適正なテストサイズを決定する方法

開発プロセス全体の効率化を図るためには、限られた時間とリソースの中で、いかに効率的にテストを行うかが重要になります。

従来のように、網羅的なテストを時間をかけて行うのではなく、本当に必要なテストを見極め、無駄なテストを省くことで、効率化を図り、価値を生み出すことができます。

では、「本当に必要なテスト」とは、どの程度の規模なのでしょうか?

テストサイズが大きすぎると、

・テスト工数が増加し、コストがかさんでしまう

・テスト期間が長くなり、リリースが遅れてしまう

・テストの焦点がぼやけ、重要なバグを見逃してしまう

といったリスクがあります。

一方、テストサイズが小さすぎると、

・テストの網羅性が不足し、重要なバグを発見できない

・リリース後にバグが発覚し、修正コストが増加してしまう

・ユーザーに迷惑をかけてしまい、信頼を失ってしまう

といったリスクがあります。

そこで今回はこれらの疑問に答え、適切なテストサイズを決定するための方法について詳しく解説していきます。

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テストサイズに影響する要素

ソフトウェアテストのサイズを決める要因は、プロジェクトによって様々です。まるで、洋服のサイズを選ぶように、プロジェクトのサイズに合ったテストサイズを選ぶ必要があるのです。

主な要因としては、以下の4つが挙げられます。

テストでカバーされる機能や動作の範囲と深さ

開発するソフトウェアの規模や複雑さによって、テストの範囲と深さは異なります。

例えば、シンプルな機能を持つ小さなアプリであれば、テスト範囲は狭く、テストの深さも浅くて済みます。

しかし、複雑な機能を持つ大規模なシステムであれば、テスト範囲は広くなり、テストの深さも深くなる必要があります。

テストするアプリケーションの種類

Webアプリケーション、モバイルアプリケーション、デスクトップアプリケーションなど、アプリケーションの種類によって、テストの方法は異なります。

例えば、モバイルアプリケーションでは、様々な機種やOSバージョンでの動作確認が必要になるため、テストサイズが大きくなる傾向があります。

チームが従う開発手法

ウォーターフォール型開発、アジャイル開発、DevOpsなど、開発手法によって、テストの進め方が異なります。

アジャイル開発では、短いサイクルで開発とテストを繰り返すため、テストの自動化が重要になります。

テスターの知識や専門性

テスターの経験や知識、スキルレベルによって、テストの効率や質は大きく変わります。経験豊富なテスターであれば、効率的にテストケースを設計し、実行することができます。

テスト作業の計画

これらの要素を考慮しながら、テスト作業を計画する必要があります。

例えば、

・プロジェクトの規模が大きく、複雑な機能が多い場合は、テストサイズを大きくする必要があるでしょう。

・開発期間が短い場合は、テスト自動化などを活用して、効率的にテストを行う必要があるでしょう。

・テスターのスキルレベルが低い場合は、研修や教育を行う必要があるでしょう。

テストにおけるアプローチの多様性

各組織には、異なるニーズやチーム構造があり、製品やアプリケーションの優先順位も異なります。そのため、すべてのプロジェクトに適用できる万能のアプローチは存在しません。

それぞれのプロジェクトの特性に合わせて、テストサイズやテスト方法を柔軟に調整していくことが重要です。

テストサイズそれぞれの特徴

ソフトウェアテストには、様々な規模(サイズ)のテストがあります。

小さなテストから大規模なテストまで、それぞれにメリットとデメリットがあり、プロジェクトの特性に合わせて適切なテストサイズを選択することが重要です。

テストを実行する前に、テストの規模に応じたトレードオフを考慮する必要があります。

テストの粒度と範囲

テストの規模は、粒度と範囲という2つの要素で考えることができます。

・粒度:テスト対象の細かさ。例えば、単体テストは粒度が細かく、システムテストは粒度が粗い。

・範囲:テスト対象の広さ。例えば、単体テストは範囲が狭く、システムテストは範囲が広い。

小規模なテスト

小規模なテストは、特定の単一機能や領域に焦点を当てたテストです。主に、バグがなく正常に動作していることを確認するために実施されます。

例えば、単体テストは、プログラムの最小単位であるモジュール(関数やクラスなど)をテストする小規模なテストです。単体テストでは、モジュールが仕様書通りに動作するかを確認します。

大規模なテスト

大規模なテストは、複数の機能が連携して正しく動作するかを確認するテストです。システム全体をテスト対象とする場合もあります。

例えば、ユーザー受け入れテスト(UAT)は、システム全体がユーザーの要求を満たしているかを確認する大規模なテストです。UATでは、実際のユーザーに近い環境でテストを行い、システムの使い勝手や機能などを検証します。

