モデルベーステスト(MBT)とは?そのメリットや進め方を徹底解説!

アジャイル開発やCI/CDの普及により、テストの効率化と品質維持の両立は喫緊の課題です。手動テストや従来のテスト自動化だけでは追いつかないと感じていませんか?
今回は次世代のテスト手法として注目されている「モデルベーステスト(MBT)」について、その定義から導入のメリット、課題、具体的な進め方まで、ソフトウェアQAエンジニアが知りたい情報を網羅的に解説します!

モデルベーステスト(MBT)とは
モデルベーステスト(MBT)とは、ソフトウェアの振る舞いや構造を抽象化した「モデル」を基にテストケースを自動生成するテスト手法です。
従来のテスト手法では、開発者が作成した仕様書や要求定義書を読み解き、テストエンジニアが一つひとつ手作業でテストケースを作成していました。
これに対し、MBTではソフトウェアの設計や仕様をグラフィカルなモデルで表現することで、そのモデル自体がテストの設計書となります。
モデルには、状態遷移図、アクティビティ図、フローチャートなどが用いられます。
これらのモデルは、ユーザーがアプリケーションをどのように操作するか、どのような状態を経て処理が進むかといった、ソフトウェアの振る舞いを明確に示します。
このモデルからテストツールが自動的にパスをたどることで、網羅性の高いテストケースが効率的に生成される仕組みです。
モデルを活用したテスト設計の特徴
モデルを用いることで、テスト設計プロセスは大きく変わります。
従来のテスト設計では、仕様書を読み込んでテスト観点を洗い出し、テストケースを記述するという、属人性が高く、工数のかかる作業が必要でした。
一方、MBTでは、モデルを作成する段階でテスト観点が自然と洗い出され、抜け漏れをなるべく防げる設計が可能になります。
この手法の特徴は、テストケースを「作成する」のではなく、モデルから「生成する」という点にあります。
モデルがシステムの振る舞いを網羅的に表現しているため、そこから生成されるテストケースも高い網羅性を持ちます。
特定の機能やシナリオだけでなく、予期せぬ状態遷移や組み合わせも自動的に考慮されるため、テストの網羅性が飛躍的に向上します。
また、モデルはチーム内の共通認識ツールとしても機能します。
開発者、テストエンジニア、プロジェクトマネージャーなど、異なる役割を持つメンバーが同じモデルを参照することで、ソフトウェアの仕様に関する誤解を防ぎ、品質に対する共通の理解を築けます。
これにより、仕様変更にも柔軟に対応でき、コミュニケーションの齟齬を最小限に抑えられます。
他のテスト手法との違い
ブラックボックステストやホワイトボックステストといった従来のテスト手法は、テスト観点の洗い出しやテストケースの作成を手動で行うことが前提となります。
例えば、ブラックボックステストでは、仕様書を基に同値分割や境界値分析を用いてテストケースを作成しますが、テストエンジニアの経験やスキルに依存するため、テストの網羅性や効率にばらつきが生じることがあります。
これに対して、MBTはモデルからテストケースを自動生成するため、テストエンジニアの主観に左右されることが少なく、客観的で網羅性の高いテストが実現できます。
さらに、CI/CD環境との親和性も高く、継続的なテストの実行を容易に組み込めます。手動でのテストケースメンテナンスが不要になるため、アジャイル開発のように短い開発サイクルで頻繁に仕様変更が行われる現場でも、品質を安定して保てます。
しかし、MBTは導入の初期コストが高いという側面もあります。
モデルの作成には専門的な知識やツールが必要であり、ツールの使い方を習得する時間や、テスト対象のシステムを正確にモデル化するスキルが求められます。
この点は、手軽に始められる探索的テストなどとは異なるため、導入にあたっては慎重な検討が必要です。
モデルベーステスト(MBT)に使われるモデルの種類
振る舞いモデル
モデルベーステストにおいて最も一般的に使用されるのが、システムの振る舞いを表現する「振る舞いモデル」です。
これは、システムがユーザーの操作や外部からの入力に対して、どのような状態をたどり、どのような振る舞いをするかを視覚的に示したものです。
