大規模プロジェクトにおけるテスト管理の実践

メガベンチャーという急成長の渦中において、開発チームの独立性はスピードの源泉です。

しかし、組織が拡大し、プロダクトやマイクロサービスが複雑に絡み合うフェーズに差し掛かると、これまでの「チームごとの個別最適」は限界を迎えます。

「隣のチームと品質基準が異なり、連携部分で障害が多発する」

「リリース直前の手戻りが増え、QAがボトルネック視されている」

「属人化したテスト運用により、組織のスケールに品質体制が追いつかない」

QAマネージャーや品質推進リードが直面するこれらの課題は、単なるリソース不足ではなく、組織全体の「テスト管理戦略」の欠如に起因しています。

QAはもはや、不具合を見つけるだけの「最後の砦」ではありません。

スピードと品質を両立させ、ビジネス価値を最大化する「事業成長の設計者」へと脱皮する必要があります。

そこで今回は大規模プロジェクトに適したテスト管理の全体設計から、現場と経営を繋ぐ可視化の仕組み、そして組織をパートナー型QAへと変革するロードマップまで、論理的かつ実践的なアプローチを詳しく解説します。

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目次

なぜ今、メガベンチャーに「全体最適のテスト管理」が必要なのか

チームごとにバラバラな基準が生む手戻りと障害増加

急成長を遂げるメガベンチャーにおいて、プロダクトごとに開発チームが独立して動く体制はスピード面で大きな利点があります。

しかし、それぞれのチームが独自の判断でテスト方針や品質基準を運用し始めると、組織全体で見れば深刻な摩擦が生じます。

結果として、リリース直前に他チームとのインターフェース不整合が発覚し、大規模な修正やスケジュール延期を余儀なくされるケースは少なくありません。

共通の物差しがない状態では、障害が発生した際の原因究明も難航し、現場の疲弊を招くだけでなく、ユーザーからの信頼を損なうリスクも高まります。

大規模プロジェクトにおいては、個別のスピード感を尊重しつつも、組織として譲れない一貫した品質の防衛線を引くことが、最終的な手戻りを最小化する鍵となります。

部分最適を積み上げても、組織全体の品質は上がらない理由

各チームがそれぞれの担当範囲で品質を追求する「部分最適」は、一見すると正しい努力に見えます。

しかし、複雑に絡み合う複数のプロダクトや基盤システムを持つ組織では、個別の最適化が必ずしも全体の成果に直結するわけではありません。

例えば、特定の機能でテストカバレッジを100%に近づけたとしても、それをつなぎ合わせるシステム全体のシナリオテストが疎かであれば、サービスとしての価値は担保できません。

また、各所で作られる独自のテストドキュメントや管理ツールは、知見の共有を阻害し、車輪の再発明を繰り返す原因となります。

QAマネージャーが注力すべきは、各ポイントの精度を上げること以上に、プロダクト間の境界線やデータフローを俯瞰した管理構造の構築です。

全体を貫くテスト戦略が不在のままでは、どれほど個々のテストを自動化しリソースを投入しても、組織としての品質レベルは頭打ちになり、非効率なコスト増大を招くだけの結果に終わってしまいます。

QAが「最後の砦」ではなく「事業成長の設計者」になるための視点転換

従来のQAは、開発プロセスの終盤で不具合を検出する「ゲートキーパー」や「最後の砦」としての役割を強く期待されてきました。

しかし、変化の激しいビジネス環境において、その役割に固執することは、皮肉にもリリースを阻むボトルネックとして扱われるリスクを孕んでいます。

今求められているのは、品質を単なる欠陥の有無ではなく、事業の競争力を支える戦略的資産と捉える視点の転換です。

QAリードは、開発初期段階からプロダクトマネージャーや経営層と並び、どのレベルの品質がビジネス上の優位性をもたらすのかを定義する立場に回る必要があります。

テストを「守り」の作業から、自信を持ってプロダクトを市場に送り出すための「攻め」の設計プロセスへと昇華させることで、QAは組織における価値創出の中核へと変化します。

