テストの属人化を防ぐには
はじめに
ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、属人化は大きなリスク要因となります。属人化とは、特定の担当者に業務が集中し、その担当者しか業務内容を理解できない状態を指します。
例えば、あるシステムのテスト工程において、ベテランの担当者Aさんが長年培ってきた経験と勘に基づいてテストケースを作成し、単独でテストを実施しているとします。Aさんは豊富な知識とスキルを持つため、効率的にテストを進め、多くのバグを発見することができます。しかし、Aさんのみがテスト内容を把握しているため、Aさんが休暇や異動などで不在になった場合、他のメンバーはテストを引き継ぐことができません。
このような状態は、プロジェクトの進行に深刻な影響を与える可能性があります。Aさんが不在の間、テストが滞ってしまうだけでなく、Aさんしか知らないバグが潜在したまま製品がリリースされてしまうリスクも高まります。
属人化は、プログラミング工程だけでなく、テスト工程を含む開発プロセス全体で起こりうる問題です。特に、テスト工程は、要件定義や設計情報などのドキュメントだけでは網羅できない、担当者の経験や知識に依存する部分が大きいため、属人化のリスクが高いと言えます。
属人化を回避するためには、個人に依存した状態を解消し、チーム全体で情報を共有できる体制を構築することが重要です。具体的には、テストケースやテストデータ、バグ情報などをドキュメント化し、誰でもアクセスできる場所に保管する必要があります。また、テスト工程の標準化を進め、担当者によってテストの質にバラつきが出ないようにする必要があります。
属人化を解消することで、担当者が不在の場合でもスムーズにプロジェクトを進行できるようになり、品質の安定化、納期遵守、開発コストの削減といった効果も期待できます。
テストフェーズにおける属人化
ソフトウェア開発のテストフェーズにおいて、属人化は品質の安定化を阻む大きな要因となります。属人化とは、特定の担当者に知識や経験が集中し、その担当者しか業務内容を理解できない状態を指します。
テストフェーズの中でも、特に属人化のリスクが高いのが、単体テストや結合テストです。これらのテストレベルでは、開発者自身がテストを実施することが多く、検証チームによる一元的な管理が行き届かないケースが見られます。そのため、検証方法や検証項目、検証の粒度などが開発者ごとに異なり、機能によって品質にバラつきが生じやすくなります。
例えば、ある開発者は、詳細なテストケースを作成し、網羅的なテストを実施する一方で、別の開発者は、簡単なテストケースで済ませ、主要な機能のみを検証するといった状況が起こりえます。このような状況下では、バグの検出率に差が出てしまい、結果として製品全体の品質が不安定なものになってしまいます。
属人化のリスクは、単体テストや結合テストに限ったものではありません。テストベースとなる仕様書などの資料を分析する要件分析、テストケースを設計するテスト設計、実際にテストを実行するテスト実施など、テストフェーズのあらゆる工程で属人化は起こりえます。
各工程において、担当者のスキルや経験によって、潜在的な要件やリスクの抽出、効果的なテストケースの設計、バグの発見率などが左右されてしまうからです。そして、これらの知識や経験が、個人のみに蓄積され、チーム内で共有されないことが、属人化をさらに深刻化させてしまいます。
属人化が進むと、担当者が変更になるたびに、テストの質や基準が変化し、プロダクトの品質が安定しなくなります。これは、顧客満足度の低下や、企業の信頼を失墜させることにも繋がりかねません。
安定した品質の製品を開発し、顧客に安心して提供するためには、テストフェーズにおける属人化を防ぐための対策が不可欠です。
ナレッジ蓄積の難しいところ
テスト工程における属人化を防ぐためには、ナレッジの蓄積が不可欠です。しかし、実際にはナレッジを蓄積し、共有していくことは容易ではありません。
一見、ただ情報を記録していくだけの単純作業のように思えますが、効果的なナレッジ蓄積には、作業者一人ひとりの積極的な参加と継続的な努力が求められます。
テスト担当者は、日々の業務の中で、様々な知識や経験を得ています。例えば、
・新しいツールの使い方を習得した ・ある特定の条件下でバグが発生しやすいことを発見した ・効率的なテスト設計の方法を考案した |
など、貴重な情報が個人の頭の中に蓄積されていきます。
しかし、これらの情報を記録に残す作業は、担当者の自己判断に委ねられることが多く、
「記録するのは面倒だ」 「後でまとめて記録しようとして忘れてしまう」 「そもそも記録すべき情報だと気づかない」 |
といった状況が発生しやすいため、なかなか思うように進まないのが現状です。
また、ナレッジを蓄積するシステムやツールを導入したとしても、
・情報が整理されておらず、必要な情報を見つけにくい ・情報が古くなっており、最新の情報が反映されていない ・誰も更新しなくなり、放置されてしまう |
といった問題が発生し、せっかくのシステムが活用されないケースも少なくありません。
このように、ナレッジ蓄積は、個人の意識と組織的な取り組みの両方が揃って初めて成功すると言えるでしょう。
ツールを利用してナレッジを蓄積する
ナレッジ蓄積を効率的に行い、属人化を予防するためには、テスト管理ツールの活用が有効です。
従来のファイルベースでのナレッジ管理では、担当者による手作業での記録や更新が必要となるため、どうしても属人化や情報更新の遅れなどの問題が発生しがちでした。
しかし、テスト管理ツールを活用することで、これらの問題を解決することができます。
テスト管理ツールとは、テスト計画の作成からテストの実施、バグの管理まで、テスト工程全体を支援するためのツールです。近年では、多くのツールがナレッジ蓄積機能を備えており、テストの実施状況やバグ情報などを自動的に記録・蓄積することができます。
ツール上でテストを実施し、バグチケットを登録するだけで、関連する情報が自動的に紐づけられて蓄積されるため、担当者は別途ファイルを作成したり、メンテナンスしたりする必要はありません。
これにより、
・ナレッジの蓄積漏れを防ぐことができる ・常に最新の情報が共有される状態を維持できる ・誰でも簡単に情報にアクセスできるようになる |
といったメリットがあります。
また、ツールによっては、過去のテスト結果やバグ情報を分析し、傾向を可視化する機能も備えています。これらの機能を活用することで、
・品質の改善に繋がる知見を得ることができる ・テストケースの改善やテストプロセスの見直しに役立てることができる ・チーム全体のスキルアップを促進することができる |
といった効果も期待できます。
さらに、テスト管理ツールは、チームメンバー全員で共有して利用することが前提となるため、情報共有が促進され、コミュニケーションが活性化するといった副次的な効果も期待できます。
テスト管理ツールを導入することで、ナレッジ蓄積の効率化、属人化の予防、そしてチーム全体の品質意識向上を実現できるでしょう。
PractiTestでのナレッジの蓄積・参照方法
数あるテスト管理ツールの中でも、PractiTestは、柔軟なカスタマイズ性と優れたトレーサビリティにより、効率的なナレッジ蓄積と活用を支援するツールです。
PractiTestは、要件、テストケース、テスト実行結果、バグチケットといったテスト工程に関わるあらゆる情報を一元管理し、それらを相互に紐づけることで、トレーサビリティを確保しています。
例えば、ある要件に対して、どのようなテストケースが作成され、どのようなテスト結果となり、どのようなバグが発生したのか、といった一連の流れを簡単に追跡することができます。
また、「要件 – テストケース – 実行結果 – バグ」 の関連性をExcel形式でレポートとして出力する機能も備えています。レポートには各項目へのリンクが含まれており、詳細な内容をすぐに確認することができます。
PractiTestの特徴的な機能として、カスタムフィールドがあります。これは、各モジュール(要件、テストケース、テスト実行、バグ票)に任意の項目を追加できる機能です。
カスタムフィールドを活用することで、プロジェクトやチームの特性に合わせて、必要な情報を漏れなく記録することができます。さらに、必須項目を設定したり、パラメータの値を規定したりすることで、データの揺らぎをなくし、作業の標準化を促進することができます。
PractiTestでは、作業者が意識してナレッジを蓄積する必要はありません。ツール上でテストを実施し、必要な情報を選択・入力していくだけで、自然とナレッジが蓄積されていきます。
ただし、より効果的にナレッジを活用するためには、事前に 「どのような情報を蓄積する必要があるのか」「蓄積した情報をどのように活用するのか」 を明確にしておくことが重要です。
蓄積されたナレッジを参照する際には、フィルター機能を利用します。各モジュールにフィルター機能が備わっており、任意のタグやキーワードでデータを絞り込むことができます。フィルターは階層構造で管理できるため、効率的にデータを整理・検索することが可能です。
PractiTestで蓄積したナレッジは、様々な場面で活用することができます。
・テストケースの作成: 過去の要件とテストケースを参考に、テストの観点や粒度を確認することができます。 ・テスト結果の分析: テスト結果から、テストケースの有効性を評価し、改善に繋げることができます。 ・バグの分析: バグの内容や操作手順を分析することで、不足しているテストケースを発見することができます。 ・弱点の傾向分析: 類似する機能や製品のバグ情報を分析することで、弱点の傾向を把握することができます。 |
PractiTestを活用することで、ナレッジの蓄積と活用が促進され、テスト工程の属人化を効果的に防ぐことができるでしょう。
おわりに
近年のソフトウェア開発では、開発期間の短縮化が求められる傾向が強まっています。市場の変化が激しく、競争が激化する中、より迅速に製品をリリースすることが、企業の競争力を維持するために不可欠となっているからです。
しかし、開発期間の短縮は、開発プロセス全体における属人化のリスクを高める要因となります。限られた時間の中で、効率的に開発を進めるために、特定の担当者に業務が集中しやすくなるからです。
テスト工程においても、このリスクは存在します。特に、テストケースの作成やテストの実施は、担当者の経験や知識に依存する部分が大きいため、属人化が起こりやすくなります。
属人化が進むと、担当者が不在になった場合、テストの進捗が滞ったり、品質が低下したりする可能性があります。また、担当者ごとにテストの基準や方法が異なると、製品全体の品質にバラつきが生じる可能性もあります。
このようなリスクを軽減するためには、適切なテスト管理ツールの導入が有効です。テスト管理ツールを活用することで、テスト工程を標準化し、ナレッジを共有することができます。
ツールを選ぶ際には、ナレッジ蓄積の観点も重要です。テストの実施状況やバグ情報などを自動的に記録・蓄積できるツールを選ぶことで、担当者の負担を軽減し、ナレッジ共有を促進することができます。
PractiTestは、カスタマイズ性の高さ、柔軟なナレッジ蓄積機能、そして優れたトレーサビリティにより、属人化対策に効果的なツールと言えるでしょう。
PractiTestは、ユーザーのニーズに合わせて、様々な機能をカスタマイズすることができます。例えば、テストケースのフォーマットを統一したり、バグの報告プロセスを標準化したりすることができます。また、カスタムフィールド機能を利用することで、プロジェクトに必要な情報を自由に定義し、蓄積することができます。
PractiTestを導入することで、テスト工程の属人化を予防し、品質の安定化、納期遵守、そして開発コストの削減を実現できる可能性があります。
テスト管理業務の効率化ならPractiTest
システムテストを効果的に行うためには、優れたテスト管理ツールの導入が不可欠です。PractiTestは、プロジェクトごとのカスタマイズ性やすでにあるテスト資産の再利用性、他ツールとの連携性にすぐれた総合テスト管理ツールであり、あらゆるテスト活動を一元管理することができます。システムの品質向上とテスト業務の効率化を図りたいと考えているなら、ぜひPractiTestの導入を検討してみてください!
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この記事の監修
Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