テストライフサイクル(STLC)とは?7つのフェーズとSDLCとの違いを解説

新規プロジェクトのテストリードを任され、「テストプロセスをどう進めるべきか」と悩んでいませんか?

過去に経験したリリース遅延を繰り返さないためには、体系的なテストアプローチが不可欠です。

そこで今回はソフトウェア開発における品質向上の鍵となる「テストライフサイクル(STLC)」について、その基本概念から具体的な7つのフェーズ、そして成果物までをわかりやすく解説します!

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テストライフサイクル(STLC)とは?

ソフトウェア開発における「テストライフサイクル(STLC)」とは、テスト活動を一連の工程として体系化したものです。

特定の国際的な標準団体(例えばISOやIEEE、JSTQBなど)が公式に定義したものではありませんが、業界で広く使われている「慣例的なフレームワーク」になります。

一般的にSTLCは、要件分析から始まり、テスト計画、設計、実行、完了までの一連の活動を指します。

多くの現場では、テストというと「開発が終わった後にバグを見つける作業」という認識がまだ残っているかもしれません。

しかしSTLCが目指すのは、開発プロセスの初期段階からテストの視点を取り入れ、品質向上を継続的に行うことです。

この考え方は「シフトレフト」と呼ばれ、後工程でバグが見つかることによる手戻りや、それに伴うコストの増大を防ぐ上で非常に重要です。

STLCは、開発ライフサイクル(SDLC)に内包される形で実行され、品質保証(QA)をより計画的、かつ効率的に進めるための強力なフレームワークとして機能します。

明確な計画に基づいてテストを進めることで、属人性を排除し、チーム全体のテスト品質を均一に保つことができます。

また、各フェーズで生成される成果物を通じて、テストの進捗状況や品質を定量的に評価・管理できるようになるため、プロジェクトの状況を客観的に把握しやすくなります。

STLCとSDLCの違い

ソフトウェア開発の世界では、STLCとSDLCという2つの重要な概念が存在します。

SDLCは「ソフトウェア開発ライフサイクル」の略で、企画から運用・保守に至るまで、ソフトウェア開発プロジェクト全体のプロセスを体系化したものです。

一方、STLCは「ソフトウェアテストライフサイクル」の略で、SDLCの中のテスト活動に特化したプロセスを指します。

この2つの関係を簡潔に言うと、STLCはSDLCに内包される、より詳細なプロセスだといえます。

SDLCが開発プロジェクト全体の「流れ」や「骨組み」を示すのに対し、STLCはその骨組みの中にある「テスト」という特定の領域を深く掘り下げた「専門的な作業手順」。

例えるなら、SDLCが家を建てる際の全体の工程表(土地探し、設計、建築、引き渡し)だとすれば、STLCは「建築」の工程にある「検査・品質チェック」に特化した詳細なマニュアルのようなものです。

SDLCのフェーズとSTLCの関連性

SDLCの一般的なフェーズは、以下の通りです。

1.企画・要件定義

2.設計

3.実装(コーディング)

4.テスト

5.導入・リリース

6.運用・保守

これらのフェーズに対し、STLCは特に「テスト」フェーズをより具体化し、6つのフェーズ(要件分析、テスト計画、テストケース開発、テスト環境構築、テスト実行、テスト評価、プロセス改善・フィードバック)に細分化して進行します。

重要なのは、SDLCのフェーズとSTLCのフェーズが完全に独立しているわけではない点です。

例えば、SDLCの「要件定義」フェーズで定義された内容が、STLCの「要件分析」フェーズでテスト可能な要件へと落とし込まれます。

また、SDLCの「設計」フェーズで作成されたドキュメントは、STLCの「テストケース開発」フェーズでテストケースを作成するための重要なインプットになります。

このように、STLCをSDLCに組み込むことで、開発プロセス全体を通じて品質を担保する仕組みを構築できます。

各フェーズで明確な成果物(テスト計画書、テストケース、テスト完了報告書など)が生まれるため、テストの進捗状況や品質を可視化し、プロジェクトの管理者や他の部署にもその重要性を説得力をもって説明できるでしょう。