品質を制御可能な変数として捉え、事業戦略と連動したテスト管理を行うことが、持続可能な成長を支える土台となるのです。

急成長フェーズで破綻しやすい品質体制の共通パターン

組織が拡大し、エンジニアの数やプロダクト数が急増するフェーズでは、かつて機能していた暗黙知ベースの運用が通用しなくなります。

この時期に多くの企業が陥る失敗パターンは、場当たり的な人員補充による属人化の加速です。

標準化された管理プロセスがないまま人だけを増やしても、担当者のスキルや経験によってテストの精度が大きく揺らぎ、結果として管理コストだけが増大する悪循環に陥ります。

また過去の成功体験に縛られ、小規模チーム時代の密なコミュニケーションに依存した品質管理を続けてしまうことも、組織崩壊の予兆です。

ドキュメント化の遅れや品質メトリクスの不在により、全体像が見えなくなった状態で大規模なシステム変更を行うと、どこに影響が出るか誰も把握できないブラックボックス化が進みます。

こうした破綻を防ぐためには、成長の痛みが生じる前に、属人性を排除した構造的なテスト管理体制へと移行し、スケーラビリティを担保した組織設計を先手で進めておくことが不可欠です。

全体を俯瞰して設計する ― 大規模プロジェクトのテスト戦略

企画・設計段階から品質を組み込む考え方

大規模プロジェクトにおいて、テストを開発の最終工程として捉える従来の手法は、手戻りによるコスト増大を招く大きな要因となります。

品質を後から付け加えるのではなく、企画や要件定義の段階から品質の概念を組み込む「シフトレフト」の考え方が不可欠です。

プロダクトマネージャーや開発者と早い段階で対話を持ち、仕様の矛盾やテストのしにくさを初期に解消しておくことで、後の工程での大幅な修正を防ぐことができます。

これは単にバグを早く見つけるという話にとどまらず、事業が目指す価値が技術的に正しく実現可能かどうかを検証するプロセスでもあります。

QAマネージャーとしては、要件定義書を確認するだけでなく、ビジネス要件からどのようなテストシナリオが必要になるかを早期に提示し、チーム全体で品質に対する共通認識を形成することが求められます。

上流工程での働きかけが、結果として開発サイクル全体のスピードを高め、リリース直前の不確実性を排除する土台となります。

共通の品質基準を定義し、組織横断で揃える方法

マイクロサービス化が進み、複数のチームが独立して動くメガベンチャーでは、チームごとに品質へのこだわりが異なり、全体の整合性が崩れがちです。

これを解消するためには、組織全体で遵守すべき「共通の品質基準」を明文化し、標準化する必要があります。

まずはどのプロダクトにおいても最低限クリアすべき品質のボーダーラインを「品質特性」などのフレームワークを用いて定義します。

ただし、一律の基準を押し付けるだけでは現場の反発を招くため、各プロダクトのフェーズや特性に合わせてカスタマイズできる柔軟性も持たせることが重要です。

定義した基準は、チェックリストやテスト管理ツールを通じて各チームが日常的に参照できる状態にします。

これにより、QA担当者の主観に頼らない客観的な評価が可能となり、組織全体の品質が一定のレベルを下回らない仕組みが構築されます。

共通言語を持つことで、チームを跨いだ不具合報告や改善提案もスムーズになり、組織としての品質推進力が大幅に向上します。

リスクと事業インパクトを軸にした優先順位の決め方

すべての機能を網羅的に、かつ最高レベルの精度でテストすることは、限られたリソースとスピードが求められる環境では現実的ではありません。

そこで重要となるのが、リスクベースドテスティングの視点を取り入れた優先順位付けです。

具体的には、その機能に不具合が生じた際の「事業への影響度」と、技術的な「不具合の発生確率」の二軸でテストの比重を判断します。

決済システムや個人情報に関わる基幹部分など、障害が即座に大きな損失につながる領域にはリソースを厚く配分し、UIの微細な調整など影響が限定的な部分は自動化や簡易的な確認に留めるといった強弱をつけます。

