テスト自動化に向いているテストと向いていないテスト

ソフトウェア開発において、品質保証は非常に重要なプロセスです。
バグや不具合を早期に発見し修正することで、ユーザーに高品質なソフトウェアを提供できます。
テスト自動化は、この品質保証のプロセスを効率化し、品質向上に貢献する強力なツールです。
しかし、テスト自動化には向き不向きがあり、すべてのテストを自動化すれば良いというわけではありません。
そこで今回はテスト自動化の導入を検討しているシステムエンジニア向けに、自動化の基本的な内容と向いているテスト、向いていないテストについて解説します。

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手動テストの限界
手動テストはソフトウェア開発において伝統的なテスト手法ですが、多くの限界があります。
時間がかかる
まず、手動テストは反復的で時間がかかる作業です。
特に大規模なプロジェクトや複雑なアプリケーションでは、すべてのテストケースを手動で実行するのは現実的ではありません。
たとえば回帰テストでは、過去のバグが再発していないかを確認するために、多くのテストケースを実行する必要があります。手動でこれを行うには、多くの時間と労力が必要です。
コストが高い
次に、手動テストは人的リソースに大きく依存するため、コストが高くなりがちです。
テスト担当者の人件費や教育費、テスト環境の維持費などがかかります。
テストの品質を保ちづらい
手動テストでは、テスト担当者のスキルや経験によってテストの品質が左右されるため、品質を一定に保つのが難しい場合があります。
また、人間の手で行われるため、どうしても人的なミスが発生する可能性があります。
テスト担当者の集中力の低下や見落とし、テストケースの解釈の誤りなどが原因で、バグが検出されないことがあるのです。
テスト自動化がもたらすメリット
テスト自動化は、ソフトウェア開発における品質保証のプロセスを効率化し、多くのメリットをもたらします。
効率化
反復的なテスト作業を自動化することで、人的リソースをより創造的な業務に集中させることが可能です。
たとえば、毎晩行われるビルドの健全性テストを自動化すれば、開発者は朝一番にテスト結果を確認し、問題があれば迅速に対応できます。
これにより、手動テストでは数時間かかっていた作業を数分に短縮し、開発サイクル全体のスピードアップに貢献します。
テスト品質の向上
自動テストは人間が行う手動テストに比べて、一貫性と正確性が高いです。
事前に定義されたテストケースに基づいて実行されるため、人的なミスやばらつきを排除できます。
また、自動テストは、手動テストでは見落としがちな細かいバグやデグレードを検出するのに役立ちます。
たとえば、UIテストを自動化することで、異なるブラウザやデバイスでの表示を確認し、ユーザーエクスペリエンスの一貫性を保証できます。
開発スピードがアップ
さらに、テスト自動化は継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)のパイプラインに組み込むことで、開発プロセス全体を加速します。
新しいコードがコミットされるたびに自動テストが実行され、問題があれば即座にフィードバックが得られます。
これにより、開発者は迅速に問題を修正し、高品質なソフトウェアをより短い時間でリリースできます。
たとえば、APIテストを自動化することで、新しい機能が既存の機能に影響を与えないかを確認し、デプロイ前に潜在的な問題を特定できます。
テスト自動化導入の壁と解決策
テスト自動化は多くのメリットをもたらしますが、導入にあたってはいくつかの課題が存在します。
初期コストがかかる
まず、コストがかかる点です。テスト自動化ツールの導入やテストスクリプトの開発には、それなりの費用と時間がかかるでしょう。
特に、大規模なシステムや複雑なアプリケーションでは、自動化の範囲が広くなるため、初期投資も大きくなります。
この課題に対する解決策としては、段階的な導入が考えられます。
まずは自動化の効果が高いと考えられる部分から自動化を始め、徐々に範囲を広げていくことで、コストを分散させることが可能です。
また、オープンソースのテスト自動化ツールを活用することで、ツール自体のコストを抑えることもできます。
スキルを持つ人材を確保する必要がある
次に、テスト自動化に必要なスキルを持つ人材の不足が課題となります。
テスト自動化の導入や運用には、プログラミングスキルやテスト自動化ツールに関する専門知識が必要です。
しかし、これらのスキルを持つ人材は限られており、確保が難しい場合があります。
この課題に対しては、社内での研修や外部の専門家によるトレーニングを実施することで、人材育成を図ることが有効です。
また、テスト自動化ツールのベンダーが提供するサポートやトレーニングを活用することも、スキル不足を解消する手段となります。
仕組みのメンテナンスが必要
さらに、テスト自動化における仕組みのメンテナンスも重要な課題です。アプリケーションの変更やアップデートに伴い、テストスクリプトも修正する必要があります。
テストスクリプトのメンテナンスを怠ると、テストの信頼性が低下し、自動化の効果が薄れてしまいます。
この課題に対しては、テストスクリプトの設計時に、メンテナンスの容易性を考慮することが重要です。
たとえば、テストスクリプトをモジュール化したり、テストデータを外部ファイルに分離したりすることで、変更に強いテストスクリプトを作成できます。
また、CI/CDパイプラインにテスト自動化を組み込み、定期的にテストを実行することで、テストスクリプトのメンテナンスを効率化できます。
自動化に向いているテストとは?