代表的なものとして、状態遷移図やアクティビティ図が挙げられます。
状態遷移図
状態遷移図は、システムの状態と、その状態間の遷移を明確に示します。
例えば、オンラインショッピングのシステムでは、「ログイン済み」「商品選択中」「支払い処理中」といった状態が定義され、ユーザーの操作に応じてこれらの状態がどのように変化するかが図で表現されます。
このモデルから、考えられるすべての状態遷移を網羅したテストケースを自動生成することで、予期せぬ状態への遷移やエラーを検出できます。
アクティビティ図
一方、アクティビティ図は、一連の処理やフローを表現するのに適しています。
たとえば、ECサイトでの注文から発送までのプロセスをモデル化する場合、ユーザーが商品をカートに入れ、支払い方法を選択し、注文を確定するという一連の流れを図で表現します。
このモデルは、プロセス全体における複数のパスをテストするのに役立ちます。
これらのモデルは、システムの動的な振る舞いを正確に捉え、テストの網羅性を高める上で非常に効果的です。
データモデル
モデルベーステストでは、システムの振る舞いだけでなく、処理されるデータの構造や関連性を表現する「データモデル」も重要な役割を果たします。
データモデルは、データベースのスキーマやXMLの構造、クラス図などを用いて表現されることが多く、システムが扱うデータの形式や制約を明確にします。
振る舞いモデルが「どのように動作するか」を扱うのに対し、データモデルは「どのようなデータを扱うか」に焦点を当てます。
このモデルを用いることで、データの入力値や形式に関するテストケースを自動生成することが可能になります。
例えば、ユーザー登録画面のテストでは、氏名が文字数制限を超えていないか、メールアドレスが正しい形式か、といったバリデーションチェックのテストケースを効率的に作成できます。
データモデルと振る舞いモデルを組み合わせることで、より現実的なシナリオに基づいたテストを実施できます。
たとえば、特定のデータ条件(例:在庫がゼロの商品)において、システムがどのように振る舞うかをモデル化することで、より深いレベルでの品質保証が可能になります。
これにより、システムの機能が期待通りに動作するかどうかだけでなく、様々なデータ条件下での堅牢性も検証できるようになります。
ビジネスルールモデル
ビジネスルールモデルは、システムの背後にあるビジネスロジックや規則を表現するために使用されます。
これは、特定の条件や状況に応じてシステムがどのような判断を下し、どのような振る舞いをすべきかを記述するものです。
例えば、ある商品が特定の金額以上の場合に割引が適用される、あるいは会員ランクに応じて送料が無料になる、といったルールがこれに該当します。
これらのルールは、決定表や決定木、ルールセットなどを用いてモデル化されます。
ビジネスルールモデルを活用することで、テストエンジニアは複雑なビジネスロジックを体系的に理解し、ルールが正確に実装されているかを検証するためのテストケースを自動生成できます。
これにより、単一の機能テストでは見落としがちな、複数の条件が絡み合うような複雑なケースも網羅的にテストできるようになります。
特に、金融システムや保険システムなど、厳格なビジネスロジックが求められる分野で、このモデルは非常に有効です。
ビジネスルールモデルを用いることで、仕様変更が発生した場合でも、ルールを修正するだけで関連するテストケースが自動で更新されるため、メンテナンスの手間が大幅に削減されます。
これにより、常に最新のビジネスルールに基づいたテストが実行可能となります。
モデル選定のポイント
モデルベーステストを導入する際、どの種類のモデルを使用するかは、テスト対象のシステムや目的によって慎重に選定する必要があります。
システムの性質を理解し、最も効果的なモデルを選択することが成功の鍵となります。
システムの動的な振る舞いや、ユーザー操作によって状態が変化するような性質を持つアプリケーションには、状態遷移図やアクティビティ図といった「振る舞いモデル」が適しています。
これにより、システムの遷移パスを網羅的にテストし、想定外の振る舞いを早期に発見できます。