この判断基準をPdMや経営層と共有しておくことで、万が一の障害発生時やリリース判断の際にも、論理的な裏付けを持って対話ができるようになります。

リスクを可視化し、戦略的に「何を捨て、何を守るか」を意思決定することが、大規模プロジェクトを管理するリードの重要な責務です。

「どこまでやるか」を明確にするテストの線引き

テスト活動において最も難しい課題の一つが、終了条件の定義、つまり「どこまでやれば十分か」という線引きです。

終わりなきテストはリリースのボトルネックとなり、逆に不十分なテストは信頼を失墜させます。

この線引きを明確にするためには、事前に定義した品質基準に基づき、テスト完了条件(Exit Criteria)を定量的に設定しておくことが不可欠です。

例えば重要なテスト項目の消化率だけでなく、未解決バグの数や重要度、自動テストの成功率、特定のコードカバレッジといった指標を組み合わせます。

また、全ての不具合をゼロにすることを目指すのではなく、許容可能なリスクの範囲を合意しておくことも重要です。

この線引きが明確であれば、現場のメンバーは迷いなく作業に集中でき、マネジメント層も自信を持ってリリースの決断を下せます。

属人的な判断を排し、あらかじめ合意されたルールに基づいてテストを終了させる仕組みを整えることが、持続可能な品質管理体制を実現するための最後の一歩となります。

マイクロサービス・複数プロダクトを横断する仕組みづくり

サービス単位の最適化と全体整合性をどう両立するか

マイクロサービスアーキテクチャを採用するメガベンチャーにおいて、各チームが自律的に開発を進める「サービス単位の最適化」は、リリースの迅速性を担保する上で極めて重要です。

しかし、個別の自由度を高めすぎると、組織全体の品質にばらつきが生じ、サービスを跨ぐ際の一貫性が失われるリスクがあります。

これを防ぐためには、各チームの裁量を尊重しつつも、組織全体で遵守すべき「品質のガードレール」を設ける設計が求められます。

具体的には、インターフェース設計やデータ整合性に関する最低限の共通ルールを定義し、それを自動化されたパイプラインで検証する仕組みを整えます。

QAマネージャーは、個別の機能テストには深く関与せず、サービス間を繋ぐハブとしての品質戦略に注力すべきです。

各チームが自律的に動ける範囲を明確にしつつ、全体のアーキテクチャに基づいた統合的なテスト方針を提示することで、スピードと信頼性の両立が可能になります。

連携部分で起きやすい不具合を防ぐ考え方

マイクロサービスや複数プロダクトが連携するシステムでは、個別のサービスは正常に動作していても、サービス間の通信やデータの受け渡し、外部APIの仕様変更に起因する不具合が頻発します。

こうした連携部分の不備を防ぐには、結合テストを待たずに各サービスの境界で検証を行う「コントラクトテスト」の導入が有効です。

提供側と利用側の間でインターフェースの仕様を合意し、その契約が守られているかを自動検証することで、他チームの変更による予期せぬ破壊を未然に防ぐことができます。

また大規模な環境では全てのサービスを同期させてテストすることが難しいため、スタブやモックを戦略的に活用し、依存関係を抽象化してテストを回す工夫も欠かせません。

物理的な接続に依存せず、論理的な整合性を早期に確認するアプローチへとシフトすることで、複数プロダクトが絡み合う複雑な環境でも、デプロイの心理的ハードルを下げ、手戻りの少ない開発サイクルを実現できます。

自動化を前提にした持続可能なテスト構造

急成長する組織において、手動テストをベースとした品質担保はすぐに限界を迎えます。

特に複数プロダクトを横断するプロジェクトでは、回帰テストの範囲が膨大になるため、自動化を前提としたテストピラミッドの再構築が不可欠です。

単体テストや統合テストといった低レイヤーの自動テストを開発チームが主体となって整備し、QA側はサービス間を跨ぐE2E(エンドツーエンド)テストなど、ユーザー体験に直結する高レイヤーの自動化に集中する体制を築きます。

ここで重要なのは、自動テスト自体がメンテナンスの負荷で形骸化しないよう、実行速度と安定性を考慮した設計にすることです。

不安定なテストを排除し、信頼性の高いテスト結果が常に得られる環境を整えることで、QA担当者は場当たり的な検証から解放され、より高度な品質改善施策に時間を割けるようになります。

持続可能な自動化は、属人化を防ぐだけでなく、組織が拡大しても品質が劣化しないための強力なインフラとして機能します。

機能軸だけでなく「性能・セキュリティ・安定性」など観点軸で整理する方法

大規模プロジェクトにおける品質保証は、画面上の機能が正しく動くかという「機能軸」だけでは不十分です。

メガベンチャーが抱える膨大なトラフィックや複雑なシステム構成を考慮すると、性能、セキュリティ、アクセシビリティ、耐障害性といった「非機能要件」をどう管理するかが事業の継続性を左右します。