これにより、単なる「バグ探し」ではない、体系的な品質保証活動としてテストを位置づけることが可能になります。

テストライフサイクルの7フェーズと成果物

テストライフサイクルは以下の7フェーズに分けられます。

・要件分析

・テスト計画

・テスト設計/テストケース開発

・テスト環境構築

・テスト実行

・テスト評価

・プロセス改善・フィードバック

それぞれについて詳しくみていきましょう。

要件分析

テストライフサイクルの最初のフェーズである要件分析は、プロジェクトの成功を左右する重要な段階です。

ここでは、開発の要件定義書や設計書といったドキュメント(テストベース)を深く読み込み、テストすべき内容を明確にします。

このフェーズでは、単に機能を理解するだけでなく、「何がテストの対象で、何がそうでないか」を定義し、テストの開始と終了の基準を明確化します。

この段階の主な成果物は、「テスト要求リスト」です。

テスト要求とは、テストの目的を達成するために満たすべき条件や機能のリストであり、これに基づいて以降のテスト計画や設計が進められます。

また、要件とテスト項目を結びつける「トレーサビリティマトリクス」を作成することも重要です。

トレーサビリティマトリクスは、各要件がどのテストケースで検証されるのかを一覧で管理するもので、要件の抜け漏れがないかをチェックし、テストの網羅性を確保するために不可欠なドキュメントです。

テスト計画

要件分析で定めたテスト要求をもとに、プロジェクト全体のテスト活動の方向性を定めるのがテスト計画フェーズです。

このフェーズでは、テストのスコープ(範囲)、リソース(人員、ツール)、スケジュール、コスト、そしてリスク管理の方針を策定します。

このフェーズの中心的な成果物は、「テスト計画書」です。

テスト計画書には、テストの目的、対象範囲、テストの進め方、実施するテストの種類(単体、結合、システムなど)、役割分担、そして品質目標を達成するための基準などが詳細に記述されます。

また、テスト自動化の導入方針や、どのようなメトリクス(欠陥密度、テスト実行率など)で進捗を管理するかもこの文書で明確にします。

テスト計画書は、テストチーム内だけでなく、開発者やプロジェクトマネージャー、顧客など、プロジェクトの関係者全体でテストに対する共通認識を持つための重要なコミュニケーションツールとなります。

これにより、テスト活動がプロジェクト全体の中でどのように位置づけられ、どのような役割を果たすのかを明確に伝えられます。

テスト設計/テストケース開発

テスト計画で策定した方針に基づき、実際にテストを実行するための具体的な準備を行うのがこのフェーズです。

ここでは、テストの条件を詳細に分析し、テストケースとテストデータを開発します。

このフェーズの成果物は、「テスト設計書」「テストケース」「テストデータ」「テスト設計マトリクス」などです。

テスト設計書では、テストの観点やアプローチを整理し、テスト対象の機能や画面ごとにテスト方針を明確にします。

テストケースは、実行する手順、入力データ、期待される結果を具体的に記述したもので、テスト実行の際の行動指針となります。

また、テストデータはテストケースを実行するために必要なもので、さまざまなケースを想定して準備します。

このフェーズで特に重要なのが、テストの観点を網羅的に洗い出すことです。

例えば正常な動作だけでなく、入力値が不正な場合や特定の条件下で発生する可能性のある問題など、多様な観点からテストケースを作成することで潜在的なバグを見つけやすくなります。

また、テストケースと要件を紐づけるトレーサビリティマトリクスを最新の状態に保つことで、テストの網羅性を常に把握できます。

テスト環境構築

テストを実行するためには、適切な環境を準備することが不可欠です。

このフェーズでは、テストケースを実行するためのハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、テストデータを揃えます。