一方、データの入力値検証や、データの構造的な整合性を重視する場合は「データモデル」が有効です。
これにより、データの境界値や不正な形式の入力に対するシステムの応答を詳細に検証できます。
また、複雑な計算や意思決定ロジックが含まれるシステムであれば、「ビジネスルールモデル」が最も力を発揮します。
このモデルを用いることで、複数の条件が絡み合うような複雑なビジネスロジックも、漏れなくテストできます。
一つのプロジェクトで複数のモデルを組み合わせて使用することも一般的です。
たとえば、システムの振る舞いを状態遷移図で表現し、それぞれの遷移で処理されるデータをデータモデルで定義することで、より包括的で精度の高いテスト設計が可能になります。
モデル選定においては、テストしたい対象の特性を深く理解し、それに最も適したモデルを選択することが重要です。
モデルベーステストのメリット
重要な部分にフォーカスできる
モデルベーステスト(MBT)を導入する大きなメリットの一つは、テストエンジニアがシステムの重要な部分に集中できる点です。
従来のテスト手法では、単純な入力値の組み合わせや網羅性の高いテストケースの作成に多くの時間と労力を費やす必要がありました。
しかし、MBTではこれらの定型的なテストケースの生成をツールに任せることができます。
これにより、テストエンジニアは、より複雑でクリティカルなシナリオの分析や、モデル自体に潜在する欠陥のレビュー、モデルの改善といった、高度な知的活動に時間を割くことが可能になります。
例えば、ユーザーの行動パターンやシステムの制約条件を考慮した複雑なテストパスを設計したり、特定の条件下でしか発生しないバグを探索するといった、人間でなければ発見が難しい問題に注力できます。
また、モデルをレビューすることで、開発プロセスの初期段階から仕様のあいまいさや矛盾を発見できるため、手戻りを減らすことにも繋がります。
テスト自動化の範囲を広げつつ、エンジニアが本来の専門性を発揮できる環境が整うことが、この手法の大きな強みです。
チーム間のコミュニケーションを容易にする
モデルベーステストの導入は、開発チーム全体のコミュニケーションを円滑にする効果も期待できます。
モデルは、システムの振る舞いや要件を視覚的に表現するため、開発者、テストエンジニア、プロダクトオーナーなど、異なる役割を持つメンバーが共通の理解を持つための共通言語として機能します。
例えば、仕様書を文章で記述する場合、解釈の違いから認識の齟齬が生じることがあります。
しかし、モデル(状態遷移図やアクティビティ図など)を用いることで、システムの挙動を誰もが同じように理解できます。
この共通認識は、仕様変更があった際にも威力を発揮します。
モデルを更新するだけで、チーム全体に新しい仕様が共有されるため、変更内容の伝達漏れを防ぎ、手戻りを最小限に抑えることが可能です。
また、テスト設計段階からモデルを共有することで、開発者はテスト観点を早期に把握でき、テストしやすいコードを書く意識が自然と高まります。
このように、MBTは品質保証活動を特定のチームだけでなく、プロジェクト全体で取り組む仕組みを構築するのに貢献します。
製品の初期段階での欠陥を発見・回避できる
モデルベーステストは、ソフトウェア開発プロセスの非常に早い段階から品質保証活動を組み込むことができます。
これは「シフトレフトテスト」の考え方と一致するものです。
従来のテスト手法は、開発が完了した後にテストを行うのが一般的でしたが、MBTでは要件定義や設計段階でモデルを作成するため、その時点で仕様の矛盾や欠陥を発見できます。
モデルは、システムの理想的な振る舞いを表現したものです。
このモデルを基にレビューを行うことで、論理的な誤りやあいまいな点が明らかになります。
たとえば、モデルに存在しない状態への遷移や、ビジネスロジックの矛盾といった、実装前にしか見つからないような問題を早期に特定できます。
実装後にバグが発見された場合、修正には多くの時間とコストがかかりますが、モデル段階で欠陥を修正できれば、手戻りによるコストを大幅に削減できます。