これらの観点は各チームに任せきりにすると対応が後手に回りがちなため、QAマネージャーが中心となり、組織共通の「品質特性マップ」を作成して評価観点を整理することが有効です。

例えば、パフォーマンスであれば「APIの応答速度はこの閾値を維持する」、セキュリティであれば「このスキャンツールをCI/CDに組み込む」といった具体的な評価基準を観点ごとに定義します。

これにより、個別のプロダクト開発においても、重要な非機能的品質が見落とされるリスクを低減できます。

機能的な動作だけでなく、システムとしての堅牢性や信頼性を多角的に捉える視点を持つことで、経営層に対しても品質の価値を論理的に説明しやすくなります。

組織を動かすテスト管理の仕組みと可視化

テスト状況を経営と現場の両方に伝わる形で見せる方法

大規模プロジェクトにおいて、テストの進捗や品質状況を報告する際、相手の立場に合わせて情報を抽象化・具体化する視点が欠かせません。

経営層やビジネスサイドに対しては、細かなバグの数よりも「リリースに向けたリスクの残存状況」や「事業への影響度」を軸に報告を行います。

例えば重要機能のテスト完了率や、サービス停止に直結する致命的な不具合の収束傾向など、意思決定に直結する指標をダッシュボード化して提示することが有効です。

一方で、開発現場に対しては、どのモジュールに不具合が集中しているかといった具体的なボトルネックを可視化し、即座にアクションへ繋げられる情報を提供します。

このように、受け手の関心事に合わせて情報の解像度を調整することで、QAからの報告が単なる事務連絡ではなく、組織全体が共通の危機感や期待感を持って動くための判断材料へと進化します。

テストケース・不具合・進捗を横断的に管理する仕組み

複数プロダクトが並行して動くメガベンチャーでは、Excelやスプレッドシートによる個別のテスト管理は限界を迎えます。

情報のサイロ化を防ぎ、リアルタイムで全体像を把握するためには、テスト管理専用ツール(TMS)とBTS(不具合管理システム)を密接に連携させた横断的な管理基盤が必要です。

テストケースと不具合、そしてそれに関連する要件やコードの変更履歴を紐付ける「トレーサビリティ」を確保することで、ある不具合がどの機能に影響し、どのテストで検知されたのかを一目で追跡できるようにします。

また進捗状況をチームを跨いで共通のフォーマットで自動集計する仕組みを導入すれば、マネージャーが各チームに状況を確認して回る工数を削減でき、異常値が発生した際の早期検知が可能になります。

ツールをハブとして情報を集約することが、属人性を排除した論理的なプロジェクト推進の基盤となります。

属人化を防ぐルールとドキュメント設計

QAマネージャーが現場の板挟みになりやすい要因の一つに、テスト設計や実施判断が「特定の担当者の経験値」に依存している点が挙げられます。

この属人化から脱却するためには、ドキュメントの記述ルールやテスト設計の手法を標準化し、誰が担当しても一定の品質を維持できる仕組みを構築しなければなりません。

具体的には、テストケースの粒度や記述スタイルを揃えるためのガイドラインを策定し、レビュープロセスをワークフローに組み込みます。

ただし、過度な文書化はスピードを損なうため、自動テストのコード自体を仕様書として機能させたり、Wikiなどのナレッジベースを活用して「なぜそのテストが必要なのか」という意図を言語化して残す工夫が重要です。

知見が個人ではなく組織に蓄積される状態を作ることで、メンバーの入れ替わりや組織拡大にも耐えうる、持続可能な品質体制を築くことができます。

品質指標を「開発の敵」ではなく「共通言語」に変える工夫

バグの数やテスト消化率といった指標は、扱い方を誤ると現場にプレッシャーを与え、開発チームとの対立を生む「敵」になってしまいます。

品質指標を生産的な「共通言語」に変えるためには、指標を「犯人探し」のためではなく、「プロセスの課題を可視化し、より良いプロダクトを共に作るための羅針盤」として定義し直す必要があります。