主な成果物には、「テスト環境構築手順書」や「テスト環境準備チェックリスト」などがあります。

これには、OS、ミドルウェア、データベースのバージョン情報や、必要なツールの設定、テストデータの投入手順などが詳細に記載されます。

また、テストの前提となる環境の状態を「ベースライン」として定義し、すべてのテストが同じ条件で実施されるように管理することも重要です。

本番環境に近いテスト環境を構築することで、リリース後に発生しうる問題を事前に発見できる可能性が高まります。

しかし、本番環境と全く同じ環境を構築することが難しい場合も多いため、どこまで本番環境に近づけるか、そのリスクを許容できる範囲で決めることが求められます。

このフェーズの品質が、テストの信頼性に直結するため、抜け漏れなく、慎重に進める必要があります。

テスト実行

構築したテスト環境で、作成済みのテストケースを実際に実行するのがこのフェーズです。

テスト実行者はテストケースに書かれた手順通りに操作を行い、期待結果と実際の結果を比較して、合否を判定します。

このフェーズの成果物には、「テスト実行報告書」や「バグレポート」があります。

テスト実行報告書には、実行したテストケースの数、パスした数、失敗した数、未実行の数などを記録し、テストの進捗状況を可視化します。

また、テスト実行中に見つかった不具合(バグ)は、バグレポートとして詳細に記録されます。

バグレポートには、不具合の発生日時、再現手順、発生環境、期待される結果と実際の結果、不具合の深刻度や優先度などを具体的に記述します。

この情報が正確であるほど、開発者がバグを迅速に修正できるようになります。

テストの進捗状況と発見された不具合の状況を定期的に共有することで、プロジェクト全体の品質状況をタイムリーに把握し、必要に応じてリソースやスケジュールの見直しを検討することも可能です。

テスト評価

テスト実行が一定の基準を満たしたと判断された後、これまでのテスト活動全体を評価するのがこのフェーズです。

ここでは、テスト結果の分析を通じて、ソフトウェアの品質がリリースに値するかどうかを判断します。

主な成果物は、「テスト完了報告書」です。

この報告書には、テストの網羅率(カバレッジ)、発見された不具合の件数と傾向、未解決の不具合が持つリスクなど、テスト活動全体を俯瞰した分析結果がまとめられます。

また、テスト完了の基準(テスト計画で定めた終了基準)が満たされているかを確認し、最終的な品質評価を行います。

この評価プロセスは、客観的なデータに基づいてリリース判断を行うために不可欠です。

単にすべてのテストケースがパスしたからOKではなく、テストを通じて明らかになった品質上の課題や残存するリスクを明確にし、関係者全員が納得できる形でリリースを決定します。

この報告書は、今後の保守や改善活動の出発点にもなります。

プロセス改善・フィードバック

テストライフサイクルの最終フェーズは、今回のテスト活動を振り返り、次のプロジェクトに活かすための改善点を見つけ出すことです。

このフェーズの活動は「レトロスペクティブ(ふりかえり)」と呼ばれ、プロジェクトの終了時や、スプリントの区切りごとに行われます。ここでは、何がうまくいったのか(Good)、何が課題だったのか(Problem)、次は何を試すべきか(Try)といった観点で、テストプロセスを評価します。

このフェーズの成果物としては、「プロセス改善計画」や「アクションリスト」が挙げられます。

これらの文書には、テストの進め方、使用したツール、チーム間のコミュニケーションなど、改善すべき具体的な項目とそのためのアクションプランが記録されます。

この活動を通じて得られたフィードバックを、組織全体のテストプロセスに反映させることで、継続的な改善サイクルを回し、テスト品質を恒常的に向上させることができます。

これにより、過去の失敗を教訓とし、より効率的で高品質なテストプロセスを築き上げることが可能になります。

まとめ

今回はテストライフサイクル(STLC)の全体像と、各フェーズにおける具体的な活動、そしてSDLCとの関係性について解説しました。

STLCは、単なる「バグ探し」ではなく、開発プロセスの初期段階から計画的に品質を確保するための強力なフレームワークです。

要件分析から始まり、テスト計画、設計、実行、評価、そしてプロセス改善に至る7つのフェーズを体系的に進めることで、テスト活動の属人性を排除し、プロジェクト全体の品質を客観的に管理できます。

各フェーズで生成される成果物(テスト計画書やトレーサビリティマトリクスなど)を適切に活用すれば、チームメンバーや他部署にも品質の重要性を説得力をもって伝えられるでしょう!

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