これにより、プロジェクト全体の効率が向上し、開発サイクルが短いアジャイル環境においても、高い品質を維持することが可能となります。
導入・メンテナンスの労力削減
モデルベーステストの導入には初期の学習コストやモデル作成の労力がかかりますが、長期的に見ればテストケースの作成とメンテナンスにかかる労力を大幅に削減できます。
従来のテスト手法では、仕様変更があるたびにテストケースを手動で更新する必要があり、特に大規模なシステムや頻繁に仕様変更が行われる環境では、このメンテナンスが大きな負担となります。
MBTでは、テストケースはモデルから自動生成されるため、仕様変更があった場合でも、モデルを修正するだけで新しいテストケースが自動的に生成されます。
これにより、テストケースのメンテナンス工数が劇的に削減され、常に最新の仕様に基づいたテストが実行できます。
また、テストケースを手動で作成する際に生じる抜け漏れや、テストエンジニアによる品質のばらつきも防げます。
一度モデルを構築してしまえば、以降のテスト設計やメンテナンスが効率化されるため、継続的な開発やCI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)といった現代的な開発手法と非常に高い親和性を持ちます。
結果として、プロジェクト全体の生産性が向上し、品質保証活動がよりスムーズに進むようになります。
テスト自動化との親和性
モデルベーステストは、テスト自動化との組み合わせでその真価を発揮します。
MBTは、モデルからテストケースを自動生成するだけでなく、テスト実行スクリプトの生成も自動化するツールが存在します。
これにより、テスト設計から実行までの一連の流れをシームレスに自動化することが可能になります。
従来のテスト自動化は、手動で作成したテストケースに基づいて自動化スクリプトを作成するため、テストケース自体のメンテナンスが必要でした。
しかし、MBTでは、モデルを更新するだけでテストケースと実行スクリプトの両方が自動的に最新の状態に保たれます。
これにより、テスト自動化のメンテナンスコストを最小限に抑えつつ、網羅性の高い自動テストを継続的に実行できる環境を構築できます。
アジャイル開発やCI/CDといった、迅速なリリースが求められる現場では、手動テストでは品質を担保するのが困難になります。
MBTとテスト自動化を組み合わせることで、開発者は安心してコードをデプロイでき、品質保証のボトルネックを解消できます。
この組み合わせは、テストの精度と効率を同時に高め、プロジェクト全体の成功に貢献します。
モデルベーステストの課題
マインドセットの移行
モデルベーステスト(MBT)を導入する上で、従来のテスト設計からマインドセットを切り替えることが最初の大きな課題となります。
従来のテスト手法では、テストエンジニアは要求定義書や設計書を基に、個々の機能やシナリオに対するテストケースを「手作業で作成」することに重点を置いていました。
しかし、MBTでは、テスト対象の振る舞いを「モデルとして抽象化」し、そのモデルからテストケースを「自動生成」するという根本的なアプローチの変化が求められます。
この変化は、テストエンジニアにとって大きな戸惑いを生む可能性があります。
テスト設計の考え方が、具体的なテストケースを記述することから、システム全体の振る舞いを俯瞰し、論理的に表現することへと変わるためです。
この移行を円滑に進めるためには、単に新しいツールを導入するだけでなく、チーム全体でモデルベースの考え方を理解し、共有する時間が必要です。
また、モデルを作成するプロセス自体がテスト設計となるため、開発プロセスの初期段階からテストエンジニアが関与する体制を構築することが重要になります。
必要なスキルセット
モデルベーステストを実践するには、従来のテストエンジニアが持っているスキルに加え、新たなスキルセットが求められます。
特に重要なのが、システムを抽象化してモデルを作成する能力と、そのモデルを分析・解析する能力です。
モデル作成には、UML(統一モデリング言語)の知識や、状態遷移図、アクティビティ図などのモデリング手法を理解していることが不可欠です。