例えば不具合密度が高い領域を特定した際、それを開発者のスキル不足と捉えるのではなく、設計の複雑さや環境の不備を解消するための投資判断の根拠として活用します。

またQA側だけで指標を決めるのではなく、開発やPdMと「今、自分たちが追うべき健全な指標とは何か」を議論し、合意形成を行うプロセスそのものが重要です。

数値が持つ意味をチーム全体で共有し、改善の喜びを分かち合える文化を醸成することで、QAはボトルネックではなく、事業成長を共に牽引するパートナーとしての地位を確立できます。

QAが価値創出の中核になるためのロードマップ

ボトルネック型QAからパートナー型QAへの転換

開発プロセスの最後に控えて不具合を指摘するだけの「ゲートキーパー」から脱却し、事業成長を共に推進する「品質パートナー」へと進化することが、メガベンチャーのQA組織には求められています。

これまでのQAは、リリースを止めるボトルネックとして扱われがちでしたが、上流工程から積極的に関与することで、仕様の考慮漏れや手戻りを未然に防ぐ価値提供が可能になります。

具体的には、PdMやエンジニアと同じ目線でプロダクトのロードマップを共有し、どの機能がユーザーにとって最優先の価値を持つのかを理解した上で、テスト戦略を最適化します。

不具合を見つけること自体を目的とするのではなく、いかに速く、かつ安全に価値を市場へ届けるかを追求する姿勢を示すことで、周囲からの信頼は確実に変わります。

守りの姿勢から一歩踏み出し、品質を武器に攻めの開発を支える存在へと視点を転換することが、価値創出の第一歩となります。

四半期単位で進める改善ステップの描き方

理想的な品質体制は一朝一夕には構築できないため、四半期(3ヶ月)を一つの区切りとした段階的なロードマップを描くことが現実的です。

最初の四半期では、現状の負債を可視化し、各チームでバラバラだった不具合管理やテスト報告のフォーマットを統一することに注力します。

次の四半期では、その基盤を元に共通の品質基準を導入し、特にリスクの高い領域へのテスト自動化を試験的に進めます。

さらにその次は、成功事例を横展開し、組織横断で品質データを自動集計できる仕組みを定着させるといった具合に、小さな成功を積み上げていきます。

四半期単位で明確な成果(マイルストーン)を設定することで、現場のメンバーは改善の実感を得やすくなり、経営層に対しても「今、品質組織がどこに向かっているのか」を論理的に説明しやすくなります。

場当たり的な対応を排し、計画に基づいた着実な進化を提示することが、持続可能な体制づくりに繋がります。

全体最適が機能しているかを測るチェックポイント

仕組みが形骸化していないか、全体最適が本当に事業に貢献しているかを確認するためのチェックポイントを設けることも重要です。

例えば「特定のチームだけでなく、組織全体で重大障害の発生件数が抑制されているか」「リリースサイクルが短縮され、かつ手戻りによる遅延が減っているか」といった指標が代表的です。

また数値だけでなく「QAが企画段階のミーティングに自然に呼ばれるようになっているか」といった現場の連携深さも、パートナー型QAへの移行を測る重要なサインとなります。

さらに、不具合が検知されるタイミングが、下流のテスト工程から上流の開発工程へとシフトしているか(シフトレフトの進捗)も確認すべき項目です。

これらのチェックポイントを定期的に振り返ることで、自らの判断や設計が正しい方向を向いているという確信を持つことができ、迷いなく次の一手を打つことが可能になります。

スピードと品質を両立し、経営と現場の両面から信頼される状態の実現方法

最終的に目指すべきは、QAの存在がプロダクトのスピードを加速させていると実感される状態です。

これを実現するためには、高度な自動化基盤の提供によってエンジニアが安心してコードを書ける環境を整える一方で、経営に対しては品質が事業の機会損失をどれだけ防いでいるかをデータで示し続ける必要があります。

現場の苦労と経営の期待という板挟みのストレスを、組織全体の品質ガバナンスを設計するという「やりがい」へと変換していくのです。

品質を「守るべきコスト」から「投資すべき競争力」へと定義し直すことで、QAマネージャーとしての評価は高まり、組織内での影響力も拡大します。

リリース速度を落とさずに品質を担保し続ける仕組みが動き出したとき、QAは単なる検査部門ではなく、メガベンチャーの急成長を支える最強のアクセルとして、現場と経営双方から絶対的な信頼を勝ち取ることになります。

