テスト観点とは?その要素や作成方法、コツを徹底解説!

ソフトウェアテストにおいて、「テストの抜け漏れをなくしたい」「もっと効率的に質の高いテストケースを作りたい」「テスト設計のスキルを上げてチームに貢献したい」といった課題を感じている方も多いのではないでしょうか。
その鍵を握るのが「テスト観点」です。
テスト観点とは、ソフトウェアをどのような視点から評価し検証するのかを明確にしたものであり、効果的なテストを行うための基礎となります。
しかし、その重要性は理解していても、「具体的にどう洗い出せばいいの?」「テストケースと何が違うの?」といった疑問を持つこともあるでしょう。
そこで今回はそんなソフトウェアテスターや品質保証担当者の方々に向けて、「テスト観点」の定義から、テストケースとの違い、なぜテスト観点が重要なのか、テスト観点モデルの4つの要素、さらに実践的な作成方法と作成のコツを網羅的に分かりやすく解説します!

テスト観点とは?
ソフトウェアテストにおいて「テスト観点」という言葉を耳にすることは多いでしょう。
これは、テスト対象のソフトウェアやシステムを「どのような視点から」「何に着目して」評価し、検証するのかを明確にしたものです。
簡単に言えば、テストを行う際の「切り口」や「着眼点」と言い換えることができます。
例えば、あるログイン機能に対して、「正しいIDとパスワードでログインできるか」という機能面での観点もあれば、「不正な形式のIDを入力した場合にエラーメッセージは適切か」といったエラーハンドリングの観点、「多数のユーザーが同時にログインしようとした場合の応答速度はどうか」といった非機能面(性能)の観点など、様々な切り口が考えられます。
テストケースとの違い
テスト観点とテストケースは、ソフトウェアテストにおいて密接に関連するものの、その役割と具体性において明確な違いがあります。
テスト観点が「何を検証すべきか」というテストの対象や着眼点、つまり「視点」そのものを指すのに対し、テストケースは「その観点を具体的にどのように確認するか」という手順、入力データ、期待される結果を記述したものです。
言わば、テスト観点が「どこを見るか」という問いに対する答えだとすれば、テストケースは「そこをどうやって見るか、そして何が見えたらOKか」という具体的な行動計画と言えます。
例えば、「ユーザー認証機能」に対するテストを考える場合、「セキュリティ」というテスト観点があり得ます。
この観点から、具体的なテストケースとして「誤ったパスワードを5回連続で入力した場合、アカウントがロックされること」や「SQLインジェクションの脆弱性がないこと」などが作成されます。
つまり、一つのテスト観点から複数のテストケースが派生することが一般的です。
テスト観点に基づいてテストケースを作成
テスト設計のプロセスにおいては、まずテスト対象の仕様やリスクを分析してテスト観点を洗い出し、その後に各観点に基づいて具体的なテストケースを作成するという流れになります。
テスト観点が明確でなければ、テストケースの網羅性や妥当性を判断することが難しくなります。
逆に、テスト観点がないまま場当たり的にテストケースを作成しようとすると、重要なテストが抜け漏れたり、逆に冗長なテストが増える可能性があります。
したがって、テスト観点はテストケースを作成するための土台であり、質の高いテストケースを生み出すための指針となるのです。
経験の浅いテスターがしばしば混同しがちなこの二つの違いを正しく理解することは、効率的で効果的なテスト設計を行うための第一歩と言えるでしょう。
テスト観点がなぜ重要?
