システムテストの見えないムダと戦った、ある品質保証マネージャーの半年間

品質保証(QA)部門が、経営層から「コストセンター」として見られがちな状況は、多くのIT企業で共通の課題です。

特に「テストコストが想定を超過」という言葉は、品質保証マネージャーにとって最も重い言葉の一つでしょう。

今回の主人公、品質保証マネージャーの近藤 恒一もまた、コスト削減を迫られる中で「人を削る前に、ムダを疑え」という信念を抱き、組織の構造的な非効率に立ち向かうことを決意します。

彼のチームでは、Excel管理による情報分散、属人化した工数、再利用されないテストケースが蔓延していました。本記事は、近藤氏がどのようにこれらの**「見えないムダ」をデータで可視化し、会議室での厳しい議論を経て、テスト管理ツールのPoC(概念実証)を通じて現場の空気と組織の評価を劇的に変えた**、半年間の奮闘の軌跡を追います。人を減らさずにムダを減らした彼の「静かなる改革」は、いかにしてQA部門を「コスト」ではなく「競争力を支える資産」へと変貌させたのでしょうか。

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今回の主人公プロフィール

項目内容
氏名近藤 恒一(こんどう・こういち)
年齢42歳
職種品質保証マネージャー(QAマネージャー)
所属中堅IT企業(BtoB向け業務システム開発会社)
経歴新卒でSIer系IT企業に入社。開発エンジニアとして6年間、業務システムの設計・実装・テストを一通り経験。その後QA部門へ異動し、テスト設計・自動化推進・不具合管理プロセス改善などを担当。実務とマネジメント双方の経験を買われ、40歳で品質保証マネージャーに昇格。近年はテストコストの高騰と属人化に強い課題意識を持ち、組織改革に本格的に取り組んでいる。
性格冷静沈着で感情を表に出さないタイプ。現場の声を大切にする一方、意思決定では必ずデータと事実を重視。理想論より実現可能性を優先する現実派。部下を叱責することは少なく、数字と仕組みで納得させる指導スタイル。
信条「人を削る前に、ムダを疑え。」