まとめ

大規模プロジェクトにおけるテスト管理の要諦は、部分的な改善の積み上げではなく、全体を俯瞰した「仕組みの設計」にあります。

チーム横断の共通基準を設け、リスクに基づいた優先順位付けを行うこと。

そして、マイクロサービス間の境界をコントラクトテストや自動化で守り、品質指標を共通言語として組織に浸透させること。

これらの取り組みを通じて、QAは「リリースを止める存在」から「リリースを確信させる存在」へとその役割を変えていきます。

急成長フェーズにある組織の品質課題を解決するのは、容易なことではありません。

しかし、四半期単位で着実に改善のロードマップを歩み、属人性を排除した持続可能な体制を築くことができれば、QAは間違いなく事業成長の中核を担うアクセルとなります。

現場のスピード感を損なわず、かつ経営が求める信頼性を担保する。

その両立を実現したとき、QAマネージャーとしての価値は最大化され、組織全体に揺るぎない品質文化が根付くはずです。

まずは、今日からできる一歩として、組織全体の「品質のガードレール」を定義することから始めてみてはいかがでしょうか。

QA組織成熟度チェックリスト

各項目について、組織の状態が当てはまるか確認してください。

レベル1:場当たり的対応(属人化フェーズ)

☑️ テストの実施が特定の担当者の経験や記憶に依存している。

☑️ プロジェクトごとにテストケースのフォーマットや管理方法がバラバラである。

☑️ 不具合報告の基準が定義されておらず、起票漏れや情報の過不足が多い。

☑️ リリース直前に予期せぬ不具合が発覚し、日常的に「火消し」が発生している。

レベル2:プロセス標準化(部分最適フェーズ)

☑️ 組織内で共通のテスト管理ツール(TMS)や不具合管理システム(BTS)が導入されている。

☑️ テスト設計のガイドラインがあり、誰が書いても一定の粒度が保たれている。

☑️ リグレッションテスト(回帰テスト)の範囲が定義され、定期的に実施されている。

☑️ 基本的な品質メトリクス(不具合件数、テスト消化率など)の集計が始まっている。

レベル3:戦略的QA(全体最適フェーズ)

☑️ 「品質基準」が明文化され、プロダクトのフェーズに応じて柔軟に適用されている。

☑️ リスクベースドテスティングが導入され、事業インパクトに応じた強弱がついている。

☑️ マイクロサービス間の連携など、プロダクト横断のテスト方針が合意されている。

☑️ QAマネージャーが、プロジェクトの要件定義(企画段階)からレビューに参加している。

レベル4:自動化・継続的改善(効率化フェーズ)

☑️ CI/CDパイプラインに自動テストが組み込まれ、デプロイごとに検証が走っている。

☑️ テストピラミッドに基づき、ユニットテスト、APIテスト、E2Eテストが適切に配分されている。

☑️ 障害の振り返り(ポストモーテム)が定着し、再発防止策がプロセスに還元されている。

☑️ 非機能要件(性能・セキュリティなど)の評価が仕組みとして組み込まれている。

レベル5:ビジネスパートナー(価値創出フェーズ)

☑️ 品質指標が「開発の敵」ではなく、経営・PdM・開発の「共通言語」になっている。

☑️ QAの活動が、リリースの高速化とユーザー満足度の向上に直結していると社内で認識されている。

☑️ 蓄積された品質データから、将来の不具合発生リスクを予測・予防できている。

☑️ QA組織が事業戦略の一部として、品質の観点から新機能の提案や改善を行っている。

チェック後のアクション案

レベル1〜2が中心の場合:まずは「負債の可視化」と「フォーマットの統一」を四半期目標に設定し、属人化の解消を目指します。

レベル3が中心の場合:共通基準を武器に、開発・PdMを巻き込んだ「シフトレフト」の体制構築に注力します。

レベル4以上の場合:QAの成果を「事業利益(機会損失の防止やリリース速度の向上)」として数値化し、経営層へのプレゼンスを高めるフェーズです。

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ(マーケター、合同会社ぎあはーと代表)