小規模テストのメリット

小規模なテストには、以下のようなメリットがあります。

・実行と完了が迅速:テスト対象が小さいため、実行と完了が迅速です。そのため、開発の初期段階で頻繁に実行し、バグを早期に発見することができます。

・フィードバックを素早く得られる:テスト結果をすぐに確認できるため、開発者は問題点に迅速に対応することができます。

・再利用が容易:特定のコンポーネントや機能をカバーするため、他のプロジェクトやテストでも再利用することができます。

・効率が向上:テスト範囲が限定されているため、テストに必要なリソースや時間を削減することができます。

・コストと時間の節約:テストの実行時間や必要なリソースが削減されるため、コストと時間の節約に繋がります。

大規模テストの課題

一方、大規模なテストには、以下のような課題があります。

・実行に時間がかかる:テスト対象が大きいため、実行に時間がかかります。

・複雑:テスト環境の構築やテストデータの準備など、複雑な作業が必要になる場合があります。

・実行やメンテナンスに高い労力とリソースが必要:テストの実行や結果の分析、バグの修正などに、多くの時間と労力が必要です。

・保守や再利用が難しい:ソフトウェアの進化や変更に伴い、テストケースやテストスクリプトの修正が必要になることが多く、保守や再利用が難しい場合があります。

テストサイズを決定する際には、これらのメリットとデメリットを比較検討し、プロジェクトの特性に合わせて最適なサイズを選択することが重要です。

理想的なテストサイズを決定する方法

小規模テストと大規模テストのバランスが重要

ソフトウェアテストにおいて、適切なテストサイズを決定することは、効率性と網羅性のバランスを取る上で非常に重要です。

・小規模テスト:単体テストなど、小規模なテストは、実行速度が速く、メンテナンスが容易であるというメリットがあります。

・大規模テスト:統合テストやシステムテストなど、大規模なテストは、より広範囲なテストカバレッジを確保することができます。

ソフトウェアの品質を保証するためには、小規模テストと大規模テストをバランス良く組み合わせることが重要です。

再利用可能なブロックとしてテストを計画

テストケースは、可能な限り小さくシンプルに設計し、将来的に再利用できるようにしておきましょう。小さなテストケースを組み合わせることで、より複雑なシナリオをテストすることができます。

また、テスト管理プラットフォームを活用することで、複数のテストケースをグループ化し、テストスイートとして管理することができます。これにより、複雑なテストシナリオにも効率的に対応することができます。

テストセッションの時間管理

テストセッションは、60~90分以内に抑えることが理想です。

集中力が持続する時間には限界があるため、長時間のテストセッションは、テスターの疲労や集中力低下に繋がり、テストの質を低下させる可能性があります。

また、個々のテストは、15~45分程度の短いものにすることが推奨されています。40ステップ以上の長いテストは、分割してモジュール化することで、理解しやすく、メンテナンスしやすいテストケースにすることができます。

テスターの知識レベルに応じた手順作成

テストケースの手順は、テスターの知識レベルに合わせて作成する必要があります。

・テスターが専門家レベルの知識を持っている場合:簡略化された手順で対応できます。

・テスターが専門家ではない場合や、特別な手順が必要な場合:詳細なステップの説明が必要です。

誰にでも理解できる明確な手順書を作成することで、テストの精度を高め、人的ミスを減らすことができます。

テスト作成のガイドラインを整備

テストの均一性を保ち、品質を向上させるためには、チーム内でテスト作成のガイドラインを共有することが重要です。ガイドラインには、以下のような項目を含めることができます。

・1つのテストケースでカバーする画面数

・テストケースのステップ数

・テストに必要な情報やデータセット

自動化の導入

テストの自動化は、テストの効率化と費用対効果向上に大きく貢献します。

自動化ツールを使用

Selenium、Appiumなど、様々なテスト自動化ツールがあります。

これらのツールを導入することで、繰り返し行うテストや、大量のデータを扱うテストなどを自動化し、テストの効率化を図ることができます。

自動化に適したテスト

パフォーマンステスト、負荷テスト、回帰テストなど、長時間かかるテストや人的エラーが起こりやすいテストは、自動化ツールを使って実行することで、精度と効率を向上させることができます。

手動テストの重要性

自動テストの導入が進む一方で、手動テストの重要性も忘れてはいけません。

手動テストは、自動テストに比べて柔軟性や適応性が高く、探索的テストやユーザビリティテストなど、人間の感覚や判断が必要なテストに適しています。

重要なのは、手動テストと自動テストの適切なバランスを見つけることです。それぞれのテストの特性を理解し、適切に使い分けることで、効率的かつ効果的なテストを実施することができます。

まとめ

今回はソフトウェアテストにおける適切なテストサイズ決定の方法について解説しました。

テストサイズは、プロジェクトの規模や複雑さ、アプリケーションの種類、開発手法、テスターのスキルレベルなど、様々な要因によって変化します。

小規模なテストは、迅速に実行でき、再利用性も高いため、効率的です。一方、大規模なテストは、広範囲なテストカバレッジを確保できますが、時間とコストがかかる傾向があります。

適切なテストサイズを決定するためには、小規模テストと大規模テストのバランスを考慮し、プロジェクトの特性に合わせて柔軟に調整することが重要です。

テストケースを可能な限り小さくシンプルに設計し、再利用可能なモジュールとして管理することで、テストの効率化を図ることができます。

また、テストセッションの時間管理やテスターの知識レベルに合わせた手順作成、チーム内でのガイドライン共有なども、テストの効率化に役立ちます。

さらに、自動テストを効果的に活用することで、テストの効率と精度を向上させることができます。

ただし、自動テストだけでは不十分であり、手動テストと組み合わせることで、より効果的なテストプロセスを構築することができます。

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