また、単に図を作成するだけでなく、そのモデルがシステムの振る舞いを正確かつ網羅的に表現しているかを検証する能力も求められます。
これは、テストケースの網羅性を左右する非常に重要な要素です。
さらに、生成されたテストケースの妥当性を評価したり、不具合が発見された際にモデルのどこに問題があったのかを分析するスキルも必要となります。
これらのスキルは、単なるツールの使い方を覚えるだけでは身につきません。
論理的思考力と、システムの全体像を捉える抽象化能力を継続的に磨き上げていくことが、MBTを成功させる上で欠かせません。
抽象度の課題
モデルベーステストにおける大きな課題の一つが、作成したモデルの抽象度をどこに設定するかという問題です。
モデルはシステムの振る舞いを抽象的に表現しますが、抽象度が高すぎると、実装の詳細や現実の環境に存在する複雑な要因を十分に考慮できず、テストの有効性が低下する可能性があります。
一方で、抽象度が低すぎると、モデルが複雑になりすぎて作成やメンテナンスに多大な労力がかかり、MBTのメリットである効率化が失われてしまいます。
例えば、ユーザーインターフェースの細かな動きや、特定のハードウェアに依存する挙動などは、抽象的なモデルでは表現しにくい場合があります。
これにより、モデルから生成されたテストケースだけでは、不具合をすべて検出できない可能性があります。
モデルベーステストは万能ではなく、実装の詳細に起因するバグは、従来の探索的テストや手動テストと組み合わせて補完する必要があります。
モデルの作成者は、テストの目的や対象となるシステムの特性を考慮し、モデルと実装のギャップを最小限に抑えつつ、バランスの取れた抽象度を見極めることが求められます。
ツール導入のコストや学習曲線
モデルベーステストの導入には、専用のツールが不可欠であり、その導入コストや学習曲線が課題となることがあります。
MBTツールは、モデルの作成からテストケースの自動生成、そしてテスト実行環境との連携まで、一連のプロセスをサポートします。
しかし、これらのツールは高価なものが多く、小規模なプロジェクトや予算が限られている環境では導入が難しい場合があります。
また、ツールの操作方法や、それをプロジェクトに適用するためのノウハウを習得するには、ある程度の時間と労力が必要です。
特に、ツールの機能が多岐にわたる場合、そのすべてを使いこなせるようになるまでには、継続的な学習と実践が求められます。
加えて、ツールが既存のテスト自動化フレームワークやCI/CDパイプラインとシームレスに連携できるかどうかも重要な検討事項です。
連携がうまくいかない場合、テストプロセスが分断され、かえって非効率になる可能性があります。
これらの課題を克服するためには、導入前にツールの費用対効果を慎重に評価し、チームへの教育計画を立てるとともに、段階的なパイロット導入を検討することが有効なアプローチとなります。
モデルベーステストを導入するタイミング
システムが複雑化しテストケースが膨大になっているとき
モデルベーステスト(MBT)は、テスト対象のシステムが複雑になり、手動でのテストケース作成やメンテナンスが限界に達している状況で特に効果を発揮します。
ユーザーの操作シナリオや状態遷移が多岐にわたるシステムでは、考えられるすべてのパスを網羅的にテストしようとすると、テストケースが膨大になり、管理が困難になります。
このような状況では、従来のテスト手法ではテストの網羅性や効率が低下するリスクが高まります。
しかし、MBTを導入すれば、システムの振る舞いをモデルとして定義し、そこから網羅的なテストケースを自動生成できます。
これにより、テストエンジニアは複雑な組み合わせテストを効率的に実行できるようになり、手作業では見過ごされがちな欠陥を発見しやすくなります。
特に、組み込みシステムや金融システムなど、複雑なロジックや状態管理が求められる分野で、その真価が発揮されます。
要件変更が頻繁に発生する開発プロジェクト
アジャイル開発やCI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)といった開発手法が主流となる現代において、要件変更は日常的に発生します。