①「またテストコストか…」から始まった朝

月曜の朝、品質保証マネージャー・近藤は、役員会議用の資料を前に深いため息をついていた。

そこに赤字で書かれているのは、今期三度目の言葉。

「テストコストが想定を超過」。

人は足りている。残業も抑制している。それでも予算は膨らむ一方だった。

「また“人数を減らせ”と言われるのだろうな…」

そう思うと、胃の奥が重くなる。

近藤のチームでは、テスター一人ひとりが各自のExcelでテストケースを管理していた。

引き継がれないノウハウ、誰にも見えない進捗、属人化したバグ報告。

それでも現場は必死だった。

誰かがサボっているわけではない。

むしろ全員が限界まで働いている。

それなのに「コストが高い」という評価だけが、数字として突きつけられてくる。

「これは…人が多いんじゃなくて、ムダが多いんじゃないか?」

その疑念が、近藤の中で確信に変わり始めていた。

② 会議室で突きつけられた「削減」の二文字

役員会議は、予想どおり厳しいものだった。

「品質は大事だ。だが、テスト費用が高すぎる」

「開発部は増員できていない。QA部門だけ例外にはできない」

「人員を一部減らす案も検討してほしい」

近藤は静かに深呼吸し、用意してきた資料を画面に映した。

「人数ではなく、“ムダ”を減らす提案をさせてください」

そこに映し出されたのは、

・テスト設計のやり直し時間

・環境構築の手戻り工数

・不具合管理の確認往復回数

といった、これまで誰も定量化していなかった“作業の影”だった。

「実は、全体工数の約28%が“重複作業”と“待ち時間”です」

会議室が静まり返る。

「人を減らせば、このムダはさらに増えます。

削るべきは“人”ではなく“非効率”です」

近藤は、初めて“根拠のある言葉”でコストの話をした。

③ 可視化で浮き彫りになった、4つの現実

会議を通過したのは、小規模なPoC(概念実証)の許可だった。

近藤はすぐに三つのプロジェクトを選び、テストプロセスの棚卸しを始めた。

そこで浮かび上がったのは、まさしく記事で語られていた四つの現実だった。

・テストケースは再利用されていない
 似たテストが、毎回ゼロから書き直されていた。

・不具合管理はツールが分断
 Excel、Slack、メールが混在し、最新状況は常に誰かの頭の中にしかなかった。

・環境が安定しない
 「自分の環境では再現しない」その一言で、数時間が消えていく。

・工数の内訳が誰にも説明できない
 「なんとなく忙しい」だけでは、経営は動かない。

棚卸しの数字を並べたとき、近藤は、それまで見えなかった“敵の正体”をはっきりと見た気がした。

④ ツール導入で、現場の空気が変わった瞬間

PoCで導入したテスト管理ツールは、最初こそ戸惑いの声もあった。

「今までのExcelの方が早い」

「入力が面倒くさい」

だが、3週間も経つと空気が変わった。

・過去のテストケースが検索で出てくる

・バグの状況がダッシュボードで一目でわかる

・進捗報告会が“状況共有”から“意思決定”に変わる

ある若手テスターが、ぽつりと口にした。

「初めて、自分たちの仕事が“繋がって”見えました」

その言葉を聞いたとき、近藤は、このプロジェクトが単なるコスト削減では終わらないと確信した。

⑤ 半年後、示せた“数字”が未来を変えた

PoCから半年後、近藤は再び役員会議の席に立っていた。

示したのは、感覚ではなく“数字”だった。

・テスト設計工数: 14%削減

・不具合修正の平均リードタイム: 22%短縮

・進捗レポート作成工数: ほぼゼロ

そして何より、リリース後の障害件数が明確に減少していた。

「これは単なるコスト削減ではありません」

「品質を“人の努力”から“仕組み”へ移行した結果です」

会議室に、静かな肯定の空気が流れた。

やがて取締役のひとりが口を開いた。

「QAは“コストセンター”だと思っていた。だが今は、“投資部門”だと思っている」

近藤は、胸の奥にあった重りが、音もなく溶けていくのを感じた。

⑥ 人を減らさず、ムダを減らした組織が手に入れたもの

もしあのとき、人を減らしていたら。

現場は疲弊し、品質は揺らぎ、結果的にもっと大きなコストを支払っていただろう。

しかし今、近藤のチームではこうした変化が起きている。

・浮いた工数で自動化と探索的テストを強化

・若手育成に時間を割けるようになった

・QA部門の発言力が、社内で明らかに変わった

「コスト削減」とは、誰かを削ることではない。

ムダの正体を見抜き、構造を変えることなのだ。

近藤はそう、静かに確信していた。

エピローグ:数字は、未来を語れるようになる

品質保証マネージャーという仕事は、成果が見えにくい。

不具合が起きないことが成果であり、何も起きないことが評価にならない世界だ。

だが今、近藤は違う。

「どれだけのムダを削り、どれだけの価値を生んだか」

それを数字とストーリーで語れる立場になった。

テストは、コストではない。

企業の競争力を支える、静かな資産なのだ。

まとめ

品質保証マネージャーの近藤が辿った半年間の道のりは、「テストコスト削減」という課題に対して、人員削減という安易な選択肢ではなく、構造的な非効率を徹底的に排除するという、本質的な解決策があることを示しました。

近藤氏が実現したのは単なる工数削減ではなく、以下の要素を核とした「品質保証プロセスの仕組み化」です。

データによる説得力: これまで定量化されていなかった「重複作業」や「待ち時間」といった見えないムダを数字で可視化し、経営層に対して「人を削る前に非効率を削る」という根拠を示しました。

統合管理による現場の変化: テスト管理ツールの導入により、分散していたテストケースやバグ情報、進捗状況を統合。現場は「繋がっている」感覚を得て、進捗報告が意思決定へと変わるほどの変化を遂げました。

QA部門の価値転換: テスト設計工数やリードタイムの削減、リリース後の障害件数減少といった明確な実績(数字)を示すことで、QA部門は「コストセンター」から「企業の競争力を支える投資部門」へと評価を転換させることに成功しました。

近藤氏のストーリーは、QA部門の成果が「何も起きないこと」ではなく、「どれだけのムダを削り、どれだけの価値を生んだか」を数字とストーリーで語れるようにする重要性を教えてくれます。

ムダとの戦いに勝利した組織は、浮いた工数を未来への投資(自動化や育成)に振り向け、テストを静かな資産へと変えることができるのです。

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