ここではテスト自動化において向いているテストについてご説明します。
繰り返し作業が多いテスト
テスト自動化は、人が手動で行うと時間や手間がかかる反復的なテストに特に効果を発揮します。
たとえば、リグレッションテスト(回帰テスト)は、ソフトウェアの変更後に既存機能が正常に動作するかを何度も繰り返して確認する必要があります。
このようなテストは、自動化によって大幅な時間短縮と効率化が期待できます。
また、負荷テストも自動化に適しています。多数のユーザーが同時にアクセスする状況をシミュレートし、システムのパフォーマンスを測定する負荷テストは、手動では困難な複雑で時間のかかる作業です。
自動化ツールを使用すれば、これらのテストを効率的に実行し、より頻繁に実施することで、ソフトウェアの品質を向上させられます。
人的チェックではミスをしやすいテスト
人の集中力には限界があり、どうしてもミスをしてしまうことがあります。テストにおいても例外ではありません。
特に、複雑な計算や大量のデータを扱うテストでは、人的ミスが発生しやすくなります。テスト自動化を導入することで、このような人的ミスを大幅に減らすことが可能です。
たとえば、金融システムのテストでは、わずかな計算ミスが大きな問題につながることがあります。自動化されたテストは、常に正確で一貫性のある結果を提供し、人的ミスによるリスクを最小限に抑えることができます。
また、長時間にわたるテストや、深夜・早朝に行う必要のあるテストも、自動化によって人的負担を軽減し、テスト担当者の集中力を維持することに役立ちます。
操作項目や手順が事前に決まっているテスト
テスト自動化は、事前に明確な手順が決まっているテストに最適です。
たとえば、特定の画面の入力項目に対するテストや、決まった順序でボタンをクリックするテストなどが挙げられます。
これらのテストは、手順が明確であるため、自動化ツールで容易にスクリプト化できます。
一方で、仕様が頻繁に変更されるテストや、テスト担当者の判断が必要となる探索的テストは、自動化には不向きです。
テスト自動化を成功させるためには、テスト対象の仕様が安定しており、テストの手順が明確であることが重要です。
これにより、自動化スクリプトの作成と保守が容易になり、テストの効率と品質が向上します。
人手で行うよりも高い効果が出る可能性があるテスト
自動化には初期投資が必要ですが、長期的に見ると、人手で行うよりも大幅なコスト削減と効率向上が期待できる場合があります。
たとえば、頻繁にリリースを行うプロジェクトでは、毎回手動でテストを行うよりも、自動化されたテストスイートを実行する方が、時間とコストを節約できます。
また、自動化によってテストの実行頻度を増やし、より多くのテストケースをカバーすることで、ソフトウェアの品質を向上させることができます。
テスト自動化を検討する際には、自動化によって得られるメリットと、導入にかかるコストを比較し、長期的な視点で判断することが重要です。
テスト自動化に向いていないテスト
実施回数が少ないテスト
テスト自動化は、一度きり、あるいは数回しか実施しないテストには不向きです。
テスト自動化の導入には、スクリプトの作成やツールの設定など、一定の初期コストがかかります。そのため、実施回数が少ないテストでは、自動化にかかるコストが、手動でテストを行うよりも高くなる可能性があります。
たとえば、プロジェクトの初期段階で一度だけ実施するような特別な設定テストや、非常に稀なケースを検証するテストなどは、手動で実施した方が効率的な場合があります。
テスト自動化を検討する際には、テストの実施頻度と、自動化にかかるコストを比較検討し、費用対効果を見極めることが重要です。
物理的な作業をともなうテスト
テスト自動化は、ソフトウェアの操作やデータ入力など、デジタルな領域でのテストに強みを発揮します。
しかし、物理的なデバイスの操作や、実際の環境での検証を伴うテストは、自動化が困難な場合があります。
たとえば、ハードウェアの動作検証や、特定の環境下での機器の動作テストなどは、物理的な操作が必要となるため、自動化が難しい場合があります。
また、探索的テストやアドホックテスト、ユーザビリティテストのように、テスト担当者の創造性や判断力が求められるテストも、自動化には不向きです。
これらのテストは、人間の柔軟な思考や、状況に応じた臨機応変な対応が必要となるため、自動化ツールでは代替が難しい場合があります。
パターン化が難しいテスト
テスト自動化は、事前に明確な手順や条件が定義できるテストに効果を発揮します。
しかし、テストのパターンが多岐にわたり、事前に予測できないようなテストは、自動化が困難です。
たとえば、ユーザーの自由な操作によって動作が変化するようなテストや、複雑なアルゴリズムの検証などは、パターン化が難しく、自動化ツールの適用が難しい場合があります。
このようなテストは、人間のテスト担当者が、状況に応じて柔軟に対応する必要があるため、手動でのテストが適しています。
テスト自動化を検討する際には、テスト対象の特性をよく理解し、自動化に適したテストと、そうでないテストを見極めることが重要です。
機械では判断できない要素が含まれるテスト
テスト自動化は、数値データや論理的な判定など、機械的に判断できる要素を含むテストに効果を発揮します。
しかし、ユーザーの使い心地やデザインの美しさなど、主観的な評価が必要となるテストは、自動化が困難です。
たとえば、ユーザーインターフェースの使いやすさや、アプリケーションのレスポンスに対する体感的な評価などは、人間の感覚に依存するため、自動化ツールでは正確な評価が難しい場合があります。
このようなテストは、ユーザービリティテストなどの手法を用いて、人間の評価を直接収集する必要があります。
テスト自動化を検討する際には、テスト対象の特性をよく理解し、自動化に適したテストと、そうでないテストを見極めることが重要です。
無理に自動化せず人的チェックが望ましいテスト
必ずしも自動化することが最適とは限りません。
特に、テストの重要度が高い場合や、テスト結果のわずかな違いが大きな影響を与える可能性がある場合は、人間の目によるチェックが不可欠です。
たとえば、金融システムの取引テストや、医療機器の動作テストなどは、正確性が非常に重要であるため、自動化と並行して、人間のテスト担当者が結果を慎重に検証する必要があります。
また、テスト対象のシステムが頻繁に変更される場合、自動化スクリプトの修正に手間がかかり、かえって効率が低下する可能性があります。
このような場合は、柔軟に対応できる手動テストの方が適している場合があります。テスト自動化を検討する際には、テストの重要度やシステムの特性を考慮し、最適なテスト方法を選択することが重要です。
テスト自動化を成功させるための5ステップ
ステップ1:テスト自動化の目標設定
テスト自動化を導入する前に、明確な目標を設定することが重要です。
目標がないまま自動化を進めてしまうと、期待した効果が得られず、かえって時間やコストを浪費してしまう可能性があります。
目標設定では、まず「なぜテスト自動化を導入するのか」という目的を明確にします。
たとえば、「テスト工数の削減」「テスト品質の向上」「リリースサイクルの短縮」などが考えられます。
次に、具体的な目標値を設定します。たとえば、「テスト工数を〇%削減する」「〇〇の種類のテストを自動化する」など、定量的に評価できる目標を設定することで、進捗状況を把握しやすくなります。
目標設定は、テスト自動化プロジェクトの成功を左右する重要なステップであるため、関係者と十分に協議し、合意形成を図ることが大切です。
ステップ2:最適なテスト自動化ツールの選定
目標設定の次は、テスト自動化ツールを選定します。
