待できるのか

・実際のプロジェクトでどのように進めていけば良いのか、具体的な6つのステップ

・導入を成功させ、その効果を最大限に引き出すための3つの重要なコツ

テストの品質と効率のジレンマを解消し、より戦略的な品質保証活動を目指すための一助となれば幸いです。

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リスクベースドテストってなに?その基礎知識

ソフトウェア開発におけるテストは品質確保に不可欠ですが、時間やコストには限りがあります。

「どこまでテストすれば十分なのか」「重要な不具合を見逃していないか」といった悩みは尽きません。

リスクベースドテストは、こうした課題に対する効果的なアプローチの一つです。

この章では、リスクベースドテストとは具体的にどのような考え方で、従来のテストと何が違うのか、その基本的な概要と特徴、そして実践することでどのような効果が得られるのかについて、わかりやすく解説していきます。

リスクベースドテストの概要と特徴

リスクベースドテストとは、その名の通り、プロジェクトに潜む「リスク」に着目し、そのリスクの高さに応じてテストの優先順位や深さを決定していくテスト戦略を指します。

例えば、システム障害が発生した場合のビジネスへの影響の大きさや、技術的な複雑さから不具合が発生しやすい箇所などを総合的に評価し、より重要度の高い部分から重点的にテストを実施していくのです。

従来のテスト手法では、機能一覧に基づいてテストケースを作成し、可能な限り広範囲をカバーしようとする傾向がありました。

しかし、すべての機能が同じ重要度を持つわけではありませんし、すべての箇所で均等に不具合が発生するわけでもありません。

そこでリスクベースドテストは、このような画一的なアプローチから脱却し、より賢く、そして効率的に品質を担保することを目指します。

大まかな実践方法と導入効果

では、実際にリスクベースドテストを実践するには、どのように進めれば良いのでしょうか。

まず、プロジェクトに関連する潜在的なリスク、例えば障害発生時のビジネスインパクトの大きさ、技術的な複雑性、あるいは過去に不具合が多発した実績のある箇所などを具体的に洗い出します。

その上で、各リスクの発生可能性と影響度を基に、テストの優先度を評価します。

そして、この評価結果をもとに、「どの機能を重点的にテストすべきか」「どのテストケースに多くの時間を割くべきか」といった具体的な判断を行い、テスト計画へと反映させていきます。

このようにリスクの高い領域にリソースを集中させることで、テスト活動の効率を飛躍的に高めることができるだけでなく、プロジェクト全体の成功確率をも向上させることが期待できるのです。

リスクベースドテストを実施する目的

ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、テストは品質を保証するための極めて重要な活動です。

しかし、利用可能な時間や予算、人員といったリソースには常に限りがあります。

全ての機能を隅々まで完璧にテストすることは、多くの場合現実的ではありません。

このような制約の中で、最大限の効果を上げるために採用されるのがリスクベースドテストという考え方です。

では、具体的にリスクベースドテストはどのような目的を持って実施されるのでしょうか。

効率的にテストを進め、本当に守りたい品質を確保する

リスクベースドテストを実施する最も直接的な目的の一つは、テスト活動そのものの効率を最大限に高め、リソースを最も効果的な箇所に集中させることです。

プロジェクトに潜むリスクを特定し、その影響度や発生可能性を評価することで、テストすべき箇所の優先順位が明確になります。

これにより、限られたテストリソースを、ビジネスインパクトの大きい重大な欠陥が潜んでいる可能性の高い機能や、複雑で不具合が発生しやすいモジュールへ集中的に投下できるようになります。

結果として、闇雲にテストを行うよりもはるかに効率的に、重要な問題を発見し対処することが可能となるのです。

さらに、このアプローチは単に多くのバグを見つけることだけを目的としていません。

より本質的な目的は、製品やサービスがリリースされた後に発生した場合に、ビジネスに深刻な損害を与えかねない致命的な欠陥を未然に防ぐこと、つまり効果的な品質保証を実現しビジネスリスクを低減することにあります。

リスク評価を通じて、そのような重大な欠陥に繋がりうる箇所を重点的に検証することで、リリース後の予期せぬトラブルを最小限に抑え、顧客満足度や企業の信頼性を維持・向上させることを目指します。

