自動化してもなぜ効率化できない?──“テスト管理の穴”が生産性を奪う

期待を込めてテスト自動化を導入したにもかかわらず、「なぜか現場の工数が減らない」「むしろ以前より面倒になった」と感じることはありませんか。
テスト自動化は、本来、時間のかかる反復作業からエンジニアを解放し、生産性を劇的に向上させるための手段です。
しかし、多くの現場で、その期待していた「自動化=効率化」が実現しないという現実があります。
その原因の多くは、テスト実行レイヤーではなく、テストの「管理」レイヤーに潜んでいます。例えば、以下のような状況に心当たりはないでしょうか。
| 「自動化スクリプトはあるのに、UI変更のたびにメンテナンスが大変でつらい。結局、手動でテストするのと大差ないのでは?」 「自動テストの結果レポートは出るが、それを手動テストの結果や全体カバレッジと照らし合わせ、Excelにまとめて上司に報告するだけで半日消えてしまう」 「手動テストと自動テストが混在しているため、現状、どこまでテストできていて、どの部分にリスクが残っているのかが誰にも正確に分からない」 |
スクリプトを作成・実行する技術的な課題をクリアしても、その結果の集約、進捗管理、テストの全体設計という「管理の穴」が生産性を大きく奪ってしまうのです。
これは、自動化の初期投資だけでなく、その後の運用・保守の負担増にもつながり、プロジェクトにとって重荷となってしまいます。
そこで今回は自動化の効果を相殺してしまう「管理の壁」に焦点を当てます。
この壁を乗り越え、テストプロセス全体を可視化・統合することで、真のテスト自動化と効率化を実現する方法、そしてそれを支える「テスト管理ツール」の必要性について解説していきましょう!

なぜ“自動化だけ”では効率化できないのか?
主な理由として、テストスクリプトが単独で存在してしまい、管理・連携・再利用の仕組みが整っていないことが挙げられます。
ここではその構造的なギャップに焦点を当て、特に「① 自動化スクリプトが“点”で存在している」「② テストデータ・結果が分散し、再利用できない」「③ CI/CDとの接続が弱く、流れが断絶している」という3つの観点で深掘りします。
① 自動化スクリプトが「点」で存在している
自動化を実施する際、各開発者やQA担当がそれぞれ独自にスクリプトを作成し、プロジェクト内での共通仕様や運用ルールなしに運用されてしまうことがあります。
すると、実行結果が異なるフォーマットや位置に記録されたり、失敗原因の特定に時間がかかったりします。
例えばUI変更によりスクリプトが壊れた場合、どのスクリプトが影響を受けたかを追跡できず、かえって複雑さが増すという報告もあります。
自動化が“点”でしか存在しない状態では、「管理されない自動化」がむしろ生産性を損なう要因になり得るのです。
② テストデータ・結果が分散し、再利用できない
テスト自動化を進めるうえで、実行結果やテストデータ、バージョン情報、環境条件などが分散管理されていると、どこでどのテストが通ったのか、どの修正により影響を受けたのかを追跡できなくなります。
報告がExcel、チャット、JIRAなど複数のツールに分かれていると、結果として“使い捨て”のテストが量産され、再利用できる資産に育ちません。
再利用可能な情報基盤が構築されていないと、効率化の土台が揺らいでしまいます。
③ CI/CDとの接続が弱く、流れが断絶している
現在ではJenkinsやGitHub Actionsを用いたCI/CDパイプラインが普及していますが、自動化されたテストの成果がテスト管理ツールや報告基盤と連携していないケースがあります。
こうした断絶があると、実行されたテストの結果が品質可視化や意思決定に活かされず、“自動実行”と“管理/活用”が切り離された状態になります。
例えば、ある調査ではテスト自動化プロジェクトの73%が期待していた効果を出せず、実行速度は上がってもメンテナンスコストが60%以上を占める事例も報告されています。
このような状況では、自動化の投資が開発サイクルのボトルネックになってしまう危険があります。
本当に効率化するチームが共通して持つ“3つの仕組み”
テスト自動化を真の効率化につなげているチームには、単にスクリプトが存在するだけではなく、その自動化資産を開発プロセス全体に組み込み、継続的に活かすための「管理の仕組み」があります。