テスト観点を明確にすることは、質の高いテストを実施する上で非常に重要です。
なぜなら、テスト観点が曖昧なままでは、テストケースを作成する際に何を確認すべきかが不明確になり、結果としてテストの抜け漏れが発生しやすくなるからです。
また、テスト観点を事前に定義し共有することで、チームメンバー間でのテストの目的や範囲についての認識を統一し、手戻りを減らす効果も期待できます。
さらに、テスト観点を洗い出すプロセスを通じて、テスト対象の仕様理解を深めることにも繋がります。
このように、テスト観点は、効果的かつ効率的なテスト設計を行い、ソフトウェアの品質を保証するための基礎となる、不可欠な要素なのです。
実務経験を積んできたテスターや品質保証担当者にとって、このテスト観点をいかに的確に、そして網羅的に洗い出せるかが、スキルアップの鍵の一つと言えるでしょう。
テスト観点モデル4つの要素
効果的かつ網羅的なテスト観点を洗い出すためには、ある種のフレームワークやモデルに基づいて考えることが有効です。
ここでは、テスト観点を構成する主要な要素を4つに分類した「テスト観点モデル」をご紹介します。
このモデルを意識することで、漠然とテスト項目を考えるのではなく、体系的にテストの切り口を見つけ出し、テスト設計の質を高めることができます。
特に、複雑な機能のテストを担当する際や、テスト経験がまだ浅い場合に、思考を整理し、抜け漏れを防ぐためのヒントとなるでしょう。
①機能要素
テスト観点モデルの最初の要素は「機能要素」です。
これは、テスト対象となるソフトウェアやシステムの「何について」テストするのか、という具体的な機能や構成要素を指します。
言い換えれば、テストの対象範囲を明確にするための切り口です。
例えば、ECサイトであれば、
・ユーザー登録機能 ・商品検索機能 ・カート機能 ・決済機能 |
といった個別の機能がこれにあたります。
また、もっと細かく見て、
・パスワード変更機能 ・検索結果のソート機能 |
といった単位で捉えることもあります。
機能要素を洗い出す際には、仕様書や設計書を元に、ユーザーが利用する機能やシステム内部の主要な処理単位をリストアップします。
この時、単に大きな機能だけでなく、その機能を構成するサブ機能や、関連するデータなども考慮に入れることが重要です。
例えば、「ユーザー登録機能」という大きな機能要素の中には、
・メールアドレスの入力・検証 ・パスワードの入力・検証 ・利用規約への同意 |
といったより細かい機能要素が含まれているかもしれません。
このように機能要素を分解し、階層的に整理することで、テストすべき対象が明確になり、テストのスコープを定める上で役立ちます。
この段階で対象を正確に把握することが、後の検証アングルやパラメータ設定の精度を高める第一歩となります。
②検証アングル
テスト観点モデルの二つ目の要素は「検証アングル」です。
これは、特定された機能要素に対して「どのような側面から」品質を確認するのか、という検証の視点や切り口を指します。
機能が正しく動くか(正常系)だけでなく、予期せぬ動作をしないか(異常系)、使いやすいか(ユーザビリティ)、多くのユーザーが利用しても問題ないか(性能)など、多角的な視点からテスト対象を評価するためのものです。
例えば、「ユーザー登録機能」という機能要素に対して考えられる検証アングルとしては、
・機能性(正しく登録できるか、入力チェックは適切か) ・信頼性(登録処理中にエラーが発生した場合の復旧はどうか) ・ユーザビリティ(入力フォームは分かりやすいか、エラーメッセージは親切か) ・セキュリティ(パスワードは安全に扱われているか、個人情報は保護されているか) |
などが挙げられます。
ソフトウェア品質特性(ISO/IEC 25010など)を参考にすると、網羅的な検証アングルを洗い出しやすくなります。
この検証アングルを複数持つことで、単一の視点では見落としてしまう可能性のある不具合を発見し、ソフトウェアの品質を多角的に保証することに繋がります。
探求心の強いテスターにとっては、この検証アングルをどれだけ鋭く、そして幅広く設定できるかが、腕の見せ所とも言えるでしょう。
③テストパラメータ
テスト観点モデルの三つ目の要素は「テストパラメータ」です。
これは、機能要素と検証アングルを組み合わせた際に、テストの条件や状況を変化させるための具体的な「変動要素」を指します。
テストケースを作成する際に、どのような入力値や環境条件でテストを実施するかを決定するための手がかりとなります。
テストパラメータを適切に設定することで、様々な条件下でのソフトウェアの挙動を確認し、潜在的な不具合を発見する可能性を高めます。