このような環境では、従来のテスト手法では、仕様変更のたびにテストケースをすべて手動で修正する必要があり、これが大きな負担となります。
テストケースのメンテナンスが追いつかず、テストの品質が低下するリスクも生じます。
MBTは、この課題を解決するための強力な手段です。
モデルがシステムの仕様そのものを表現しているため、要件変更があった場合は、モデルを更新するだけで関連するすべてのテストケースが自動的に更新されます。
これにより、テストケースのメンテナンス工数が大幅に削減され、開発のスピードを落とすことなく、高い品質を維持できます。
頻繁な変更に対応し、常に最新の仕様に基づいたテストを実行したいと考える場合に、MBTの導入は非常に有効な選択肢となります。
自動化基盤を活用しやすい環境
モデルベーステストは、テスト設計の自動化に加えて、テスト実行の自動化と組み合わせることで最大の効果を発揮します。
そのため、すでに何らかのテスト自動化基盤が構築されている、または導入を検討している環境は、MBTを始めるのに適したタイミングと言えます。
MBTツールの中には、SeleniumやAppiumといった既存のテスト自動化フレームワークと連携できるものが多く存在します。
モデルから生成されたテストケースを、これらのツールで実行可能なスクリプトに変換することで、テスト設計から実行までの一連のプロセスを自動化できます。
これにより、手作業によるテストケースの作成や実行、そして結果の確認といった一連の作業が効率化され、テスト全体の生産性が向上します。
もし現在のテスト自動化が特定のテストシナリオに限定されている場合、MBTを導入することで自動化の範囲を広げ、より網羅的な自動テストを実現できます。
コミュニケーション不足や仕様理解の齟齬を防ぎたい場面
開発チーム内で、要件や仕様に関する認識のズレが生じることが品質問題の大きな原因となることがあります。
特に、開発者とテストエンジニア間で、仕様の解釈が異なると、手戻りや余計な工数が発生しやすくなります。
このようなコミュニケーションの課題を解決する手段として、MBTは有効です。
モデルは、システムの振る舞いや要件を視覚的に表現するため、チームメンバー間の共通言語として機能します。
開発者、テストエンジニア、プロダクトオーナーが同じモデルを参照することで、文書による仕様書では伝わりにくかった内容も明確になり、認識の齟齬を防ぐことができます。
また、モデル作成のプロセス自体が、チーム間で仕様について議論し、理解を深める機会となります。
このプロセスを通じて、仕様のあいまいさが早期に明らかになり、手戻りを未然に防ぐことが可能です。
チーム全体の品質に対する意識を高め、より効率的な共同作業を実現したいと考える場合に、MBTの導入は大きな助けとなります。
モデルベーステストの進め方(プロセス)
モデル作成
モデルベーステスト(MBT)の最初のステップは、テスト対象となるソフトウェアの振る舞いを抽象化したモデルを作成することです。
このモデルは、システムの要件や仕様を表現した設計図のようなもので、状態遷移図、アクティビティ図、フローチャートなどが一般的に用いられます。
この段階がMBTの成功を左右する最も重要なフェーズと言えます。
モデル作成の目的は、単にシステムの挙動を図にするだけでなく、仕様のあいまいさや論理的な矛盾を明確にすることにもあります。
このため、開発者やプロダクトオーナーなど、関係者全員がモデル作成に関わることで、チーム全体の共通認識を築くことができます。
モデルは、人間が理解しやすいようにグラフィカルに表現されることが多く、複雑なシステムでも視覚的に把握しやすくなります。
この段階で抜け漏れのないモデルを作成することで、後のテストケース自動生成の精度と網羅性が担保されます。
モデルの正確性がテストの品質に直結するため、設計段階での十分なレビューと検証が不可欠です。
テストケース自動生成
モデルが完成したら、次に専用のMBTツールを使用して、そのモデルからテストケースを自動生成します。
この段階は、MBTの効率性を最も実感できる部分です。