プロジェクトを成功に導き、チームをさらに成長させる

リスクベースドテストは、個々のテスト活動の効率化や品質保証の強化に留まらず、プロジェクト全体の成功率を高めることにも貢献します。

重要な欠陥が開発サイクルの早期に発見され修正されることで、開発終盤での大規模な手戻りを防ぎ、結果としてプロジェクトの遅延リスクを軽減できます。

これは、納期遵守という観点からも非常に大きなメリットです。

また、リスクを分析し評価するプロセスは、開発チーム全体が製品に対する理解を深め、潜在的な問題点について共通認識を持つ良い機会となります。

このテストアプローチを通じて得られた知見やデータは、単にそのプロジェクトだけで終わるものではありません。

将来のプロジェクトにおけるリスク管理能力の向上や、開発プロセス全体の継続的な改善活動へと繋がっていくことも期待されるのです。

これらの目的を達成することが、品質保証担当者やチームリーダーにとって、プロジェクトへの貢献実感を高め、専門性を深める上で大きな意義を持ちます。

リスクベースドテストの進め方!6つのステップ

リスクベースドテストの有効性を理解しても、実際にプロジェクトへどう導入し、どのような手順で進めていけば良いのか、具体的な流れを把握することが成功の鍵となります。

この章では、リスクベースドテストを効果的に実践するためのステップを、初期のリスク特定から始まり、分析・評価、テスト戦略の策定、計画への落とし込み、実際のテスト実行、そして最終的な結果の評価とフィードバックに至るまで、一連のプロセスとして分かりやすく解説していきます。各

ステップのポイントを押さえることで、よりスムーズな導入と実践が可能になるでしょう。

ステップ1:リスクの洗い出し(リスク特定)

まず最初のステップは、プロジェクトの対象となるソフトウェアやシステムに潜むあらゆるリスクを可能な限り洗い出す作業です。

手法としては、仕様書や設計書のレビュー、開発メンバーや関係者へのヒアリング、過去のトラブル事例の調査、ブレインストーミングなどが挙げられます。


たとえば、「システム停止時の業務影響」「個人情報漏洩リスク」「性能劣化の懸念」「技術的な未成熟さ」など、影響が大きくなり得る箇所を幅広くリストアップすることが重要です。

ステップ2:リスクの分析と評価

洗い出したリスクに対して、「発生する可能性」と「発生した場合の影響度」を評価します。

この2軸で各リスクの重大性を数値化または定性的に分類することで、リスクの優先度(リスクレベル)を明確にします。

金銭的損失や社会的信用への影響など、多面的にリスクの大きさを検討することがポイントです。

リスクマトリクスを用いると、可視化もしやすくなります。

ステップ3:テスト戦略の策定

リスク評価結果をもとに、どのリスク領域にどのようなテストを行うかを決定します。

リスクレベルの高い項目には、詳細なテストケースやより広範なカバレッジを設けるなど、重点的なテスト方針を立てます。

 一方、リスクの低い項目については、必要最低限の検証にとどめるなど、リソース配分を最適化する判断が求められます。

ステップ4:テスト計画への反映

策定したテスト戦略を、テスト計画書に具体的に落とし込みます。

どの機能にどのテスト技法を用いるか、どれだけの人員・工数・テスト環境が必要かなどを明確にし、実行可能なプランにします。


この段階での準備の精度が、後のテスト実行効率に大きく影響します。

ステップ5:テストの実施とリスクのモニタリング

テスト計画に基づき、実際にテストを進めていきます。同時に重要なのは、実行中もリスク状況を継続的に監視し続けることです。


新たなリスクの出現や、初期評価の見直しが必要になることもあるため、状況に応じた柔軟な対応が求められます。

ステップ6:結果の評価とフィードバック

テスト終了後は、リスクが十分に軽減されたかを評価し、計画が有効だったかを振り返ります。

リスク特定・評価・戦略策定の精度についても見直し、今後のプロジェクトに活かすために教訓や改善点を記録・共有します。

これにより、テストとリスク管理の成熟度を高める継続的な改善が可能になります。

リスクベースドテストを成功させる3つのポイント!

リスクベースドテストの概念を理解し、その進め方を把握したとしても、実際にプロジェクトで成果を上げるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

単に手順を追うだけでなく、これらのポイントを意識することで、リスクベースドテストの効果を最大限に引き出し、プロジェクトの成功確度を高めることができます。

1.チームの力を最大限に!協力体制と学び続ける雰囲気づくり

リスクベースドテストを成功させる上で、まず最も基本的な土台となるのは、関わる「人」とそれを支える「組織」の力です。

効果的なリスクの洗い出しや評価のためには、テスト担当者だけでなく、開発者、プロジェクトマネージャー、ビジネス担当者など、さまざまな立場の人の情報や知見が不可欠です。

そのため、プロジェクト開始の早い段階で、関係者全員がリスクベースドテストの目的、進め方、そして期待される効果について共通の認識を持つことが重要になります。

定期的なミーティングや情報共有の場を設け、オープンなコミュニケーションを心がけることで、より精度の高いリスク評価と、それに基づいた効果的なテスト戦略の策定が可能になります。