例えば、「ユーザー登録機能」の「機能性」という検証アングルにおいて、テストパラメータとして
・メールアドレスの形式(正しい形式、不正な形式、空文字など) ・パスワードの文字数(最小文字数未満、最小文字数、最大文字数、最大文字数超など) ・ユーザー名に使用できる文字種(英数字、記号、日本語など) |
などが考えられます。
また、「性能」という検証アングルであれば、
・同時アクセスユーザー数 ・登録処理にかかる時間 |
などがテストパラメータとなり得ます。
これらのパラメータの値を具体的に変化させてテストを行うことで、ソフトウェアが期待通りに動作するか、あるいは予期せぬ問題が発生しないかを確認します。
テストパラメータの洗い出しには、同値分割や境界値分析といったテスト設計技法が役立ちます。この要素を意識することで、経験則だけに頼らない、より体系的なテスト条件の抽出が可能になります。
④確認ポイント
テスト観点モデルの四つ目の要素は「確認ポイント」です。
これは、特定の機能要素を特定の検証アングルとテストパラメータの組み合わせでテストした際に、「何をもって正しい(または誤り)と判断するのか」という具体的な検証項目や期待結果を指します。
テスト観点に基づいてテストを実施した結果、どのような状態になっていればOKで、どのような状態であればNGなのかを明確にするためのものです。
例えば、「ユーザー登録機能」の「機能性」という検証アングルで、「メールアドレスの形式」をテストパラメータとし、「不正な形式のメールアドレスを入力する」という条件でテストする場合、確認ポイントとしては
・エラーメッセージが画面に表示されること ・データベースに不正なデータが登録されないこと ・エラーメッセージの内容がユーザーにとって分かりやすいこと |
などが挙げられます。
また、「正常なメールアドレスとパスワードを入力する」という条件であれば、
・登録完了画面が表示されること ・登録完了メールが送信されること ・データベースにユーザー情報が正しく登録されること |
などが確認ポイントとなります。
この確認ポイントを具体的に定義することで、テストの合否判定が客観的になり、テスターによる判断のばらつきを防ぐことができます。
また、テストケースの期待結果を記述する際の基礎となり、テストの目的をより明確にする役割も果たします。
テスト観点の作成方法
効果的なテスト観点を洗い出すことは、質の高いテスト設計の第一歩です。
経験則だけに頼らず、体系的に観点を抽出するためには、いくつかのステップと考慮すべきポイントがあります。
対象のソフトウェアや機能の仕様を理解する
まず最も重要なのは、テスト対象となるソフトウェアや機能の仕様を深く理解することです。
仕様書や設計書を熟読するだけでなく、開発者やプロダクトオーナーに積極的に質問し、機能の目的、使われ方、技術的な制約などを把握します。
この理解が曖昧なままでは、的確なテスト観点を見つけ出すことは困難です。
テストベースを明確にする
次に、どのような情報源(テストベース)に基づいて観点を洗い出すかを明確にします。
仕様書はもちろんのこと、ユーザーストーリー、過去の類似プロジェクトで発生した不具合事例、競合製品の分析結果、さらにはユーザーからの問い合わせ内容なども貴重な情報源となり得ます。
これらの情報から、テストで確認すべきポイントのヒントを得ることができます。
観点をリストアップする
具体的な洗い出しの際には、ブレインストーミングやマインドマップといった手法を活用し、思いつく限りの観点をリストアップしてみるのが良いでしょう。
この段階では、質よりも量を重視し、多角的な視点から自由にアイデアを出します。
例えば、「ユーザーはどんな操作をするだろうか?」「どんなデータが入力されるだろうか?」「どんな環境で使われるだろうか?」「どんな間違いをしやすいだろうか?」といった問いかけが役立ちます。
また、機能面だけでなく、性能、セキュリティ、ユーザビリティといった非機能要件に関する観点も忘れてはいけません。
洗い出した観点は、グルーピングしたり、階層化したりして整理し、抜け漏れや重複がないかを確認します。
観点の優先順位をつける
最後に、プロジェクトのリスクや優先度に応じて、どの観点を重点的にテストするかを判断することも重要です。
このように段階を踏んで体系的にアプローチすることで、より網羅的で質の高いテスト観点を作成することが可能になります。
テスト観点作成のコツ
質の高いテスト観点を効率的に作成するには、いくつかのコツがあります。
これらを意識することで、テスト設計の精度が向上し、ソフトウェアの品質向上に大きく貢献できるでしょう。
ユーザー視点を忘れない!
まず大切なのは、常に「ユーザーの視点」を忘れないことです。
ソフトウェアが実際にどのように使われるのか、ユーザーがどのような価値を期待しているのかを想像することで、机上の仕様だけでは見えてこない重要な観点を発見できます。
例えば、操作の分かりやすさ、応答速度、エラー発生時の親切な案内など、ユーザー体験に関わる観点は特に重要です。
コミュニケーションは積極的に
次に、開発者や設計者との積極的なコミュニケーションが不可欠です。
仕様の意図や技術的な制約、潜在的なリスクなどを直接ヒアリングすることで、より深いレベルでテスト対象を理解し、的確な観点を洗い出すことができます。
疑問点は遠慮せずに質問し、認識の齟齬をなくすことが、後の手戻りを防ぐためにも重要です。
過去の事例や経験を活かす
また、過去のプロジェクトで発生した不具合事例や、類似システムのテスト経験も貴重な財産となります。
どのような箇所で問題が起きやすかったか、どのような観点がテストで有効だったかといった知見を活用することで、効率的にリスクの高い箇所を特定し、重点的なテスト観点を設定できます。
フレームワークやテスト設計技法を活用
さらに、テスト観点の洗い出しには、ISO/IEC 25010 (SQuaRE)のようなソフトウェア品質特性のフレームワークや、様々なテスト設計技法(同値分割、境界値分析、状態遷移テストなど)の知識が役立ちます。
これらの知識を組み合わせることで、より網羅的かつ体系的に観点を整理できるでしょう。
見直しと改善を繰り返す
最後に、一度作成したテスト観点も、プロジェクトの進行や仕様変更に合わせて定期的に見直し、改善していく柔軟性を持つことが、最終的な品質確保に繋がります。
まとめ
今回はソフトウェアテストにおける「テスト観点」の重要性、その定義、テストケースとの違い、具体的なテスト観点モデルの4つの要素(機能要素、検証アングル、テストパラメータ、確認ポイント)、そして実践的な作成方法と成功のためのコツについて詳しく解説してきました。
テスト観点を明確にすることは、単にテスト項目をリストアップする以上の意味を持ちます。それは、テストの目的を明確にし、抜け漏れを防ぎ、テストの効率と有効性を高め、最終的にはソフトウェアの品質を大きく向上させることに繋がります。また、体系的なアプローチでテスト観点を洗い出すスキルは、テスター自身の成長にも不可欠です。
今回紹介したテスト観点モデルや作成のステップ、そしてユーザー視点を持つことやチームとのコミュニケーションといったコツを意識することで、これまで経験則に頼りがちだったテスト設計から脱却し、より論理的で網羅的なテストアプローチを実践できるようになるでしょう。
テスト観点は、一度作成したら終わりではありません。
プロジェクトの進行や変化に合わせて柔軟に見直し、改善を続けることが大切です。
この記事で得た知識とヒントを日々の業務に活かしていただけたら幸いです!
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この記事の監修

Dr.T。テストエンジニア。
PractiTestエバンジェリスト。
大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。
2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。
記事制作:川上サトシ