これこそが、手動テストの負担を減らし、CI/CDのサイクルを加速させ、品質を安定的に高める鍵です。ここでは、特に重要となる3つの仕組みについて整理します。
① カスタマイズ性の高いテスト管理ツールで“現場のやり方”を反映
テスト管理の停滞は、多様なプロセスやテスト種別を、柔軟性のないツールやExcelの形式に無理やり押し込めようとすることから生じます。
効率化を実現しているチームが使うテスト管理ツールは、プロジェクトごと・チームごとに異なる粒度で項目定義や権限管理を柔軟にカスタマイズできる点が特徴です。
たとえば、あるプロジェクトでは「実行単位」を細かく分けたい、別のチームでは「セキュリティチェック」や「パフォーマンス影響度」など独自のラベルを付けたいといったニーズがあります。
また、テスト結果のテンプレートも、顧客向けレポート用と開発者向けデバッグ用とで異なる項目を持たせたい場合があるでしょう。
こうした多様な要求をツールが受け止め、チームに合わせて柔軟に育つことで、現場の思考や手順を妨げることなく管理が行えます。その結果、ツールの定着率が高まり、テスト全体の可視化と共有がスムーズに進むようになります。
② CI/CD・バグトラッキングとの高い連携性で“流れを断たない”
多くの現場では、テスト実行環境(JenkinsやGitHub Actions)、テストケース管理、バグトラッキング(JIRAなど)、チームコミュニケーション(Slackなど)が別々に存在し、情報の連携が手動で行われています。
この“断絶”こそが、自動化によって削減したはずの工数を再び奪い返す大きな原因です。
理想的なテスト管理ツールは、GitHubやJIRA、Jenkinsなどのシステムと双方向に連携し、実行から報告、修正までのサイクルを自動化します。
たとえば、自動テストが失敗すれば、そのログやスクリーンショットがJIRAのチケットとして自動起票され、修正後には該当テストケースが「再テスト対象」として自動的にフラグ付けされます。
この仕組みによって手動転記や報告作業が不要となり、常に最新のテスト状況がリアルタイムで共有されます。
結果として、開発リソースを無駄にせず、プロセス全体が高速かつスムーズに流れるようになります。
③ テスト結果の再利用で“積み上がる品質資産”を構築
テスト工数の削減には、新しいテストを作らない工夫だけでなく、既存のテスト資産をどれだけ効果的に再利用できるかが重要です。
リリースを重ねるごとにテストケースは増加しますが、毎回すべてを実行するのは非効率です。
効率的なテスト管理ツールは、過去の実行履歴やテスト間の関連データを分析し、再利用すべきケースを自動的に提案します。
さらに、コードの変更差分やカバレッジ情報と連携することで、影響範囲を特定し、再実行すべきテストだけを抽出する機能も備えています。
これにより、広範囲なリグレッションテストを最小限に抑えつつ、品質を維持することができます。
こうして蓄積されたテストデータは、単なる記録ではなく「やった分だけ早くなる」品質資産として機能します。
長期的には、テスト時間と人的コストを削減し、バグの再発やリグレッションを抑えることで、開発スピードと品質を両立させる基盤となります。
ツール導入を成功させる3ステップ
テスト管理ツールは、導入した瞬間から劇的な効果が現れる“特効薬”ではありません。
その真価を発揮させるには、現場の状況を正しく理解し、運用を見据えた段階的なプロセスが欠かせません。
特に、効率や生産性を重視し、短期間で改善を進めたいエンジニアほど、焦ってツールを選ぶと失敗しやすい傾向にあります。
ここでは、導入を成功に導くための3つのステップを紹介します。
① 現状のテストプロセスを「見える化」する
ツール導入の前に欠かせないのが、現行のテストプロセスに潜む課題を洗い出す「業務棚卸し」です。
手動テスト・自動テストを問わず、どこで情報が分断しているか、どこに負荷が集中しているかを具体的に確認します。
たとえば、「自動テスト結果はGitHub Actionsのログにあるが、手動テストの結果はExcel」「不具合チケットはJIRAで、テストケースはConfluence」といった情報の分断を特定します。
そのうえで、ツールで管理すべき対象――テストケース、実行結果と証跡、不具合チケットとの紐づけ、利用環境(OSやブラウザなど)――を明確にしていきます。
このステップを経ることで、非効率の根本原因である“テスト管理の穴”が浮かび上がり、どのようなツールが自社に適しているかの判断基準が明確になります。