さらに、テスト結果から得られた学びを次に活かすためには、失敗を恐れず、チーム全体で継続的に改善に取り組む雰囲気、つまり学び続ける文化を育むことも、長期的な成功には欠かせません。

2.リスクを見誤らない!客観的な評価とビジネス視点の持ち方

次に、リスクベースドテストの中核となるリスク評価とその活用においては、客観性と戦略性が求められます。

リスクの評価が特定の個人の主観に大きく左右されたり、プロジェクトの初期段階で一度行ったきり見直されなかったりすると、その効果は半減してしまいます。

リスクを評価する際には、過去のプロジェクトデータや業界の統計などを参考に、できる限り客観的な基準を設けることが望ましいです。

また、プロジェクトの進行に伴って状況は変化するため、特定したリスクの評価は定期的に見直し、新たなリスクが出現していないかも監視し続ける必要があります。

さらに重要なのは、このテスト戦略がビジネス目標としっかりと連携していることです。

テストの優先順位は、技術的な観点だけでなく、それがビジネス目標の達成にどれだけ貢献するか、あるいは顧客にどのような価値を提供するかという視点からも考慮されるべきです。

例えば、収益に直結するコア機能や、ブランドイメージに大きく関わる機能などは、ビジネス上のリスクが高いと判断し、テストを手厚くするべき場合があります。

プロダクトオーナーやビジネスサイドと密に連携を取り、テスト活動がビジネス全体の成功に貢献していることを確認し続ける姿勢が成功の鍵となります。

このビジネス視点を持つことが、的確なリスク判断に繋がります。

3.ツールで効率化!学びを次に活かす改善の仕組みづくり

そして、リスクベースドテストを日々の業務に落とし込み、継続的にその効果を高めていくためには、適切なツールの活用と改善サイクルの確立が不可欠です。

リスクの洗い出し、評価、追跡、そしてテストケースの管理などを手作業で行うのは非常に煩雑であり、ミスも発生しやすくなります。

市販されているリスク管理ツールやテスト管理ツール、あるいはExcelなどのスプレッドシートを活用するにしても、自社のプロセスやプロジェクトの特性に合わせてテンプレートを準備し、カスタマイズして使用することが推奨されます。

これにより、作業の標準化と効率化が図れ、チームメンバーはより本質的なリスクの分析やテスト戦略の検討に集中できるようになります。

さらに、テストが完了したら、その結果を詳細に分析し、リスクベースドテストのアプローチが有効だったのか、リスク評価の精度はどうだったのかなどを振り返ります。

そして、そこで得られた知見や教訓を次のプロジェクトやテストサイクルに活かしていくための具体的な仕組み、つまりフィードバックループを確立することが、組織全体のテスト能力と品質保証レベルを継続的に向上させる上で非常に重要です。

この「実践し、学び、改善する」という仕組みを回し続けることで、リスクベースドテストは真に組織に根付き、その価値を最大限に発揮するでしょう。

まとめ

この記事では、「リスクベースドテストとは何か」という基本的な疑問から、その具体的な実施目的、進め方の6つのステップ、そして成功に導くための3つの重要なポイントに至るまで、包括的に解説してきました。

リスクベースドテストは、限られた時間とリソースの中で、ソフトウェアの品質を最大限に高めるための非常に有効な戦略です。

すべての機能を網羅的にテストするのではなく、プロジェクトに潜むリスクを的確に評価し、影響の大きな箇所にテストリソースを集中させることで、効率性と効果性の双方を追求します。

リスクベースドテストを導入することで、具体的には以下のようなメリットが期待できます。

・テスト工数の最適化とリソースの有効活用

・重大な欠陥の早期発見による本質的な品質の確保

・ビジネスリスクの戦略的な低減とプロジェクト成功率の向上

そして、このアプローチを成功させるためには、特に以下のポイントが重要となります。

チームの力を最大限に活かす:関係者全員での共通理解と協力体制を構築する。

リスク評価の質を高める:客観的な基準に基づき、継続的に評価を見直す。

ビジネス視点を持つ:テスト戦略をビジネス目標としっかりと連携させる。

効率化を図る:適切なツールやテンプレートを活用し、業務に合わせてカスタマイズする。

継続的に改善する:テスト結果を分析し、学びを次に活かすフィードバックループを確立する。

この記事で紹介した知識やステップ、成功のポイントが、日々のテスト業務における課題解決の一助となり、リスクベースドテスト導入への第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

まずは小さな範囲からでも試してみることで、その効果を実感できるはずです。

このアプローチを採り入れ、実践を重ねることで、テストプロセスはより洗練され、プロジェクトの成功はもちろん、チーム全体の品質に対する意識と能力の向上にも繋がっていくでしょう。

ぜひ、リスクベースドテストを活用して、品質の高いソフトウェア開発を実現してください!

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