従来のテスト手法では、複雑なパスや多数の組み合わせを考慮しながらテストケースを手動で作成する必要がありましたが、MBTではツールがモデルを解析し、考えられるすべての有効なテストパスを網羅したテストケースを自動的に生成します。
ツールは、モデル内で定義された状態や遷移、条件、そしてビジネスルールを基に、さまざまなテストシナリオを自動的に作成します。
たとえば、すべての状態を一度は通過するパスや、特定の条件を満たすテストパスなど、様々なテストパターンを効率的に生成できます。
これにより、テストエンジニアはテストケース作成にかかる膨大な時間を大幅に削減し、より価値の高い業務に集中できます。
また、手動では見落としがちな組み合わせや、予期せぬ遷移を伴うテストケースも自動的に生成されるため、テストの網羅性が飛躍的に向上します。
実行と結果確認
テストケースの自動生成が完了したら、生成されたテストケースを実行し、その結果を確認します。
MBTツールの中には、テストケースだけでなく、テスト実行スクリプトまで自動生成できるものもあります。
これらのスクリプトを既存のテスト自動化フレームワーク(Seleniumなど)と連携させることで、テスト実行プロセス全体を自動化できます。
テスト実行の結果は、モデルと照らし合わせて検証されます。
実行結果がモデルの期待する振る舞いと異なる場合、それはソフトウェアに不具合があるか、あるいはモデル自体に誤りがあることを示唆します。
この段階では、単にテストが成功したか失敗したかだけでなく、どのパスで不具合が発生したのかを詳細に分析することが重要です。
この分析結果を基に、ソフトウェアのバグを修正したり、モデルの不備を改善することで、品質を高めていきます。
このプロセスをCI/CDパイプラインに組み込むことで、コード変更が行われるたびに自動的にテストが実行される仕組みを構築し、品質保証活動を継続的に行うことができます。
モデルの継続的な改善・保守
モデルベーステストは、一度モデルを作成して終わりではありません。
ソフトウェアは開発を通じて常に変化していくため、モデルもそれに応じて継続的に改善・保守していく必要があります。
要件が変更されたり、新しい機能が追加された際には、モデルを最新の仕様に合わせて更新します。
モデルを更新すると、MBTツールが自動的に新しいテストケースを生成し、古いテストケースは不要になります。
これにより、従来のテスト手法で大きな負担となっていた、テストケースのメンテナンスが大幅に軽減されます。
また、テスト実行中に発見された不具合を基に、モデルに新たなテストパスや状態を追加することで、モデルの網羅性をさらに高めることも可能です。
この継続的な改善サイクルを回すことで、モデルの精度が向上し、より高品質なテストを効率的に実施できるようになります。
モデルを資産として捉え、プロジェクト全体で継続的に育てていく意識が、MBTを成功させる上で不可欠です。
まとめ
今回はソフトウェアの振る舞いを「モデル」として表現し、テストケースを自動生成するモデルベーステスト(MBT)について、その全貌を解説しました。
MBTは、従来のテスト手法とは一線を画し、テスト設計から実行までを体系的に効率化する強力なアプローチです。
システムの複雑化や頻繁な要件変更が常態化する現代の開発環境において、MBTは単なるテスト手法ではなく、品質保証活動そのものを革新するための重要な手段となります。
モデルという共通言語を用いることで、チーム内のコミュニケーションが円滑になり、開発プロセスの初期段階から潜在的な欠陥を特定できます。
もちろん、導入にはマインドセットの移行や新たなスキル習得、ツールのコストといった課題もありますが、これらは長期的なテスト効率と品質向上という大きなメリットに繋がります。
MBTの導入を検討する際は、まず小規模なプロジェクトでパイロット導入を試み、その効果を検証することをおすすめします。
モデルベーステストを活用し、テスト自動化をさらに高いレベルへと引き上げることで、品質保証のボトルネックを解消し、プロジェクトの成功を確実に掴み取ることができるでしょう!
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