導入後のミスマッチを防ぐと同時に、テスト自動化と管理の連携をスムーズに進めるための基盤づくりとなります。
② 自動化と管理の両面で“継続運用できる”設計をする
ツールを選ぶ段階から、長期的な運用を意識した設計が重要です。
自動化スクリプトの開発スキルがあっても、管理ツールとの接続が不十分だったり、チーム全体で無理なく使えなかったりすれば、運用はすぐに行き詰まります。
導入初期から、自動化スクリプトの実行結果を管理ツールへ連携させるためのAPI設計やデータ形式を意識しておくことが大切です。
これにより、テスト結果を手作業で転記する手間をなくし、実行から管理までの流れを一気通貫でつなげられます。
また、新しいツールやルールを導入した直後は、チームが慣れるまでに時間がかかります。
「最初の1か月は少し遅くても構わない」という心構えで、あえて余裕を持つことが大切です。自動テストの実行ルールや結果の記録方法、不具合の起票基準などを徹底して定着させることで、属人化を防ぎ、“テストをきちんと行う文化”がチーム全体に根づきます。
③ 再利用性の高い仕組みにアップデートしていく
ツールの運用が軌道に乗ったら、次のステップは蓄積されたテストデータを“使い倒す”ことです。テスト結果は単なる記録ではなく、次の改善を生み出す貴重な資産です。
過去の実行履歴を体系的にアーカイブ化し、どのテストケースがどのバージョン・環境で実行され、どの不具合と関連していたかを整理します。
これにより、テスト管理ツールは単なる記録台帳から、品質の傾向を分析するダッシュボードへと進化します。
さらに、蓄積したデータを活用して再利用のサイクルを確立します。
失敗が多いテストや、滅多に失敗しないが工数を圧迫しているテストを洗い出し、優先度を見直すことで最適化を図ります。
共通部品や基本機能のテストを「品質資産」として整理し、新しいプロジェクトにも流用できるようにすることも有効です。
こうした改善が資産として積み上がる仕組みを作ることで、テスト設計工数の削減やAIを用いたテスト選定など、より先進的な効率化施策へとつなげることができます。
まとめ
テスト自動化を導入したにもかかわらず、期待したほどの効率化が実現しない最大の原因は、テスト実行の結果を効果的に活用し、プロセス全体を管理・統合する仕組みが欠けていることにあります。
自動化スクリプトが「点」で存在し、結果やデータが分散し、CI/CDパイプラインとの連携が弱いという「管理の壁」が、自動化によって削減したはずの工数を再び奪い返してしまうのです。
この課題を乗り越え、真の効率化を実現しているチームは、以下の3つの管理の仕組みを共通して持っています。
| カスタマイズ性の高いテスト管理ツール(TMT)で、多様なテスト種別や現場の独自のニーズを柔軟に受け入れ、ツールの定着率と可視化を促進している。 CI/CD・バグトラッキングとの高い連携性により、テスト実行から結果報告、不具合起票、再テストまでのサイクルを自動化し、手動での情報転記による断絶を解消している。 テスト結果の再利用を前提とした管理によって、過去の実行履歴を「積み上がる品質資産」として活用し、リグレッションテストの範囲を最適化し、工数削減につなげている。 |
これらの仕組みを導入し、継続運用を軌道に乗せるためには、以下の3ステップでのアプローチが不可欠です。
| 現状のテストプロセスを「見える化」する:ツール導入前に情報の分断箇所や非効率な手作業を特定し、ツールの選定基準を明確にする。 自動化と管理の両面で「継続運用できる」設計をする:ツールとスクリプトの連携(APIなど)を初期段階から設計し、チーム全体で無理なく更新・利用できる文化を醸成する。 再利用性の高い仕組みにアップデートしていく:蓄積したテストデータを分析し、失敗しやすいテストや高工数なテストの優先度を見直すことで、品質資産を“使い倒す”サイクルを確立する。 |
単に自動テストを実行する技術力だけでなく、その結果を組織全体で共有し、次の改善につなげる「管理の仕組み」こそが、開発スピードと品質を両立させる基盤となります。
テスト管理ツールを単なる記録台帳ではなく、品質改善のためのダッシュボードとして活用することが、手動テストの負荷を減らし、チームの生産性を向上させる(将来のメリット・ベネフィット)ための最善策となるでしょう!
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ
