テスト成熟度モデルとは?現状の可視化で効率的なテスト活動を

直近のプロジェクトでテスト工程のばらつきが目立ち、リリース後の不具合が増加してしまった!

もしそんな課題に直面しているなら、その原因はテストプロセスそのものの未成熟さにあるのかもしれません。

経験や勘に頼ったテストから脱却し、組織全体の品質を安定させるためには、客観的な評価基準に基づいた体系的なアプローチが不可欠です。

そこで今回はテストプロセスの能力を段階的に評価し、改善の道筋を示す「テスト成熟度モデル」について、その概要から具体的な活用メリット、代表的なモデルまでを詳しく解説します!

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テスト成熟度モデルとは?

テスト成熟度モデルとは、テストプロセスの能力水準を段階的に評価・改善するためのフレームワークです。

組織のテスト活動が、初期段階から成熟した状態へと進歩するための指標を提供し、製品の品質向上、テストエンジニアリングの生産性向上、サイクルタイムの短縮などを目指します。

テスト成熟度モデルの活用メリット

テスト成熟度モデルは、自社のテストプロセスを改善するための強力なツールです。このモデルを導入・活用することで、様々なメリットが生まれます。

現状の可視化

テスト成熟度モデルの最も大きなメリットの一つは、組織のテストプロセスが現在どのレベルにあるのかを客観的に把握できる点です。

多くのテストチームは、個々のプロジェクトの成功や失敗に一喜一憂しがちですが、それが組織全体の課題のどこに起因するのか、全体像を掴むことは困難です。

成熟度モデルは、テスト計画、設計、実行、管理といった複数の領域にわたる詳細な評価基準を提供します。

これにより、属人的なスキルに依存している部分や文書化されていない非効率なプロセスなど、漠然とした「課題」を具体的な弱点として洗い出すことができます。

この客観的な評価結果は、チーム内での議論だけでなく、経営層への報告資料としても非常に説得力のあるものとなり、今後の改善活動の出発点となります。

改善目標の明確化

現状が可視化されると、次に取るべき行動が明確になります。

テスト成熟度モデルは、各レベルを達成するために何を実施すべきかを具体的に示しています。

例えば「テストプロセスは管理されているが、組織全体で標準化されていない」というレベル2の状態であれば、次のレベル3へ移行するために「テストプロセスの定義と文書化」「標準プロセスのチーム内共有のための研修実施」といった具体的な目標を設定できます。

このように、曖昧な「改善」という言葉を具体的なステップに落とし込むことで、チームメンバー全員が同じ方向を向いて取り組めるようになります。

また、段階的に目標を達成していくことで、改善の進捗を実感でき、チームのモチベーション維持にもつながります。

組織全体の品質向上

テスト成熟度モデルの最終的な目的は、ソフトウェア製品の品質を向上させることです。

プロセスの成熟度が上がるにつれて、テストはより体系的かつ効率的に実行されるようになります。

初期段階で発見される不具合が増え、リリース後の不具合が減少します。

これは、顧客満足度の向上に直結し、企業の信頼性向上にも貢献します。

例えば、成熟度が低い段階ではテストは単に不具合を見つける作業に過ぎませんが、レベルが上がるにつれて「品質を予測し、リスクを管理する」活動へと進化します。

データに基づいた定量的な管理が可能になれば、どのテストに注力すべきか、いつまでにどの程度の品質を達成できるかといった予測精度が高まり、より戦略的な品質保証が可能となります。

効率的なテストの実現

テスト成熟度モデルは属人的なテストプロセスからの脱却を促し、標準化されたプロセスによってテストの生産性を向上させます。

経験豊富なエンジニアの知識やノウハウを形式化し、組織全体で共有することで、誰が担当しても一定の品質を確保できるようになります。

プロセスが標準化されれば、テストの自動化やツールの導入もスムーズに進みます。

例えば、レベル4ではデータに基づく管理が可能となり、テスト結果の分析やトレンドの把握が容易になります。

これにより非効率な作業を特定し、自動化することで、テストにかかる時間とコストを大幅に削減できます。

効率的なテスト活動は開発サイクルの短縮にもつながり、市場への製品投入スピードを高めることにも貢献します。

テスト成熟度モデルの5つの成熟度レベル(TMMiの場合)

TMMiでは、テストの成熟度を以下の5つのレベルで評価します。 

レベル 名称特徴
レベル1初期テストプロセスが体系化されておらず、アドホック(場当たり的)に実行されている状態です。テスト結果の再現性がなく、品質基準も確立されていません。
レベル2定義テスト計画、テストケースなど、テストプロセスが定義され、文書化されるようになります。ただし、テストはまだ開発プロセスの後半で行われることが多く、要件を満たしているかどうかの確認が主目的です。
レベル3統合テストが開発ライフサイクル(例:Vモデル)に統合され、初期段階からテスト活動が行われるようになります。リスク管理に基づいてテストが実施され、開発者とはある程度の独立性を持ったテストが行われます。
レベル4管理・測定テスト活動が定量的に管理・測定されるようになります。要件や設計のレビューなど、ライフサイクルのすべての段階でテストが実施されます。テスト結果から欠陥の傾向などを分析し、プロセス改善に活用します。
レベル5最適化テストプロセスが継続的に改善される状態です。蓄積されたデータに基づき、プロセス全体の改善が推進されます。テスト自動化などを通じて、生産性と品質が向上します。

主な目的と機能

テスト成熟度モデルはテストプロセスを客観的に評価し、段階的な改善を促すためのフレームワークであり、その目的は多岐にわたります。

単に不具合を見つけるというテストの役割を、組織全体の品質向上を担う戦略的な活動へと進化させるための強力なツールとなります。

能力の可視化と評価

テスト成熟度モデルの最も重要な機能は、組織のテストプロセスが現在どの成熟度レベルにあるかを明確に示すことです。

多くの企業では、テスト活動が個人のスキルや経験に依存し、プロジェクトごとに品質にばらつきが生じがちです。

これにより上層部への報告や改善計画の策定が属人的で感覚的なものになり、説得力に欠けるという課題があります。

このモデルは、テストプロセスの計画、設計、実行、管理といった各領域について、詳細な評価基準を提供します。

例えば、TMMiのようなモデルでは、チェックリストや評価基準を用いて、現在のテスト活動が「初期」レベルなのか「管理」レベルなのかを客観的に診断できます。

これにより漠然とした「テストの品質が低い」という認識を、「テストプロセスが標準化されておらず、個々の担当者に依存している」といった具体的な課題として可視化できます。

この客観的な評価は、今後の改善活動の出発点となります。

改善の方向性

現状のレベルを把握した後は、次のレベルに到達するために何を実施すべきかが明らかになります。

テスト成熟度モデルは、各成熟度レベルを達成するために必要なプロセスを具体的に示しています。

例えばレベル2からレベル3へ移行するためには、「テストプロセスの定義と標準化」が必要であり、そのために「テスト戦略やテスト計画のテンプレート作成」「テストケースのレビュープロセスの導入」といった具体的な活動が求められます。