ツールの選定は、自動化の効率と効果に大きく影響するため、慎重に行う必要があります。選定基準としては、まずツールの機能が、自動化したいテストの種類や範囲に対応しているかを確認します。
次に、ツールのコストが予算に見合っているか、導入や運用にかかる費用を総合的に評価します。
また、ツールのサポート体制が充実しているか、ドキュメントやコミュニティが整備されているかも重要な選定基準となります。
ツールによっては、ノーコードでテストを自動化できる「MagicPod」のように、プログラミングの知識がない人でも扱いやすいものもあります。
自社のテスト対象や規模、技術者のスキルに合わせて、最適なツールを選択することが重要です。
ステップ3:テストケースの自動化
ツールを選定したら、実際にテストケースを自動化していきます。自動化するテストケースは、事前に優先順位をつけておくことが重要です。
まずは、自動化による効果が大きいテストケースから着手し、徐々に範囲を広げていくと効率的です。テストケースの自動化では、テストスクリプトの作成やデータの設定など、一定の専門知識が必要となります。
テスト担当者のスキルに応じて、適切な教育やトレーニングを実施することも重要です。また、テストスクリプトは、可読性や保守性を考慮し、適切なコーディング規約や命名規則を設けることが望ましいです。
テストケースの自動化は、テスト自動化の成否を分ける重要なステップであるため、慎重かつ計画的に進める必要があります。
ステップ4:テスト環境の構築
テスト自動化を効果的に行うためには、安定したテスト環境が不可欠です。
テスト環境は、本番環境と同等の構成であることが望ましいですが、コストやセキュリティの制約がある場合は、必要なテストを実施できる最小限の環境を構築します。
テスト環境の構築では、テストデータの準備や環境設定の自動化なども検討すると、テストの効率が向上します。
また、テスト環境は、テストの実行中に他の作業に影響を与えないように、独立した環境を構築することが望ましいです。
テスト環境の構築は、テスト自動化の基盤となる重要なステップであるため、関係者と協力して、計画的に進める必要があります。
ステップ5:テスト結果の分析と改善
テスト自動化を実行したら、テスト結果を分析し、改善に繋げることが重要です。
テスト結果の分析では、まずテストの成功率や失敗率、テストの実行時間などを定量的に評価します。
次に、テストの失敗原因を特定し、ソフトウェアのバグやテストケースの問題点を特定します。テスト結果の分析結果は、開発チームやテストチームに共有し、ソフトウェアの改善やテストケースの修正に繋げます。
また、テスト自動化のプロセス自体も定期的に見直し、改善していくことが重要です。テスト自動化は、継続的な改善によって、その効果を最大限に発揮することができます。
まとめ
今回はテスト自動化の導入を検討しているシステムエンジニア向けに、自動化に向いているテストと向いていないテスト、そして自動化を成功させるためのステップを解説しました。
テスト自動化は、手動テストの限界を克服し、効率化や品質向上、開発スピードアップなど、多くのメリットをもたらします。一方で、初期コストやスキル不足、メンテナンスなどの課題も存在します。
自動化を成功させるためには、目標設定からツール選定、テストケースの自動化、環境構築、結果分析と改善という5つのステップを踏むことが重要です。
また、すべてのテストを自動化するのではなく、繰り返し作業が多いテストや人的ミスが発生しやすいテスト、事前に手順が決まっているテストなど、自動化に向いているテストを見極めることが大切です。
この記事が、テスト自動化の導入を検討しているシステムエンジニアにとって、有益な情報源となれば幸いです。
まずはホワイトペーパーをご覧ください!

この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