このように、モデルは曖昧な「改善」という目標を、具体的な行動計画へと落とし込む道筋を提供します。

これにより、チームメンバー全員が同じ方向を向き、計画的かつ段階的にテストプロセスの改善を進めることができます。

また、改善活動の進捗が明確になるため、経営層や関係者への報告も説得力のあるものになります。

標準化と体系化

テスト成熟度モデルは、テスト活動を体系的に管理し、標準化されたプロセスを確立することで、再現性の高いテスト品質を確保します。

属人的なテストプロセスでは、担当者が変わるとテストの品質や効率が低下するリスクがあります。

特に大規模な組織や複数のプロジェクトが並行して動いている場合、この課題は深刻になります。

モデルを活用することで、テストプロセスのベストプラクティスが組織全体に浸透し、文書化されます。

これにより誰が担当しても同じ手順でテストを進めることができ、品質のばらつきを抑えることができます。

また、プロセスの標準化は、テスト自動化やツールの導入をスムーズに進めるための基盤を築きます。

効率的で体系的なテストプロセスは、開発サイクルの短縮やコスト削減にもつながり、組織の競争力を高める上で不可欠な要素です。

品質向上

テスト成熟度モデルの最終的な目的は、体系的なプロセス改善を通じて最終的な製品の品質を高めることです。

テストプロセスが成熟するにつれて、不具合は開発サイクルのより早い段階で発見されるようになります。

初期段階で不具合を見つけることは、手戻りのコストを大幅に削減し、リリース後の重大なトラブルを防ぐことにつながります。

例えば成熟度が低い段階では、テストは単なる「動作確認」に過ぎませんが、レベルが上がるにつれて「品質を予測し、リスクを管理する」活動へと進化します。

データに基づいて欠陥発生率やテストカバレッジを分析し、リスクの高い機能にテストリソースを集中させることができます。

このようにモデルを活用することで、テスト活動がより戦略的になり、結果として高品質な製品を安定して市場に提供できるようになります。

これは、顧客からの信頼を獲得し、企業のブランド価値向上にもつながる重要な機能です。

代表的なテスト成熟度モデル

テストプロセスの成熟度を評価し、改善の道筋を示すためのフレームワークにはいくつかの種類があります。

ここでは、特に広く知られている代表的なモデルを紹介します。

これらのモデルは、組織のテスト活動がどの段階にあるかを客観的に把握し、次のステップへと進むための具体的な指針を与えてくれます。

TMMi (Test Maturity Model integration)

TMMiは、テストプロセスに特化して開発された成熟度モデルです。

ソフトウェア開発プロセス全体を扱うCMMIをベースに、テスト活動に焦点を当てて詳細に拡張されています。

このモデルは、テストプロセスの成熟度を5つのレベルで評価し、それぞれのレベルを達成するための目標や具体的なプラクティスを提示しています。

レベル1の「初期」ではテストプロセスが未定義で場当たり的な状態であるのに対し、レベル5の「最適化」では、テストプロセスが継続的に改善され、組織全体のテスト文化として定着している状態を目指します。

TMMiの最大の特徴は、テスト活動の各領域(テスト計画、設計、実行、管理など)について、詳細なガイダンスが用意されている点です。

これにより、単なる診断に留まらず、具体的な改善アクションを特定しやすくなっています。

組織が抱える課題(例えば、テスト計画が不十分、テストケース管理が属人的など)をTMMiのフレームワークに照らし合わせることで、どこから手をつけるべきか、どのような活動を優先すべきかが明確になります。

CMMI (Capability Maturity Model integration)

CMMIは、ソフトウェア開発やシステムエンジニアリングなど、組織全体のプロジェクトマネジメント能力を評価・改善するためのモデルです。

元々は、米国国防総省がソフトウェア開発の品質を評価するために考案されたCMM(Capability Maturity Model)をベースに、より幅広い分野に適用できるように統合・拡張されました。

CMMI自体はテストプロセス専門のモデルではありませんが、開発プロセスの重要な一部としてテストに関する指針も含まれています。

CMMIでは、プロジェクト管理、要求開発、構成管理、品質保証など、様々なプロセス領域(PA: Process Area)が定義されており、それぞれのプロセス能力をレベル1から5で評価します。

テストに関連するPAとしては、「検証」や「妥当性確認」などが該当します。

TMMiがテストそのものの改善に特化しているのに対し、CMMIはテストを含むより広範な開発プロセス全体の成熟度を評価するのに適しています。

組織が開発プロセス全体を包括的に改善したい場合や、開発部門と品質保証部門が連携してプロセスを向上させたい場合に、CMMIは有効なフレームワークとなります。

どちらのモデルを選択するかは、組織の目的や改善したい範囲によって異なります。

テストプロセスに特化して深く改善を進めたい場合はTMMiが適しており、より広範な開発プロセス全体の成熟度を高めたい場合はCMMIが選択肢となります。

まとめ

テスト成熟度モデルは、属人的なテストプロセスから脱却し、組織全体の品質と生産性を飛躍的に向上させるための強力なツールです。

今回解説させていただいたように、このモデルを活用することで、テスト活動の現状を客観的に把握し、次のステップへと進むための具体的な改善ロードマップを策定できます。

また、TMMiやCMMIといった代表的なモデルを理解することは、自社の課題に最適なフレームワークを選定する上で重要です。

テストの成熟度を高めることは、単に不具合を減らすだけでなく、開発サイクルを効率化し、経営層からの信頼を獲得することにも繋がります。

ぜひ、テスト成熟度モデルを日々の業務に取り入れ、チームのテスト文化を次のステージへと引き上げてください!

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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。

記事制作:川上サトシ